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第9話ー6

 私は再びコーヒーを作り、食卓に並べた。それからミナハを真正面に見据えて、話を始める。


「ミナハ。あなたは、私に世界に価値があるか否かを決めて欲しい、そう願ったわよね?」


「ああ、そうだが?」


「そう。でも、それは本当の願い?」


「……なぜ、そんなことを聞く?」


 ミナハは、微妙に嫌そうな表情をしている。でも、これは肝心なことだ。きっちりと、その想いを聞かなければならない。


「いいから答えて」


「はあ……君も知っているだろう? 俺は、メイとアンを取り戻したい。でも、それができないから、世界を壊して、自分も消えようと思った。ほら、これで満足か? 傷口を再び抉って、マスタードやワサビを塗りたくるような真似をして」


「ええ、満足よ」


 そう。彼の悩みは、水無月メイと、不知火アンを取り戻すこと。では、どうしてそれができないのか?


「それじゃあ、どうしてそれをしないの?」


「できるわけがないだろう! 彼女たちは、俺が消した。10年前に、ケイオスのエネルギーに変換した。魂すら残っていない存在を、どうやって蘇らせる!?」


「その通り。できるわけないわよね」


「……美奈陽。君、俺をおちょくってるのか? 俺は少なくとも、君を傷つけるようなおちょくりは、してこなかったつもりだが?」


 ミナハは食卓を叩いて立ち上がる。


「いいえ、そうじゃない。そうじゃないの。これは、あなたの救いの道を作るための問答。つらいかもしれないけど、我慢して付き合って」


「救いの道? そんなものがあるとは思えないが……まあいい。どうせやることもないから、付き合うさ」


 ミナハは再び掛け直す。


「それじゃあ、再開するわね。あなたは、メイとアンを取り戻したい。でも、彼女たちの魂がないから蘇生できない。ここまでは合ってる?」


「ああ、その通りだ」


「それじゃあ、光を使って、過去に戻れない? 光は、単純に光そのものだけでなく、時間とも密接な関わりがある属性。私たちがケイオスやカオスに乗ってもできそうになかったけど、あなたなら、時間の停止はできる。だから、その延長上で、過去へ行くことはできない?」


「それは無理だよ、美奈陽」


「守人?」


 ミナハではなく、守人が答えた。


「以前、子供の姿をしたミナハから、それについては聞いている。確かに、彼は時間を超越することはできる。でも、自分自身を送ることは、彼の存在があまりにも大きすぎるから、できない。逆に、他の人なら送れるけど、ミナハぐらいの実力がなければ、過去は変えれない。仮に変えれるとしても、その人はどうやって帰ってくるの?」


「最後の問題については、ケイオスを手に入れたミナハがいる時代なら帰ってこられるとは思うけど、それは置いておきましょう。とりあえず、問題点は見つかったわね」


 整理しよう。まず、ミナハの目的を達成するためには、どういう形であれ、時間を操作する必要がある。でも、ミナハを過去に送ることはできないし、他の人が送れても、結果は変えられない。つまり、今、この時代にいる私たちには、変える術がない。では、どうするか?


「ミナハが過去に飛ばず、過去に干渉する方法。それがあれば、結果が変えられる。そういうことにならない?」


 この問題提起に、3人の反応はバラバラだった。


「僕には、良く分からない」

「そんな手が、あるのか?」


 守人はギブアップをし、ミナハは、若干の希望を持った瞳をこちらに向け、尋ねている。そして、涼姫は、


「美奈陽。あなた、その物言いからして、結論は出ているのでしょう? もったいぶらずに、話したらどうですか?」


 私の示す答えに気づきつつあるのか、答えを促してきた。


「ええ、もう答えは見えたわよ。現代の人に結果が変えられないなら、過去の人に変えて貰えばいい。そう思わない?」


「うん?」


 守人はまだ理解できないようだ。


「ああ、なるほど」


 涼姫は納得している。そして、


「そんなことは……不可能だ」


 ミナハは方法にまで至ったらしく、その上で、私の答えを否定した。


「美奈陽。君の提案は、過去の俺に、メイとアンをエネルギーにさせるのではなく、他の所からエネルギーを調達させる。そういうことだな?」


「ええ、そういうこと。そうすれば、メイとアンは理屈上、蘇る」


「それじゃあ、どこからエネルギーを得る? カオスが電気や油――様々な魔力になるものを独占していたのに、どこからエネルギーを調達する? そもそも、どうやって過去に行かずに、結果を変える?」


「ああ、そういうことか」


 ようやく、守人は理解したようだ。涼姫はミナハの指摘を受けて、私の提案に難色を示しているようで、


「美奈陽。あなた、希望を持たせることを言って、後からどん底に叩き落としたいのですか? あなたが先ほど、私たちに問いかけをして、答えを見つけたようですが、それが答えですか?」


 珍しく、守人以外のことで、私を睨んでいる。流石の彼女も、ここまでのことを嫌がらせに使うことは、人としてどうかと思うのだろう。でも、これは嫌がらせでも何でもない。


「涼姫、まだ話は終わってない。ここからが、本題。私の至った結論、それは――」


 それは、ミナハが当時、思いつかなかっただろう方法。今までの私と同じで、人に頼るということをせずに、すべてを背負って戦ってきたから、気づけなかった道。それは、




「人間に、魔力を分けて貰う」




 人に――頼ること。人を――信じること。


「……美奈陽。君、本気でそんなことを言っているのか?」


 当然、ミナハはそう言うだろう。予想はできていた。私は、彼を説得する。


「ええ、本気。他に、方法はないでしょ?」


「ああ、確かにそうだろう。だが、そんなことはできない。人間から魔力を分けて貰うといっても、どれだけ必要だと思ってる? 死なない程度に分けて貰うとして、少なくとも世界の総人口の半数ぐらいないと、2人の代わりにはならない。

 それに、それだけの人間から、どうやって魔力を回収する? カオスと同じように使い魔のようなものを飛ばすとしても、採算が合わない。トータルでマイナスか、良くてトントンだ。君の考えは、破綻している」


「いいえ、破綻していない。私の考えは成立する」


 彼は、『人を信じる』という発想がまだできていないようだ。私はその間違いを指摘する。


「あなたの言う通り、人間から無理矢理奪うのであれば、成立しない。でも、真摯に訴えて協力を求めるのなら、成立する。たとえば一定の場所に集まってもらって、そこに向けてケイオスから触手とかを出して、それに触れたら魔力を回収できるようにする、といった方法ならどう?

 かかるコストは少ないし、コスト込みでも、だいたい世界の総人口の5〜6割ぐらいから回収できれば、成立すると思うけど?」


「でも、それは協力してくれたらの場合。訳の分からない奴が協力を求めても、それに応えてくれると思うか?」


「だから……さ」


 諭すように、私は話す。




「人を、信じてみたら? あなたは、今まで自分――いえ、仲間だけを信じて戦ってきた。その固まった頭を叩き割って、他人を信じる――協力してくれることに賭けてみたら?」




「……」


 ミナハは黙る。


「でも、そもそも協力を求めるといって、どうやってやるわけ? 過去に飛べないのなら、それは机上の空論じゃないの?」


 代わって、守人が質問してきた。


「それは、あくまでもミナハが過去に飛ぶ場合の話。でも想いを過去に飛ばすだけなら、時間への干渉は微々たるもの。ミナハの想いを宿した小さな虫でも飛ばせばいい」


「ああ、そういうことか」


 ようやく納得したようで、守人も口を閉ざした。涼姫からも、特に指摘はなかった。

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