第9話ー1
そこは、広々とした草原だった。見渡す限りの緑。どこまで行っても、緑しかなかった。
私――彩美奈陽は、そこで1人で立っている。7歳ぐらいの姿で。
「私は、どうなったんだろう? 死んだ?」
カオスと戦っていたことは記憶にあるけど、その結果がどうなったのかが覚えがない。
「いいえ、死んでいませんよ」
どこからか、声が聞こえてきた。
「誰?」
「ここだよ」
背後から肩を軽く叩かれた。振り返ると、今の私と同じ歳ぐらいの少女が2人いた。
「お疲れ様、美奈陽」
「お疲れ、美奈陽ちゃん」
クールな青髪の少女と、明るい黒髪の少女。2人が私に話しかけてきた。
「あなたたちは……メイとアン?」
「そう」「そうだよ」
同時に答えてきた。
「ここは、どこ? カオスと戦ってたはずなのに、どうしてこんなところに?」
「美奈陽……あなたは、敗けた。あなたが思う人々に」
「敗けた……?」
「そうだよ、美奈陽ちゃん。覚えてない? 守人君と涼姫ちゃんが、美奈陽ちゃんを揺さぶったこと」
「守人と涼姫……」
そうだ。最後の激突の時、涼姫が私を扱き下ろして、守人が……
「……あ!」
思い出した。守人はあの時、私にあんなことを……ああ、そういうことだったわけね。
「私を動揺させて、デスアンドバースを打ち破った。つまり、私は……敗けた」
無の力が失われた以上、強大なエネルギーの塊である無の力に抗う術はなかった。激突していた両腕が壊され、そのままコックピットを抉られたんだ。
「思い出したようですね」
「……ええ。思い出したわよ」
あの時、守人らしき人物は懸命に叫んでいた。ミナハが心変わりしたと。だとしたら、私のしてきたことは何? まったくの、無駄だったってこと?
「そうではありませんよ」
私の内心の問いに、メイが答えた。
「彼は、最後まであなたに結論を委ねていました。ただ、それ自体が間違いだと気付いたのです。だから、彼は止めようとした。あなたを止めて、その上で、自分で決断すると。
でも、その答えに気づくためには、あなたが必要だった。あなたが動いてくれなければ、きっと彼は、そのことに気づけなかった。だから、あなたの行動は、決して無駄ではありません」
「メイ……」
「そうだよ、美奈陽ちゃん。美奈陽ちゃんは、精一杯お兄ちゃんの願いに応えようとした。それ自体は、尊いことじゃないかな?」
「アン……」
2人は、私を慰めてくれているのだろうか。
「それもありますが、あなたにお願いしたいことがあるのです」
再び内心に対する答え。で、そのお願いとは?
「お兄ちゃんを、助けて欲しいの」
「ミナハを、助ける?」
アンに聞き返すと、メイが答えてきた。
「そう。彼は、もう答えを出しています。ですが、それだけではきっと、彼は救われない。このままだと、彼はいつか、自分の手で世界を壊してしまうかもしれない。たとえ、私たちの犠牲が無為に帰すとしても」
「それは……」
……そうかもしれない。今は壊さないという答えでも、またいつか、心変わりしてしまうかもしれない。
「だから、美奈陽ちゃんに助けてほしいの。お兄ちゃんの、本当の意味での……救済を」
「アン?」
アンの姿が、徐々に薄くなっていっている。メイもまた同じように消えつつある。
「そろそろ……私たちを形成している魔力が、完全になくなる……ようですね」
「そんな!? どうすればあなたたちを助けられるの!?」
消えつつある二人に触れようとするが、もう触ることすらできない。
「いいんだよ、美奈陽ちゃん。ボクたちは、元々存在しない……残留思念に……過ぎないんだから。最後に美奈陽ちゃんとお話しできて……楽しかったよ」
「アン!?」
「そう。だから……悲しむことはない。あの人を……お願い……」
「メイ!?」
「「さよ……なら」」
最後に別れを告げて、二人は消えて行った。
「メイ……アン……」
二人が立っていた空間を、私は少しの間見つめていた。




