エピローグー6
しばらくの間、私は守人にお説教をしていた。少しして、涼姫も守人の質問に気づいたようで、私が鞭をやるのに対して、彼女は飴で籠絡しようとしている。
「ねえ、守人君。そんなにハーレムがお望みなら、私は別に構わないわよ。もちろん、そこの怒ってばかりの人は、側室だけど」
「涼姫! あんたは、そうやって、いかがわしいことばかり言って! 少しは、TPOというものを弁えたら!? それに守人! あんたも、涼姫の提案に心を揺らしてるんじゃないわよ!」
「あ、う……」
いつものように、三角関係の騒動が行われている。言っている私自身、TPO的によろしくないとは思
うけど、実際この関係が面白いというのも事実だ。できれば、この関係が続いて欲しいとは思う。
そんなことを思っていると、笑いっぱなしだった青年が、2人の女性と少し談笑した後に、こんなことを言い出した。
「少年、答えてあげよう」
「本当ですか!?」
その提案を聞いて、守人は諸手を挙げて喜んだ。
二人は別のテーブルに掛けて、私と涼姫は、男性の連れている二人の女性と話をすることになった。
「――――」
「……、……」
何をしゃべっているのだろう。
注文したコーヒーを啜りながら聞き耳を立てているけど、遠いテーブルに行ってしまったので、どうにも聴こえてこない。
「気になりますか?」
青い髪の女性が、話しかけてきた。ちなみに、涼姫は黒い髪の女性と馬が合ったのか、妙に楽しそうに話している。
「ええ。あの人は、どんなアドバイスをすると思いますか?」
「そうですね」
青い髪の女性は少し考え込んで、
「多分、器の大きい男になれ、とでも言っているんじゃないでしょうか? 自分だって、煮え切らないくせに……ね」
苦笑交じりに答えてくれた。
「煮え切らない? あの人が、ですか?」
守人とは違って、ちゃんとした人だと思うけど。でも、何で2人も連れまわしているのかは、気になる。
「そうです。彼は元々、あの少年みたいに振り回されて生きてきましたからね。あなたも疑問に思うでしょう? そこにいる彼女と私……どちらが本命なんだろうって」
「ええ。この国だと、二股は認められませんからね。それで、どういう関係なんですか?」
「うーん……難しいですね。でもまあ、両方とも均等に愛してくれている……両方とも本命……というのが答えではないでしょうか? そもそも彼は、2人分の人間のようなものですし」
「2人分?」
どういうことだろう?
「彼は、ちょっと特殊な人なんですよ。昔あった障害がきっかけで二重人格になってしまって、今では優しく、けどいたずら好きなトラブルメーカー――その両方を合わせた人になってしまった。私としては、優しいだけの皆葉の方が、初々しくて良かったんですけどね」
「ミナ……ハ?」
どこかで聞いた気がする。すごく、大切な人の名前だと……思う。その時、
『おねえちゃん』
幼い少年の声が、頭の中で響いた。
「ああ、元々の、彼の名前です。皆葉と彩破という人格があって、今では皆破という名前なんですよ。不思議なことですけど、彼が2人分というのは、そういうことなんです」
その話も、名前も、どこかで聞いた――
『ボクは、幼い頃に左脳を失くしちゃったんだよ。それに加えて、とある事情で左脳が回復しちゃって、左脳と右脳とで、それぞれ別の人格になっちゃったんだ』
そう、聞いた。だから、これが正しい記憶なのか、聞いてみよう。
「その障害というのは、ひょっとして、左脳がなくなってしまったことによる右半身麻痺ですか? それで、左脳が回復したから二重人格になった――ということですか?」
「おや? どうして知っているんです? ピッタンコカンカンですよ」
「……そうなんですか」
何かが、繋がった気がする。それに、『カイハ』という名前――それは、神に乗っていた人物と同じ名前。
「……………………ああ!」
頭の中に、様々なビジョンが浮かび上がってきた。
――教会で子供を保護して、寮で一緒に暮らしたこと。
暴漢に襲われて、それがきっかけで子供の正体が分かったこと。
彼が私に願いを託して、私が……世界を滅ぼそうとしたこと。
そして、最後には――
『人を、信じてみたら? あなたは、今まで自分――いえ、仲間だけを信じて戦ってきた。その固まった頭を叩き割って、他人を信じる――協力してくれることに賭けてみたら?』
――彼に、1つの選択肢を与えた。
彼はそれを実行して、結果を変えた。
「……」
なぜ、私はそれを覚えているのだろう。しかも、結果を変えたというなら、私がこのイヤリングとペンダントを持っているのもおかしいし、髪だって変っているのも論理として成り立たない。でも、
「……すみません。ちょっと、あの人に話がありますので、失礼します」
「ええ、どうぞ」
私は、今まで抱えてきたことの方が気になる。席を立ち、ミナハに話をしに行く。
さて、何を話そうか。私と守人と涼姫の関係について相談する? それとも、私がミナハに対して抱いている想いが何なのか尋ねる? 今後の私の歩み方について聞いてみる?
……まあ、全部話せばいいか。私にも、彼にも時間はある。彼は取り戻したいモノを取り戻したし、私も失われたモノを取り戻した。お互いに、火急の大事があるわけでもない。
それじゃあ、何から話そう。悩みながらも、私は彼の前に立ち、こう切り出した。
「――ミナハ。私の……相談に乗って欲しい」
「……」
ミナハは驚いている。私のお願いに驚いたのか、私が覚えていることに驚いたのかは、分からない。けど、一息ついて、
「――分かった。話を聞こうか」
彼は楽しそうに、私の伸ばした手を取ってくれた。




