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放課後のコーラス

雨の降る日の放課後、傘を忘れた僕は、校舎3階の連絡通路を教室へと向けて歩いていた。

広い幅の連絡通路の両脇にはベンチが並べられ、昼間は、昼食を取る生徒や、昼寝をする生徒でいっぱいだけど、放課後ともなれば、人もぱったりやんでしまう。


ふと、僕は17号館に一番近いソファに、女子生徒が一人座っていることに気がついた。

下を向き、スケッチブックに鉛筆を走らせている。

その子は、日本語とも、英語とも、それが、歌詞と取れるのかどうかもわからない、不思議な歌を歌っていた。


見たことがない人だな、他の学年かな?と思いながら、僕は黙ってその子の前を通り過ぎた。

その時、その子は僕に声をかけてきた。


「ねぇ、これ、何の絵に見える?」

そう言って、スケッチブックに書かれている絵を僕に見せた。

何やら、わけのわからないものが描いてある。

抽象画・・・ってやつだっけ。


「わからない・・・かな。」

「これ、合唱よ。私、合唱が好きなの。たくさんの人が協力して奏でる歌って、とても美しいと思わない?これ、私の知っている歌が、合唱になったらって事をイメージして、絵に描いてるの。」

と、目を輝かせて言った。

よく見てみると、この女子生徒はなかなか可愛い。

「ねぇ、ちょっと来てよ。私の集めた歌、聞かせてあげる。」


集めた歌・・・?僕は不思議に思いながらも、その子について行った。


やってきたのは、3階の洗面所に置いている、丸い口のモダンなゴミ箱の前。

こんな所に連れてきて、この子は何を聞かせたいのだろうか?と、思ったときだった。

ゴミ箱の中で、何やら音がする。


いや、音ではない。


人間の発している、歌声だった。

たくさんの人間の声が重なり合い、美しく、ゴミ箱の口から流れ出ていた。

でも、歌詞らしいものは何もないようで、さっきこの子が歌っていた歌に、少し似ているような気がした。

そのあまりの美しさに、僕は考えることを忘れてしまった。


「すごいや・・・」

「ね?もっと顔を近づけて、覗いてみなよ。」


僕は、言われるままに、ゴミ箱を覗き込んだ。

次の瞬間、まるく暗い闇の中から、人間の腕が伸びてきて、僕の頭を掴み・・・

隣で、彼女の「これから一緒に歌おうよ」という声が聞こえた後、何もわからなくなった・・・




放課後の誰もいない3階の廊下を歩く時、どこからともなく美しい歌声が聞こえてくる、という噂がいつから流れ始めたのか。

そして、いつこのゴミ箱から、不思議な歌が聞こえ始めたのか、誰も知らない。


時を重ねるごとに、このゴミ箱の中から聞こえるコーラスは、一人、また一人と、仲間を増やし、その音量を上げて、今も成長し続けている・・・





おわり

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