職業、人形。――こんな主人公転生はイヤだ!
詳しく内容では触れませんが、流血および特殊性癖を想像させる表現があります。
苦手な方はブラウザバックをお願いします。
巷にあふれる物語転生のうちの一つを自分が経験するとは誰も思わないに違いない。
だから娯楽として受け入れられると思うのだけれど――自分が体験するとなると微妙なものなのである。
一回読んだだけの雑誌の読みきり・・・"R18対象の恐怖漫画の主人公" ってどうよー!!
まぁ、読まずに"持ってるだけ"で転生するよりはマシだったのかもしれない・・・涙。
ちなみにその漫画を読んだ感想は「ないわー」だった。(それでも読んだけど)
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私の名前はオランピア。
どこかで聞いた名前であるので、わかる方にはわかると思うが『人形』である。
私が転生する前、日本人として生きていた頃。イトコのよっちゃんが泊まりに持ってきた暇つぶしの恐怖漫画雑誌・・・エロいのもグロいのも怖いのも病んでるのもごっちゃ混ぜの自分では買わないであろうその雑誌の片隅に読みきり漫画として掲載されていた。
稀代の天才錬金術師(という設定)のご主人様が自分の持てる技術と情熱を詰め込んで改良に改良を重ねて生まれてきた等身大の自動人形というのが今世のベースとなるこの私。
私は最初はただの木偶人形から始まり、錬金術を駆使して少しずつバージョンアップを果たし人間に近い身体へと造りかえられていきました。
ご主人様の『理想の女性像』を体現する人形造り・・・自分がその当人になると考えたら気持ち悪くありませんか?
家の中で妄想を育ててないで「現実の彼女を作れよ」って思いませんか?
漫画に出てくるだけあってご主人様はそれなりのイケメンなんです。
ただ、才能はあれど極度のコミュ障というか、引きこもりで、さわやか系フツメン幼馴染の世話焼きの彼がいなかったら今の生活もできていなかったと思います。
はじめて私として意識が目覚めたのは、漫画のオープニングと同じ場面でした。
その頃はまだ体に触覚が備わっていない体だったので、ぼんやりと遠い画面の向こうを見ている感じでした。
「オランピア、愛してる。」
――そう自分にささやき続けるご主人様。
"エロいのもグロいのも怖いのも病んでるのもごっちゃ混ぜ"のその雑誌漫画・・・つまり人形で愛の行為ができる病んでる人が"ご主人様"である。
最初は画面がぶれてる程度に思わなかった私にはわからなかったが、今となっては恐怖以外の何者でもない。
幸いなことに、触覚と簡単な言葉(「はい」「ご主人様」「私もです」「愛してます」)を話す機能が備わる頃には、本編のヒロインである"彼女"が登場したので悲惨な目には遭わなかったのであるが・・・。
はい、ここでおさらいです。
私が主人公の漫画のジャンル――恐怖漫画・・・何回も出てくるキーワード"エロいのもグロいのも怖いのも病んでるのもごっちゃ混ぜ"でしたよね。
じゃあ、主人公たる私は漫画で何をするのか。
それは、ヒロインの"彼女"――名を"コッペリア"という――とご主人様をさんざん脅かして(振り返ればヤツがいる的な)追い詰めて殺すという役柄なのである。
このどこかで聞いたような名前の登場人物の陳腐で安いシナリオの順を追って説明すると、
①錬金術師が愛を囁き続けるエロ要員的人形に何の因果か感情が宿る。
②錬金術師が自分の理想女性像とそっくりな彼女を見初めてストーカーになる。
③それをじっとりとイヤな空気を出して陰でこっそり見つめる私。
④おせっかい幼馴染登場でストーカー男、もとい錬金術師と彼女をとりもってストーカー解決。
⑤放置される私。
⑥平和そうに見えて"――来る、きっと来る"とばかりに彼女の周辺で影をちらつかせる私。
⑦不安を訴える彼女を一笑に付す錬金術師。プロポーズとエロシーン補充。
⑧小さい教会で婚礼の白い衣装が赤く染まる惨劇の幕開けの結婚式。(神父が第一被害者、次に参列者全滅)
⑨逃げる二人・・・なんとか逃げたと思わせて私登場で錬金術師死亡。
⑩さらに逃げる彼女の退路を次々と塞ぐ私。無事?彼女をメッタ刺しにし、血の涙を流し笑う機能はついていないのに何故か微笑む私。
と、なる。
イヤだ、こんな転生主人公。
現在はそろそろストーリー②の位置にさしかかろうとする所だ。
自分とそっくりな人形の存在を知ったら彼女は確実にドン引きするだろう。
粘着質な錬金術師の気が彼女に逸れているうちにフェードアウトしようと思う。
現状、彼女らを皆殺しにするほどの嫉妬も愛情もまったく抱いていない。
なによりも錬金術師や彼女のストーカーをしている暇があれば他の事にその時間を費やしたい。
正直、そんな気持ち悪い男は熨斗つけて差し上げる・・・強引に送りつけて拒否しても押しつけてでも返品不要!
問題は私は「はい」「ご主人様」「私もです」「愛してます」しか話せないことだった。
文字が書けるから筆談すればいいかと、幼馴染に「後はよろしく頼む。」と挨拶だけしてとっとと逃げよう。
ここで一見人畜無害そうなフツメン幼馴染が、"変わり者錬金術師であるご主人様の友人である意味"をよく理解していなかった私に新たな物語がスタートするのは別のお話。
そうだよね。
普通の良識ある人間が、友人の作ったダッ・・・げふんげふん・・女性型の人形とまんまそっくりな人間に恋の橋渡しをするなんておかしいって気づくべきだった。
黙って行方をくらませばまた違った道があったのにと後悔することになるとは思いもせず、輝く未来に思いを馳せた私は新しい人生への一歩を踏み出すのであった。
一年以上前に下書き・保管してあった作品をリハビリがてら投稿します。