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見おろし鬼

ほんのちょっとグロです

大学の北門から、講義が行われる第17校舎の下まで来た時、僕はしまったと唸った。

目覚ましを1時間以上早く設定してしまい、学校に着いたのは8時前。


1限開始は9時だ。

僕の家は学校から近く、ここまでは15分程度。

家に戻ってまた出直す来る事は出来るのだが、それで遅刻してしまっては元も子もない。

そうなってしまうことは過去に数度。今回も同じ失敗を繰り返すことは簡単に予想できる。


と、第18校舎の傍を通る歩道を経て正面玄関に向かう途中、僕は何となく真上を見た。

18校舎4階の外付けの渡り廊下に目が留まる。


手摺りに手をかけて、人影が僕を見下ろしているのだ。


こんな時間から学校にいるなんて・・・と思った瞬間、背筋が凍りついた。


目だ!


そいつの顔には、鼻も口も、二つの目も無い。

ただ、皿のように大きく見開かれた目が、僕をじっと見下ろしているのである。


その場に動けないでいる僕を見下ろしたまま、そいつは手摺りを乗り越え、 そして、真っ逆さまに落ちて来た。

大きな目で僕を見つめたまま。


その時間は、まるでスローモーションのように僕の目に映った。

近づいてくる皿のような目に、僕は恐怖のあまり目を瞑る。


その直後、湿りを帯びたグシャリという鈍い破裂音が、僕の耳に飛び込んできた。


恐る恐る目を開けた僕は、叫び声を上げた。

ライトベージュのタイルに、そして僕の靴に、鮮血が飛び散っている。


こめかみを地に着け、うつ伏せに倒れているのは・・・


一つ目の人間でもでもなんでもなかった。

同じ講義を受けている、顔見知りの学生だった・・・


彼は、自殺をするような奴ではないと、周囲は皆囁いていたが、今の僕にはどうでもいい。

あれは見間違いなんかじゃない。

話した事もない奴だったし、そんな事よりも、近づいて来る皿のような目が、脳に焼き付いて離れなかった。


そんな騒ぎが起こったにもかかわらず、その日の講義は滞りなく行われた。

その翌日も、日常は続く。

・・・かに思われた。


夕刻、夏場も近いその時間帯はまだまだ明るく、少しだけ橙の帯びた西日が、第18校舎の影をその傍の歩道に影を落としていた。

昨日あんな目にあった僕にとって、その道を通るのはとても憚れる行為ではあったが、遠回りをするルートも無く、仕方なく歩道を進んでいった。

あの場所には、黒く変色した血液がタイルに染み込み、痕跡をしっかりと残している。

僕は、できるだけ見ないよう傍を通り過ぎていった。


その時、数メートル先に人影が現れた。

西日の影と、照り返しの逆光に晒されているにもかかわらず、大皿のような"その目"は、ギラギラと輝き、しっかりと僕を捉えている。


あの時に見た、一つ目の人間だった。


姿形は、自殺したクラスメイトではない。

同じ髪型に同じ服。

顏を覆う大きな目以外は、今日の僕だった。


その目に吸い込まれるように、僕は気が遠くなった。


体が勝手に動く、というこの表現が、今、一番当て嵌まる。

頭がぼーっとする。

外からでは開くはずのない裏口を開け、第18校舎に入っていった僕は、長い廊下を通過した先の階段を上る。


2階・・・3階・・・


そしてたどり着いたのは、クラスメイトが僕の目の前で飛び降りた、あの4階の外付けの廊下である。


手摺りに手をかけ、僕は眼下を見下ろす。


学生が一人、驚いたようにこっちを見上げているのが、しっかりと確認できた。


ああ、昨日の僕はあんな表情をしていたんだろうな。

まるで大きな一つ目の人間を見てしまったような・・・


僕は、彼をまっすぐに見おろしながら、手すりを乗り越えた。





おわり

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