006 彼の実力
現れた敵は丸いボールほどの大きさであり、出現したばかりで自分の体を完ぺきに具現化出来ていない為か体はまだ真っ黒のままだった。
「え……?」
しかし、猫又は驚いた様な声を出した。無理もないだろう。
初のB級戦でまさかこれほど小さな妖魔を狩る事になるとは思っても見なかったのだ。しかし、そうは言えどもB級を一人で狩ったとなれば一族の株も上がる訳だ。例え小さくとも力はB級。何も言われまい。
猫又は相手の妖魔を見て静かに睨みつける様に妖魔を観察した。彼方から襲ってくる気配も無く、彼方も此方を警戒して様子見をしているのだと思われた。
「ギィィッ!」
不意に敵の妖魔が襲い掛かって来た。
猫又はそれに瞬時にその妖魔を撃ち抜いた。断末魔の悲鳴を上げて妖魔は地面を暴れる様に転がる。
「な、なんだ。 B級って言ったって大した事ねーじゃん。これなら一発で仕留められるな、行くぞミズキ」
《そうだな。だが、油断は禁物だ》
「分かってるって!」
猫又は拳銃に向かって軽く叫んだのち、そのまま敵に向かって弾丸を放つ。
そうすれば、妖魔はまた断末魔の様な悲鳴を上げて地面を暴れる様に苦しそうに転がる。
そんな様子を刹那は興味が無さげに見ていた。
アクラを膝の上に置き、貯水タンクが置いてある猫又よりもかなり上のコンクリートの屋根の上から軽く見下ろす。
動けなくなった妖魔の腹を狙ってダダンッと二発弾丸をぶち込めば綺麗な風穴が出来た。
「よしっ!」
嬉しそうに笑う猫又を他所に、刹那は眉をひそめた…。
「あの鼠みたいな妖魔…」
《刹那も気づいたか……》
二人もその異変と言うか、不思議な光景に眉を寄せていた。
「あの妖魔、目測で言ってもB級は下らないと思う。けど、滅茶苦茶弱い。C以下とも言えるし、下手すればFぐらいかもしれないぐらい、弱い」
妖魔には色々なランクがあり、それは英語のABCD何かによりきめられている。高位のB位とされているが今の戦いっぷりを見ればF位だと思ってしまうぐらいにマジで弱い。
「なんであんなに弱いんだ…? 態々攻撃喰らって―――…! 攻撃、態々…喰らう……?」
《まさか―――……》
二人はそこで眼を見開き、お互いの顔を見合わせた。
たった一つだけ、可能性と言うか敵の狙いが見えたのだ。
「へへっ、これなら楽勝だな」
《だろうな》
自慢げに話し合う彼等を見て刹那は唇を噛みしめた。気づけとは言わないが、それでも妖魔に対しての警戒心がとてつもなく薄い、皆無の様に見えた。
黒い小さな塊、鼠の様な妖魔を打つ猫又は刹那が此方を真剣そうな眼で見ているのに気付くと手を振って笑っている。
「馬鹿……!」
刹那の声が届いても、もう遅い。
刹那の間… スローモーションの様に見える景色は彼が倒れ、そして一匹の鼠が彼の肩を食いちぎる様……。
「なっ……!?」
倒れ行く彼の体。驚いた様な顔を向けており、そして刹那は溜息を吐いた。
ズザァアアア…と受け身をとってダメージを外へ逃がすがやはり負傷したのが大きいのか綺麗に受け身を取れなかった。
「な、何だよアイツ……」
驚いた様に妖魔を見る猫又を見て刹那は呆れた様に溜息を吐いた。体は小さくとも奴は紛れも無くB位の妖魔だ。そんな簡単に倒せる相手じゃない。
「グァアアッ!」
そのまま妖魔は口を大きく開き、負傷した肩を庇いながら戦う猫又に襲い掛かった。まだ、一応は絶体絶命ではない為刹那は見守る事とした。
死んだら…… その時は、まぁその時だ。
(奴の実力は… まぁまぁだな)
並の妖魔師ぐらいの力は持っているが踏み込み認識が甘い。
高レベルな妖魔と出会えば即死するタイプだと刹那は認識した。