本当と嘘
「ごめんね……ごめんね……」
「大丈夫だから。ほら、とりあえずお薬飲もう?ね?」
私と彼女の二人きりの教室の中、何度も謝りながら泣きじゃくる彼女を抱きしめつつ、私は薬を用意して飲ませた。
彼女は普段は元気だけれど、ふとしたことですぐに気分が下がってしまう子だった。何を隠そう、彼女は鬱病なのだ。クラスメイト達の前ではあまりこういう姿は見せたくないらしく、授業中や昼休みなどに気分が下がっても見せないように我慢していた。自分でもいつこうなるかも分からないし、どのくらい経てば機嫌が直るかも分からなくてどうする事も出来ないから我慢するしかないんだ、と彼女は言っていた。ずっとその事について悩んでいると。
だけど私は彼女のそこが好きだった。
いつ壊れてしまうかも分からないくらい、と私にしか見せない貧弱な心。そんな心を持っている彼女が好きだった。普段の元気なところも含めて、全てが。女の子同士だけれど好きになってしまったからには仕方ない。恋は盲目、故に性別をも超える。きっとそういう物なのだ、恋は。
そもそも、彼女が言うには鬱病になったのは最近らしい。
彼女が中学生の頃いじめられていられたのが原因なんだそうだ。何人か仲の良い子はいたものの、特に何もしていないはずなのにクラスの大半には嫌われ、汚い物として扱われ、何をしても笑われる。そんな事が一年生の最後の頃から続いて、元気だった彼女はネガティヴで、常に人が信じられない人になってしまった。そんな彼女を見ると数少なかった友人も彼女から離れていき、ついに彼女は1人になり、孤立した。それからしばらくすると保健室の先生に精神科のある病院に行くように勧められ、そこで鬱病と診断された。
私が前に彼女に聞いたのはそういう事だった。それ以来男子に1番悪くされていた事から異性が苦手になり、他の人も信じられず、嫌われる事を彼女は極端に嫌がるようになったようで今日受けた相談もクラスメイトに嫌われたかもしれないという事だった。
「さっき、あの子達が笑ってたの……私の悪口言ってた、かも、しれない……どうしよう……また嫌われちゃうのかもしれない……私が、私があんな事言ったから、嫌われた、かも、どうしよう、どうしよう」
私が1人でいた教室に入ってくると、泣きながら彼女は私にそう言ってきた。
「話の内容、私聞いてたけど昨日のテレビの話だったから大丈夫。」
「でも、でも、私に伝わるからと、思って、嘘の話してた、かもしれない……」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あの子達あなたの事好きって言ってたよ?お友達だって。」
「本当に?大丈夫……?私、嫌われて、ない……?」
「うん、大丈夫。」
私は彼女を抱きしめて言った。
「だから安心して。」
「ごめんね……ごめんね……」
「大丈夫だから。ほら、とりあえずお薬飲もう?ね?」
私にいつも迷惑をかけていると思っているのか、彼女は何度も謝りながら泣いていた。そんな彼女を優しくいたわりながら私は色々な事を考えていた。
私は彼女が好き。女の子同士だからきっと彼女は私を好きになってくれないけれど、せめて嘘を吐いてでも私に依存してもらえばそれでいい。彼女はクラスメイトに嫌われているけど、そんな事は思い込みだと言ってあげよう。彼女が私を必要としてくれるように。常に嫌われているかもしれない、と言う恐怖を持ってもらえればきっといつでも彼女は私を必要としてくれる。彼女に好きになってもらえるように嘘を吐かなきゃ。
そう思いながら私は彼女に薬を飲ませた。