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13 私って下働きですよね?

 それから何事もなく季節は過ぎて、秋になった。

 夏の暑さが和らいで、風が少し冷たくなる。

 夕刻、私は腰をかがめてオシロイバナの種を探していた。

 オシロイバナの種が白粉になると知ったお養母さんが。春先に大量に植えさせものだ。なのでいくらとっても尽きることがない。

 日が傾いてから咲く花の下には、既に弾けた種が転がっていた。


「何をしている?」


 声を掛けてきたのは、例の若い官吏だった。

 夏が終わっても、彼は間を空けずに通い詰めてくる。

 そのうち身代を喰い潰してしまうのではないかと、私は少し心配になった。

 彼には本を貰った恩がある。


「種、探す」


 そう言って黒い種を差し出し、爪の先で割った。

 すると中から、白い粉がこぼれ出る。


「これ、塗る。顔」


 単語の発音は良くなってきた自信がある。

 しかし流暢に喋るのはまだ程遠い。

 なので補足のために顔をポンポンと叩くジェスチャーをしたら、男の顔に理解の色が広がった。


「なるほど。鉛白の代わりか」


 腕を組んで唸る男に、私は鉛白は贈り物にしない方がいいと伝えたかった。

 鉛白も買えないのかと、芙蓉にプレゼントされては困るのだ。


「鉛白、よくない。顔、荒れる。芙蓉贈る、別の物」


 男はしばらく、意味が分からないと言うように眉間に皺を寄せていた。

 こういう時は、もっと言葉が上手くつかえればなあと心から思う。


「鉛白、人殺す。頭、壊す、薬」


 そう言って自分の頭をとんとんと指差すと、男の顔色が変わった。


「なぜ詳しい? 誰かに教わったのか?」


「違う。他の国、知った。俺、来た。遠く」


 そう言って、適当な方向を指差した。

 客からどこから来たと尋ねられたら、最近はこう返すようにしている。

 別の世界から来ましたと言って、信じてもらえるはずもない。


「あちらというと……西域か。砂漠を越えてきたのか?」


 そうか、西には砂漠があるのか。

 そんなことを考えつつ、こくりと頷いた。

 男は何かを考え込むように、難しい顔をしていた。


「……お前が花酔楼にやってきたのは、いつだ?」


 尋ねられて、少し考える。


「一年と、半分くらい?」


 こちらに来たのは去年の春だから、そろそろそれぐらいにはなるはずだ。

 そう思うと、なんとなく感慨深い。

 すると、男の顔色が更に難しいものになった。

 なにかまずいことでも言ってしまったのだろうか?

 怖くなって逃げ出したくなったが、客にそんな失礼をすればあとでお養母さんに何と言われるか分からない。

 どうしたものかと視線を彷徨わせていたら、偶然通りかかった余暉と目が合った。


「旦那様、こいつが何かしでかしましたか?」


 駆け寄ってきた余暉が、フォローに入ってくれる。

 それだけで、私は少しほっとした。


「いや、そうじゃないが……」


 そう言って、なにか難しい顔をしたまま男は去って行った。

 緊張が解けて、ほっと溜息をつく。


「小鈴、今度は何をやらかしたんだ?」


「分からない。してない……多分」


 そう言いつつ、二人で首を傾げた次の日。

 お義母さんに呼び出された私は、衝撃の宣告を受けることになる。


「小鈴、あんたの身請け先が決まったよ」


 お養母さんは一気に老けこんだような顔をして、私を見ようともしなかった。



 



 

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