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第2話ー2

 数分後ぐらいだろうか。子供は、私の叫びに反応し、ゆっくりと瞼を開ける。


「うーん……おねえちゃん、誰?」


 子供が言葉を口にしたことで、私はようやく安心することができた。


「私は彩美奈陽。あなたは?」


「えっと……なんだっけ?」


「名前が分からないの?」


「ううん。そういうわけじゃないんだけど……」


 少年は、記憶喪失ではないようだ。ただ、なぜか名前を言うのを躊躇っているようだ。


「じゃあ、とりあえずミナハって呼んでよ」


「とりあえずって……まあいいわ。ミナハ君ね、よろしく」


 握手をしようと、私は右手を差し出す。すると、ミナハから『グー』というご機嫌な音が聴こえてきた。


「……可愛い音ね」


 私は携帯している食料を彼に与えることにした。彼に与えたものは、一般的な栄養補助食品。それを口にした彼は、


「……水気がないよ」


 お腹が満たされることよりも、食べ物に対する不服である。正直、良い度胸しているとは思う。だけど、相手は子供であり、子供は正直なのだ。割り切って、怒らないでおこう。


「仕方ないでしょ。食べられるだけありがたいと思いなさい。私がここに来なければ、あなたは凍えて死ぬか、飢えて死ぬかのどっちかだったんだから」


「そうだね、仕方ないね。でも、水気は欲しいよ」


「ほら、飲みなさい」


 私はスポーツドリンクを彼に差し出した。彼は一気に飲み干した。


「――ふう。あまり美味しくはなかったけど、ごちそうさま。ありがとう、おねえちゃん」


 やはり、一言多い。食料をタダでもらったのだから、お礼だけ言えばいいのに。さすがにその物言いが気になったので、注意する意図も込めて、聞いてみた。


「ねえ、ミナハ君。あなた、口が悪いとか言われない?」


 頑張って、優しく言う。先日の、守人と涼姫のやり取りに比べればまだ可愛いものだから、どうにか抑えることはできた。


「そうだね。友達や恋人にも、正直すぎるってよく言われるよ」


 話の中に、意外な言葉が含まれていた。


「こ、恋人? あなた、恋人がいるの?」


 10歳程度なのに、その年で恋人がいるものなの? 私は、彼の答えを脳内で復唱し、その意味を把握するまでに要した3秒後に聞き返した。すると、


「うん、いるよ。2人ほど」


 さらに意外な返答をしてきた。子供のくせに、2股しているとでも言うの!? いや、恋人の意味をきちんと理解していないのかもしれない。ここは、落ち着いて聞こう。


「ねえ、ミナハ君。その恋人っていうのは、どういう人のことを言うの? まさか、一緒にデートに行ったりする関係の人を言うわけじゃないわよね?」


「そうだよ。一緒にデートしたり、お子様には言えないようなことをしたりする人だよ」


「な、な、な……」


 ミナハは、とんでもないことを、平然と言って言ってのけている。


「おねえちゃん、何を想像したの? 顔が真っ赤だよ?」


 微笑を浮かべながら、ミナハは指摘してくる。


 言われて自分の頬に触れると、確かに熱くなっている。


「そ、それは」


「それは?」


「……それは置いといて、本題に入ろうか?」


 手で他所に置くジェスチャーをして、話を切ろうとした。だが、


「ボクは、おねえちゃんが何を想像したのか、気になるよ」


 私が虚空に置いたものを、私と同じようなジェスチャーで、戻してきた。ミナハの表情は、微笑どころかにやけている。


「あ……う……」


「おねえちゃーん、教えてよー」




『このガキ、確信犯だ』




 思わず口に出そうになったが、どうにか口の中で抑えた。


 この状況をどう切り抜けようか考えながらも、目の前にいる子供がただの子供でないということは、完全に理解できた。


 さて、どうしようか? 何か手を打たないと、延々とこのやり取りを続けることになる。


 仕方がない、ここは打って出るしかない。


「え、えっと……その……」


 恥ずかしい。それを見透かしていのか、ミナハは期待に満ちた眼差しを、私に向けている。


「――その……キスとか?」


「…………プ、あはははははは!」


 笑いを堪えていたのだろうか。ミナハは自身の手で押さえている口から一言発して、そして嘲弄の声を上げた。


 その表情は、実に良い笑顔だった。


「わ、笑うなー!」


「だ、だって……キスを言うだけで、ここまで恥ずかしがるなんて、どこまで初心なの? おねえちゃんは……あははははは!」


「も、もう! いい加減にしてよ!」

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