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Moment Disappear -モーメント ディスピアー-  作者: 林崎 ゆみ
【人魚】
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028  今だけは

 




 〈妖魔〉とは何だろうか。

 〈妖魔師〉ならば“人を害する物”“殺さねばなら無い物”と教えられる。


 だが、()()()()()()での疑問では無い。

 彼が今、感じているのは――――〈妖魔〉とは、人を害するものだ。

 悪役は―…正義の味方、勇者が倒さねばならない。


 都合が良ければ利用し、都合が悪ければ斬り捨てる。

 今考えれば、経済動物と同じような感覚で、彼等は妖魔を斬り捨てていた。

 だから彼も、考えた事など、無かった―――。



 〈妖魔〉とは何だろうか。

 当たり前の様に思っている事であっても、いざ聞かれると―何なのか、答えでは無い答えを述べる様な気がしてならなかった―――…。






      ◇ ◇ ◇






 浮かんだ笑みは恐ろしく―。

 冷たい笑みは恐怖心を湧きあがらせ―。

 恐怖で、その身体を竦ませ、動けなくした。



「地獄に落ちなさい、お客様(しんにゅうしゃ)



 アルフの声が嫌に響き渡る。

 瞬く間に赤に染まる視界に、ネコは吐き気を覚える。胃液が逆流し、口まで出て来る。しかし、吐きだす事は出来ずに思わず飲み込み、喉にピリピリとした痛みが走った。



《生、お前―――》



 何時から一緒に居たのだろうか。ずっと口を開いていなかったミズキが声をかけて来る。だが、ネコはそんな事は気にせず、己の体を隠す様に身を丸め、ガタガタと震えて縮こまっていた。



(なんだよ、なんだよ、これ!!)



 大人達の呻き声が聞こえる。一瞬で命が消えた物。急所を突いたが、虫の息のおかげでまだ生きている者達の苦しそうな声が聞こえる。

 何もできない子猫(ネコ)は、ガタガタと体を震わせ、その恐怖から眼を背けるしかなかった。それしか、出来なかった―――――…。


 バタバタと倒れて行く音が嫌に耳に木霊する。

 まだ息がある者達が最期に出す言葉が耳の奥に焼き付くように残る。


 「助けてくれ」と声を出す者のその言葉が、動けないネコの体を更に縛り上げた。



《生、見ろ…》

「いっ、嫌だ!!」



 頭を振り、更に身を丸くするネコ。

 ミズキは呆れた様に息を付き、その光景から眼を背けようとはしなかった。



《―――これが妖魔師の光景だ》



 その言葉に、ネコが反応を示す。



《憶えておけ、決して忘れるな》



 その言葉を聞いてか、否か。

 ネコはそろりと顔を上げ、震えながらにも眼の前の光景をぼやける視界で観た。


 社会の甘い蜜だけを吸って生きて来たネコには早すぎた光景なのかもしれない。

 目の前で同僚がバッタバッタと殺されて行くのに何もできない自分を無い物にしようと、現実を否定していた。

 ぼやける視界ではよく見ようとしても、見えないだろう。たまにネコから嗚咽を交えた小さな声が漏れるが、ミズキはその言葉に耳を傾ける。



「ミズッ…ヒィッ…俺、は……ヒクッ……俺は…ヒクッ…俺は……俺、は…」



 言葉を必死で紡ぎあげるネコの声を聞いて、ミズキは柔らかな声を出した。



《もういい―――。》



 その言葉に、ネコは不満そうな顔をする。

 真っ直ぐと震える体で前を向き、ぼやけてもう見えない視界で光景を観る。



《分かってる。怖気づいたんだろ、だが、次は―こうなるな》



 その言葉に、ネコは無言で頷いた。

 次はこうはならない、次は――闘ってやる。

 だから、だから、だから、今は―――――――。



(俺に、逃げ道を下さい…)



 彼女ならば逃げないだろう。

 それが、今の自分と彼女の差だ。

 逃げ道を求めるからこそ、自分と彼女の差は開いて行く。

 分かっている。分かっているけれど、少しだけ、覚悟を決める時間が欲しい。



「次はもう、()()()()から!」



 ネコは自らを戒める様に、最後の最後で、〈言霊〉を無意識のうちに放った。

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