B1
ある日、僕は友達のAと、大学の6階エレベーター前で鉢合わせた。
「よう。今から授業かい?」
「いや、もう帰るところさ。今日は4限で終わりだ。お前は?」
「僕、ちょっと調べ物をしに図書館に行かなきゃいけないんだよ。あの授業のレポートは本当に面倒だよな。」
他愛のない雑談をしているうちに右のエレベーターが6階に到着し、それを知らせる短く軽快な音がエレベーターホールに響き渡るのを合図に扉が開く。
僕らの行先は1階だ。
と、僕は1階のボタンを押そうとして、ぎょっとした。
・・・ボタンが多い・・・
この棟には、地下は無い。にも関わらず、1階のボタンの下に『B1』の表示がある。今朝はこんなものはなかった。
このB1のボタンは、突然現れたんだ。
Aが、ボタンを覗き込む。
「何だこれ。あったか?こんなもの。」
ちょっと気味が悪いなぁと思っている僕をよそに、Aは興味津々だ。
Aは、僕をちらっと見て言った。
「押してみようぜ。」
エレベーターが下り始める。
僕の前で、『B1』のボタンだけが光っている。
でも3階辺りを通過した時、僕は急に怖くなり、咄嗟に1階のボタンを押してしまった。
「あ・・・あのさ、僕・・・急ぐからさ、1階で降りるよ。」
「そうかい。じゃあ、俺一人で行くか。」
1階でエレベーターが止まり、僕は降りた。
Aは「何があったか、明日教えるよ」と言って、閉まる扉の向こうに消えた。
そして、二度と戻って来なかった・・・
数年後、僕が卒業した後、この棟と、その隣の棟に地下が作られる事になった。
これは後輩から聞いた話だが、その工事中、ちょうどエレベーターの真下に当たる場所からおびただしい数の人間の白骨が出て、ちょっとした警察沙汰になったそうだ。
全て、ここから出してくれ、と、扉を叩くようなポーズのまま、骨になっていたという。
Aの骨も、そこにあったのだろうか・・・
おわり