三件目 悪霊に憑りつかれた青年の場合 その3
三話目です。
一時間後。
準備が完了した俺は渋谷さんがいる控室に入った。
「お待たせしました・・・ってこの状況は?」
アルダミュスに問いかける。
「いや・・・。私、てっきり気付いているとばかり思っていたものだから」
なるほどね。渋谷さんの肩には今も幽霊がいることを教えたのか。だから渋谷さんはこんなに怯えて部屋の隅で体育座りで震えていると。
「まあ、ドンマイ」
それにしても、あの感じだと幽霊はどうなっているんだ?ここだと実体化しているはずだから、部屋の隅になんか行ったらかなり厳しいことになっていると思うんだが。
そう思って渋谷さんに近づいて見てみると案の定だ。幽霊は苦しそうに渋谷さんと壁にサンドイッチにされていた。もう悪霊の威厳、ゼロじゃん。
「あの~。渋谷さん。準備が終わりました。これからその話にあった心霊スポットに行きます。あなたもついて来て下さい」
「あっ、はい!友人はどうしましょう?」
「こちらで連れて来ますので安心を」
「ありがとうございます」
「それでは行きましょう」
そして俺と渋谷さんは控室にある入り口とは別のもう一つの扉を潜った。
そして潜り抜けるとそこは渋谷さんが話していた心霊スポットだろう場所であった。
完全に普通の一般人なら明らかに面を喰らう不思議体験なのだが、心霊体験で精神がやられているのか、気にしていない。まあ、相談、解決している間はあんまり気にしないように魔法を使ってはいるんだが、完全ではない。珍しそうにするぐらいはするのだ。結構追いつめられているんだな。顔も疲れ切っているし。
「ほ、本当に大丈夫ですよね?」
「ええ。安心してください。確かに幽霊は自分のフィールドにいるとパワーアップしますけど、それくらいじゃあ、俺をどうにかなんて出来るわけありませんから」
「流石は何でも解決相談所ですね」
渋谷さんは心底心強そうに俺を見ている。まあ、大船に乗ったつもりでいなさい。解決してあげるから。
「じゃあ、行きましょうか」
そう言って渋谷さんを連れて廃墟の中に入って行った。
「古びていますけど、中の造りは前に入った時と同じですね」
「・・・」
中の造りが同じ・・・ねぇ?それに渋谷さんに憑りついている幽霊の様子も少しおかしい。いや、行動は元からおかしかったんだけどね。
「まあ、気にしないでさっさと友人の部屋だと思った部屋に行きましょうか」
「あ、はい」
黙々と進んで行くとすぐに部屋に着いた。
「それじゃ、入りますよ」
「き、気をつけてくださいね」
「はははっ。大丈夫ですよ」
特にためらいもなく扉を開ける。
『あああああああああああああああああっ』
「おっと」
開けた瞬間、目の前に髪で顔が隠れた白い服の女性が目を見開いて叫んでいた。そして、俺を捕まえようとして来たのだが、それを難なく避ける。
『あああああああああああああああああっ』
それでもあきらめないとでも言いたげに再び襲ってくる。
「あらよっと」
それすら楽々避ける。
っていうか、この幽霊。渋谷さんに憑りついている幽霊とは違うな。渋谷さんに憑りついている幽霊はようやく実体化が解けて元の体に戻ったからか、ホラーな感じの顔で若干嬉しそうにしている。渋谷さんに憑りついているというより、もはや抱き着いている。さっきまでぶら下がっていたのに。
『あああああああああああああああああっ』
挫けずまだまだ続けて襲い掛かって来る幽霊。
「よいしょ」
そしてそれを容赦なく避ける俺。
そんなやり取りが結構な時間、続いた。見ていた渋谷さんも「もうやめてあげてよ」とでも言いたげな表情だ。当の幽霊は実体がないのに疲れている。肉体的にではなく、精神的に疲れているのだろう。
『あ、ああああああああああああっ』
声もだんだん疲れて来ている。イジメ過ぎたかな?
「それじゃそろそろ除霊しますか」
襲い掛かって来る幽霊に手をかざし、一番シンプルな除霊魔法を使う。
「聖光」
瞬間、俺の手のひらから物凄い光が放出される。だが、その光は眩しくもどこか優しい光で、見ていて心を落ち着かせる光だ。
『あああああああああああああああああっ』
そして目の前の幽霊は除霊されていった。
『あああああああああああああああああっ!』
「あ、やべっ」
後ろからそんな叫び声が聞こえて来て、俺は焦る。
「な、何なんですか⁉」
渋谷さんはよく分かっていないのか、自分の背中から聞こえてくる絶叫に混乱している。
「鎮静」
聖光を急いでやめ、強制的に成仏しかかっている渋谷さんに憑りついている幽霊の消滅を鎮静させる。
「なんでやめたんですか⁉」
渋谷さんは訳が分からないといった感じで俺を責める。
「あなたは根本的な部分を勘違いしていたんですよ」
「勘違い?」
「そのあなたに憑りついているホラーな幽霊は悪霊じゃないです」
「で、でも!あなただって!」
「まあ、最初は俺も悪霊だと思っていたんですけどね」
ここに来たことで違うと分かったのだ。
「この幽霊はあなたを守っていたんですよ」
「・・・えっ⁉」
そう。話を聞く限り、この渋谷さんはホラーな展開で本来ならすぐに死んでいただろう。そして友人の方もだ。なのにどうしてそうなっていないのか。
「あなたを最初のターゲットにした悪霊はあなたを殺そうとしました。しかし、あなたに憑りついている幽霊がそれを邪魔したため、なかなか殺すことが出来なかった。そして一度殺すと決めた相手を殺さない限り、他の相手を殺せません。これはこの悪霊の制限みたいなものですね」
他の悪霊がどんなものかは分からないけど、今回の悪霊はそんな制限があったみたいだ。
「そんなイジメみたいな・・・」
「ええ。だから小さなことであなたや友人が被害に遭ってはいましたが、それほどひどい目には合っていない」
「でも、なんで?」
「あなたに憑りついているのは正真正銘、ここの幽霊です。でも、ここの幽霊はあなた方を殺そうなんて考えていませんよ」
「でも、さっきは襲って来たじゃないですか!」
「あれは長年、この土地に束縛されていて己を制御出来なくなってしまったのでしょう。でも、殺したりまではしないと思いますよ。元々、心霊スポットと呼ばれはしても、悪霊なんてここにはいません。むしろ、心優しい幽霊ばかりですよ」
見た目は怖いけど。
「じゃあ、俺達を殺そうとしたのだ誰なんですか!」
「あなた方の言う、友人ですよ」
「え?」
「ああ。勘違いしないでくださいね。あなたとお見舞いに行った友人は違います。あなたと同じ被害者です」
「ど、どういうことなんですか⁉」
「簡単な話ですよ。手伝いますから、しっかりと思い出してください。あなたは本当に男三人で合コンしていたんですか?」
「え・・・?」
記憶改竄を受けている渋谷さんにリセットの魔法をかけて記憶改竄を解く。
「あ・・・」
「思い出しましたね。そう。あなたたちは元から二人です」
「俺とあいつだけ・・・」
「そう。寝込んだというあなたの友人はとっくの昔に亡くなっています」
俺が一度、準備で席を外した時に過去を視ておいた。そうすると、確かに渋谷さんが言った通りに心霊体験をしているのだが、寝込んだという友人はどこにもいなかったのだ。その亡くなった友人は事故で両親と双子の妹を失くしており、天涯孤独になってしまっていた。友人だけが、心の支えだったのだ。しかし、その友人たちにいじめられたことでその心の支えが無くなってしまった。
「で、でも、確かにあいつはいたんです」
「亡くなったその友人はどういう理由で亡くなったか思い出せますか?」
「り、理由?」
まるで追い詰められていくように汗をかき出す渋谷さん。
「その様子だと思い出したみたいですね。そう。その友人はあなたともう一人の友人にいじめられて自殺しているんです」
そして、恨みによって悪霊となり、元凶の二人を殺そうとしていたのだ。
「依頼ですからあなたとその友人は助けます。でも、原因はあなた方にあるということをしっかりと覚えていてください」
「・・・はい」
落ち込む渋谷さん。
「・・・でも、気になったことがあります」
「何ですか?」
「なんで俺に憑りついた幽霊は俺を守ってくれていたんですか?」
「それは幽霊の顔をしっかり見れば分かると思いますよ」
渋谷さんに見えるように俺は渋谷さんに憑りついた幽霊を渋谷さんから取り剥がして正面から見えるようにする。
「ほら」
そして髪を避けると―――――。
「咲ちゃん―――――」
そう。その亡くなった友人の妹が守ってくれていたのだ。
「どうして俺を?」
「あなたが好きだったんですよ。彼女は」
照れくさそうにする幽霊もとい、咲ちゃん。
「あなたはイジメとはいえ、嫌いでイジメたとか、そういうんじゃなかったんでしょう?」
「・・・そうだ。俺は、咲ちゃんが死んじゃったのが悲しくて、それでつい、『咲ちゃんじゃなくて、お前が死んじゃえばよかったんだ!』ってあいつに言っちゃったんだ」
それから悲しくて、それを紛らわすためにその友人をイジメてしまったのだろう。
「それであいつがそれに付き合ってくれて」
本当はいじめたくなんてなかっただろうに、渋谷さんのために敢えていじめに参加していたのだ。渋谷さんより過激にいじめることで渋谷さんが我に返るのを待ったのだ。子供だったから、それくらいしか思いつかなかったのだろう。
「ごめん・・・。ごめんね、咲ちゃん。ごめん、拓斗」
泣きながら咲ちゃんと亡くなった友人である拓斗君に謝る渋谷さん。
「分かったならいいんです。それじゃあ、拓斗君を成仏させに行きましょう」
「行くってどこに?」
「彼の部屋にですよ」
そして俺は今いる部屋から出る。
そう。ここは元から拓斗君と咲ちゃんの家だったのだ。何も間違っていない。さっきの成仏させた幽霊も拓斗君と咲ちゃんの母親だ。父親は拓斗君と同じか、それ以上にひどく悪霊化していたので、悪いとは思ったけど、家に入る前に浄化させておいた。
「ここは咲ちゃんの部屋だったんですよ」
「確かに、見覚えがある。じゃあ、この隣が・・・」
「ええ。拓斗君の部屋です」
俺達は拓斗君の部屋の前に行き、その扉を開ける。
「拓斗・・・」
そこには部屋の真ん中でポツンと座っている男の子がいた。
「・・・」
俺は無言で手をかざす。流石に悪霊化が激しい。元凶だからこそ残していたが、急いで浄化しないと。
「待ってください」
そう言って渋谷さんが俺を止めた。
「どうしてですか?」
「自己満足だっていうことは分かっています。でも、一度だけ拓斗に謝らせてくれませんか?」
「・・・分かりました。あなたはこちらでしっかり守りますから言いたいことを伝えて来て下さい」
「ありがとうございます」
そして渋谷さんは拓斗君の所に歩いて行く。
「拓斗。俺だよ。博人だ」
すると拓斗君が俯けていた顔を上げる。目は真っ黒になっていて、その目からは涙が流れていた。
『・・・』
「ごめんな。俺、お前にひどいこと言ったよな。ひどいことしたよな」
『・・・』
「咲ちゃんじゃなくて、お前が死んじゃえばよかったんだなんて言っちゃってごめん。お前が死ぬのも嫌だったのに、それ以上に咲ちゃんが死んじゃったことが悲しくて仕方なかったんだ。俺よりも家族を亡くしたお前の方がつらいに決まっているのにな」
『・・・ヒロ』
「でも、ごめんな。俺、まだ死にたくないんだ。お前に殺されるわけにはいかないんだよ。俺が死んだら今度は徹が死んじゃうしさ」
『・・・』
「だから、待っていてくれないか?咲ちゃんと二人で。死んだときにまたお前たちに会って、謝るからさ。そしたら今度は、今度こそは一緒にいつまでも遊ぼう?」
『・・・ヒロ』
そう言って拓斗君を抱きしめる渋谷さん。拓斗君は渋谷さんが話しかけて、抱きしめている間、何もしなかった。
「・・・お願いします」
そして最後に俺にそう言った。
「分かりました。それじゃあ、咲ちゃんにも別れの挨拶を」
「はい。咲ちゃん。俺、君が好きだった。君のお兄ちゃんをいじめたひどい奴だけど、もしよかったら俺が死んだ後、また俺と徹と拓斗と一緒に遊んでくれるかな?」
『・・・(コクン)』
「ありがとう」
「それじゃあ、いきます」
「はい。二人とも、またね」
『『ばいばい』』
そして二人は聖光によって消えた。
「これで解決になります」
「はい。ありがとうございました。お金は俺が全部払います。元は俺が全ての原因でしたから。二十万、貯まったら取りに来てくれますか?」
「ええ。でも、二十万はいいです。あなたの友人の徹さんはお祓いとかしなかったですから。十万でいいですよ」
「でも・・・」
「それでも納得がいかないなら拓斗君と咲ちゃんのためにもう十万円を使ってください」
「はい!」
「それではあなたを家まで送ります。目が覚めた時にはベッドで寝ているでしょうから」
「え?」
そして俺は魔法で眠らせて、空間魔法で渋谷さんの家まで送る。そしてベッドに寝かせてから相談所へと帰った。
・・・
「ふう。今回はなかなかの依頼だったな。つい、感動で泣きそうになっちゃったよ。俺、部外者なのに」
社長室でくつろぎながら俺は呟いた。
「でも、梶田君がいなかったら悲惨なことになっていたんだし、部外者ってことはないと思うな」
加原がコーヒーを入れながらそう言ってくれる。
「加原は優しいな。アルダミュスだったらそんなことはいいから仕事か宿題しなさいって言うだろうし」
「あ、あはははは」
「まあでも、良かったよ」
「そうだね。幽霊は怖いけど、優しいお悩み相談だったね」
読んでくれて感謝です。
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これで、今回の話は終わりになります。
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