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Moment Disappear -モーメント ディスピアー-  作者: 林崎 ゆみ
【人魚】
29/35

029  拒絶の意

 



 ライの手を引いて動いていた刹那達。だが、ライは高齢だ。体は思う様に動かず、時間を喰らう一方であった。



《刹那、戦闘が始まっている。血の臭いがどんどん強くなっている》



 アクラの声が響く。その響いた声を聞き、刹那は苦虫を潰した様な顔をする。

 ライを置いて行くわけにはいかない。だが、このままでは間違いなく相手が全滅するのがは免れない。アルフは〈等価交換〉によってアクラと同等とも言えるかもしれない力を持っているのだ。普通の妖魔師が太刀打ちできる相手では無い。



(どうする…)



 敵を止める策はもう考えてある。そして、実行も可能だ。

 だが、下準備が終わらなければ無理な話なのだ。アクラから離れる訳にもいかない。ビャクに任せてもいいのだが、彼に闘う力は皆無に等しい。〈精霊〉を召喚する手もあるが、面倒なので奥の手としたい所だ。



「そう言えばお嬢さん。アクラ卿とどのくらい離れられても大丈夫ですか?」

「どのくらいか…。試した事は無いけど、この敷地一体ならば大丈夫だと思う…」



 刹那でも試した事は無いのだ。

 彼女にしては珍しい曖昧な返答にビャクは満足そうに笑う。



「では、大丈夫ですね。恐縮乍ら、お嬢さん。今回は私を使っては頂けないでしょうか?」

「ビャクを…?」



 ビャクの言い分に刹那は少し顔をしかめた。

 別に彼を使うのは構わない。だが、一度も試した事も無い事なので土壇場で使えるかどうかが分からないのだ。



《いいじゃないか、いざとなれば俺の妖力(ちから)を使えばいい。今はアイツ等の援護に向かうのが得策だ》



 その言葉に刹那は渋々と頷き、ビャクの方を見た。



「だけど、殺傷力の高い奴にしてね」

「そ、それは―…。私は一応武器化は初めてですので…」



 刹那の言葉に困った様に笑うビャク。

 武器化はその妖魔特有の姿である為、主人が違っても変える事は出来ないのだ。静かにビャクを見、、真の名を放った。



白黒(モノクロ)



 そう言われた瞬間。ビャクは姿を変える。

 一本の細い棒かと思えば、その棒はかなりの長さになり、三日月の様に少しだけ曲がっていた。



大弓(おおゆみ)か…」

《そうみたいですね》



 殺傷力はまぁまぁ。だが、遠距離からの攻撃に長ける。スピードは恐らく此方で調整できるだろうと踏み、刹那は静かに軽く笑む。



「お前らしい武器化だと思うよ、ビャク」

《恐縮です》



 鼻で少し笑えば、ビャクは淡々とした言葉を返す。もしかしたら表面だけの言葉かもしれないが、それは良くある事。刹那は深く追求せずにそのまま背を向けた。



「アクラ、一旦二手に別れる。お前はアルフの場所へ迎え。私は援護射撃で敵を一通り潰した後、向かおう。大弓(これ)は接近戦には弱い」



 そう告げて少し大弓を持ち上げる。アクラは何も言わずに頷いた。この言葉を告げられる事は予想済みと言う訳であった。

 音も無く刹那は立ち去る。持ち前の運動神経をフル活用した結果であろう。驚いた様に眼を丸くするライを見てアクラは少しだけ困った様な顔をした後、静かに声をかけながらも歩き出す。



《何時もの事だ、慣れてくれ》



 その言葉にライは困った様に笑った。

 だが、アクラはそれを気にした様子も無く少しスピードを上げる。



《少し、気持ち悪いかもしれないが、我慢してくれ》



 その言葉とほぼ同時にライの体に黒い影の様な何かが纏わりつく。

 しかし、ライはその影をおびえた様子も無く受け入れ、その行為が酷くアクラを驚かせた。



「驚いてるのね…。でも、アルフに良くやって貰うから、慣れてるの。安心して」



 それはいい事なのか…とアクラは一瞬考えた。

 だが、口にも表情にも出さない様に気を付け言葉を続ける。



《そうか…それじゃあ、急ぐぞ》



 その言葉と共にアクラは走り出す。

 ぐんぐんとスピードを上げ、木々がまるで彼を避ける様に逃げる様に体をうねらせている様にも見えた。

 影に包まれている間は、不思議な事にアルフに包まれている時以上に体がとても楽だった。その理由は大方、彼の力であろうとライは感じ取った。

 この小さな黒い獣が。自分を今、乗せている獣がどれほどの力を持った妖魔なのかは分からない。だが、アルフ以上の妖魔だと言う事はすぐに理解できる。なぜならば、こんなにも―――…。



(こんなにも、悲しそうな子なんだもの…)



 アルフ以上に何かを憎んでいる。

 アルフ以上にずっと耐えて来た。

 それがヒシヒシと伝わって心が痛くなる。


 次の瞬間。

 瞬く間に視界が一変した。


 一番最初に鼻を突いたのは気持ち悪い鉄のニオイ。

 目の前に広がるのは赤、赤、赤、赤、赤、赤。赤色の水溜り。

 木々に滴る赤色がまるで赤色の雨を降らせている様にさえ思えた…。



「なに、これ…?」



 信じられない物を見る様にアクラから崩れ落ちる様に降りたライ。

 影がゆっくりとライの体から離れ、急に体が重たくなったがそれどころでは無かった。



「なんなの、これは……?」



 道端に捨てられるように転がっている塊。

 その塊の上を平然と何も感じない様に立っている親友…。



「ライ…?」



 その親友は。

 信じられない物を見る様な眼で、自分を見た。



「アルフ!」



 思わず上げたその声。

 だが、アルフは何時もの様に近づいては来なかった。



「――――来ないで!」



 返って来たのは拒絶の意。

 自分の体を護る様に、アルフは赤色を纏った手で腕をさすった。



「アルフ―――?」



 静かに手を伸ばす。

 だが、その手が掴んだ物は虚空だった。



「来ないで、見ないで!今の私を―――お願い、見ないで…!」



 ボロボロと大粒の涙を流し、アルフは塊の山の上で、静かに涙を流し、震えた。

 その光景に、ライは絶句……。

 思わず言葉を、飲み込んだ……。

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