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行く手を阻むもの

何人かの男たちは自警団に加勢するために、その場に残った。近くの家から持ち出した鍬や麺棒を手に、モンスターの軍勢に立ち向かって行く。

残りはB.E.の後を追って必死に走っていた。しかし彼らがどれだけ懸命に走っても、B.E.の背中は小さくなる一方だった。それもそのはずで、B.E.には後に続く住民を待つ気などまるでない。

自警団のリーダーと思しき戦斧の男の目論見では、「領主様をお守りする」という建前にかこつけて、まだ無事に見える領主の館に住民たちを引き連れて逃げ込み、そこに立て篭もるつもりだったのだろう。

だが、攻撃の規模からして、館が本当に無事であるという保証はない。既に別の部隊が動いていて……というのは十分あり得る話だ。もしそうだったなら、館が戦場になるというのであれば、町の住民たちが到着する前に敵を打ち倒す必要がある。

だからB.E.は後ろも振り向かずに、全力で館へと走って行った。本来町とは何の縁もない彼が、とっくに町を見捨てて逃げ出したところで、責められる筋合いなどない。

だが、彼は逃げ出したりなどしない。憎い仇敵がきっとすぐそこまで来ているのだ。この機会を逃せば、次に見えるのはいつのことになるか知れない。伯爵が領主に御執心だと言うのなら、領主の元に居れば会える可能性は高い。

領主の館に辿り着いたB.E.はそこで、悪い予想が的中したと知る。館の玄関の庇の上に、小柄だがれっきとした竜種、ワイバーンが悠々と寝そべっていたのだ。

首をもたげてB.E.を睨むと、ワイバーンはゆっくりとその身を起こした。庇を蹴って飛び、B.E.の眼前に舞い降りる。

番犬の如くその場に立ちはだかるワイバーンだが、領主がそんな番犬を従えているという話は聞いていないし、そもそもワイバーンは竜種の中でも気性が荒く、およそ人が手懐けられるものではない。つまり、敵。

そしてその敵が行く手を塞ぐということは、別の敵が先に進んでいることを暗に示している。

剣を抜いたB.E.は気勢を上げた。


「言っても退きはしないだろう。力ずくで通らせてもらうぞ!」


呼応するようにワイバーンが吼える。

ワイバーンは地面を蹴り、宙を横滑りしながらB.E.へと迫る。繰り出された鉤爪を一度は剣で受けたB.E.だが、その重みに耐えきれず、軸をずらして受け流す。すれ違い様にワイバーンの長い尻尾がしなり、B.E.の側頭部を打った。翼腕を斬り裂こうと機を伺っていたB.E.は、死角からの攻撃に防御が追い付かなかった。

B.E.が一瞬、視界を失っていた隙に、ワイバーンは宙へと舞い上がっていた。そして、急降下。

先程よりも勢いも重さも、そして鋭さもある一撃だが、B.E.はそれを敢えて受け止める。一点に狙いを澄ました攻撃なら避けることも可能だったが、それをすれば宙を自在に駆ける相手は一撃離脱を繰り返すことだろう。

安全なところから必要な分だけ攻撃を繰り出し、敵を撃退は出来ずとも侵入は許さず、その場に釘付けにする。番犬の仕事はそれで十分なのだ。

B.E.にしてみれば、今この場で貴重な時間と体力を徐々に削られる以上の痛手はない。なのでB.E.は、その初撃から受けにいったのだ。左の拳を剣の腹に添えて、両手で支える。

鉤爪と剣がぶつかり合い、鈍い音が闇夜を貫く。ワイバーンの身体が一瞬、空中で静止する。しかしそれは本当に一瞬のことで、次の瞬間には均衡が崩れる。

小柄とはいえ、並の馬よりは一回りも二回りも大きいワイバーンの身体を受け止めようというのは、無理のある話だったが、B.E.が受け止めきれずに押し潰されたわけではなく、実際にはその逆だった。

ワイバーンが一際強く羽ばたくと、B.E.の足が地面から離れる。両脚で剣を掴んだまま、ワイバーンは再び空へと飛び上がったのだ。

咄嗟に脚を掴もうと空いた手を伸ばすが、ワイバーンの首が伸びてきてそれを啄もうとするので、慌てて身を捩って躱す。

ワイバーンは既に二階建ての屋敷をゆうに見下ろせる程の高さにまで上昇していた。振り落とされれば、きっと無事では済まないが、このまましがみついていても最後には噛み殺されるのがオチだ。早くも勝鬨の咆哮を上げるワイバーンの足下で、B.E.は柄を握る手に力を込めた。

左手でも剣の刃を掴み、一気に身体を引き上げ、剣の上に乗せる。そのまま翼膜を掴むと、動きに制限を加えられた翼では思うように浮力を得られず、ワイバーンは体勢を崩した。ワイバーンは体勢を立て直すよりも先に、B.E.に喰らい付いて引き剥がせば良かったのだが、墜落しかける最中では優先順位の判断が付かない。ワイバーンがその邪魔者を排除せねば、と思い至った時には時既に遅く、B.E.はその背中へと回り込んでいた。

ワイバーンの背中に着けられていた鞍がいい足場になった。しかし、そんなものがあるということは、やはりこのワイバーンが単独でここにやって来たわけではないという、立派な証だ。ここならば鉤爪も牙も届かず、安全だ、と高をくくっている暇はない。B.E.はすぐさま行動に移った。


「ギギャァッ!?」


B.E.が懐から取り出したナイフを翼に突き立てる。いくら竜種が堅い鱗を備えていても、しなやかな翼膜はそうはいかない。ナイフは弾力に富んだ翼膜をあっさりと貫く。風を孕めばその裂け目は勝手に広がっていった。ワイバーンは先程とは比べようもないほど大きくバランスを崩したが、しかし躊躇うこともなくB.E.は反対側の翼も斬り裂く。

最早ワイバーンはその身体を宙に浮かべることも出来ず、墜落するしかなかったが、B.E.はそこに更に止めの一撃を見舞った。ナイフがワイバーンの喉首を滑り、そこから血が噴き出す。

高度が下がってきたところでB.E.は飛び降りて、庭の芝生の上にその身を転がした。一方のワイバーンは石造りのアーチを薙ぎ倒し、薔薇の花壇へと頭から突っ込んで行った。暫くはか細い鳴き声と共に翼腕を震わせていたが、それもすぐに地に伏したのだった。

偶々の方もまたまたの方もご覧頂き有り難うございます。谺響です。今晩は。

割と本格的にバトル回でしたが如何でしたでしょうか?

息も吐かせぬ立ち回りに思わず手に汗握ってしまった!なんて方が一人でも居れば、やった甲斐があるというものです。

そう。実はこのワイバーン戦、急遽取って付けた、本来無かった場面だったりするんです。

戦闘シーンは苦手だから極力削りたいとか、そんな甘っちょろいことを当初は考えていたのですが。考えていた筈なのですが、一体どこでドMスイッチが入ったのやら。

ってかこれ、ここでアツく盛り上げちゃったら、本命の伯爵戦への期待が無駄に高まるじゃん!ってことに今更気付いて、おい、どーすんの?ドMじゃすまねぇーよ、これ!と、あわあわしております。


なお、当初はナイフなど使わずに、チョークスリーパーで絞め落とす流れでしたが、墜落中にそんな悠長なwってことでボツに。落とした剣はきっと都合よく後続の住民に拾われている筈です。


さて、恐らくあと2話ほどで第1章は完結を迎えます。

しかし物語としてはまだまだ始まったばかり。

いつかキチンと完結する日が来ることを祈りながら、今日のところはこの辺で。


閲覧、紹介、拡散いつも有り難う御座います。

更新が亀なので、ブックマークを推奨しています。

感想コメントや評価、レビューも頂けると小躍りして喜びます。

酷評でも、筆者は多分、死にはしません。多分ですよ、多分。

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