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第8話ー9

 追撃の心配はあったが、ケイオスはそれをしなかった。こちらが後退すると、その場で無の力の再チャージにかかる。


 こちらも、再び手を組み合わせる。拡散していった無の力が両手に戻ってくる。


「涼姫。僕は、賭けにでようと思う」


「賭け?」


「そう。先ほどの美奈陽の戦いぶりからして、彼女はこちらの攻撃を避けない。だとすれば、最大出力の攻撃も、避けないはずだ。だから、そこで勝負に出る」


「それはいいけど、何か策があるの?」


「ああ、彼女の――自滅を狙う。君が揺さぶって、僕が仕上げる」


「自滅? ……ははーん、そういうことね。あなたも、私色に染まってきたってことか」


 嬉しそうに、笑顔で涼姫は応じた。……こ、怖い。その笑いは、物凄く、怖い。彼女のような発想でこの手を思いついたけど、やっぱりこの人は怖い。


『お二人とも。仲睦まじいのは結構ですが、そろそろケイオスが来ますよ?』


 クヌムの指摘により、僕は気を入れ直す。両手を前に掲げ、加速する。




「はああああああ!」

『くだけろおおお!』


 互いに吠え、組み合わさった2組の拳がぶつかる。先刻の、ミナハとケイオスとの激突よりも、さらに激しい衝撃が、2つの機体を中心として世界に広がる。海が大きく荒れ、大地も激しく動いた。


「だああああ!」

『あああああ!』


 出せるすべての力を使った激突。両者共に、拳を護る篭手を失っているので、直接拳に衝撃が走る。これまでとは比べ物にならない苦痛が、僕たちを襲う。初めて美奈陽がうめき声を上げたことからも、ここが正念場と言うことが良く分かる。


 僕は、勝つために、叫ぶ。


「美奈陽ー! 話がある!」

『もう、話は終わった! 今更話すことなんて、ない!』


 ちゃんと返してくれる。どうやら、僕の策は実行できそうだ。打ち合わせ通りに、僕は涼姫に頼む。


「美奈陽。あなたは、惨めな女ですね」


『……どういうつもり?』


「だって、あなたは守人君を失って、さらに、その機体にあった水無月さんと不知火さんまで、失ったのでしょう? つまり、あなたは一人ぼっちということです。かわいそうですね」


 苦笑を織り交ぜて、涼姫は美奈陽を嘲弄する。


『だから何? 一人ぼっちなのは、10年前から慣れてるわよ!』


「だから、あなたはかわいそうなんですよ。本当はつらいのに、無理をして立っている。見てて、痛々しいですよ。本当は、つらいって叫びたいのでしょう?」


『な……うるさい! あんたに、何が分かる!? 恵まれたあんたに、私の何が理解できるって言うの!?』


 美奈陽が、動揺してきている。


「分かりませんよ。あなたの言う通り、恵まれた環境だったのでね。さて、あなたがかわいそうである、最大の理由をお話ししましょう。それは、あなたが憧れた神が、唯一あなたが信じた神までもが、あなたを裏切ったこと。どうです? つらいでしょう? あなたは今、何を支えにして立っているのです?」


『そんなもの、私が神の願いを託されたから……それに決まってるじゃない!』


「いいえ。あなたはただ、意固地になっているだけ。私と数時間前に話している時もそうでした。あなたは落ち着いているように見えて、脆い。私がそこをつつくと、あなたは暴力に訴えた。あなたは、自分が正しいと思ったことを貫きたい。ただそれだけで、あなたはここにいる」


『違う、違う! 私は、本当にあの人の願いを叶えたいだけ! 自分の感情に流されてなんていない!』


 美奈陽の心は、さらに揺れている。もう少しで、いけそうだ。


 ところが、涼姫は、僕の想像の斜め上をいくことを言い出した。




「まあ、あなたのことなんて、どうでもいいんですけどね」




「『な……に?』」


 僕と美奈陽の言葉が重なった。


「ぶっちゃけて言えば、私がここにいる理由――それは、あなたがやろうとしていることが、私にとって迷惑だから。だって、せっかく守人君が私に靡いてきたのに、あなたに世界を壊されたら、イチャイチャできないですからね。だから、私の願いは、ただ1つ」


 少し溜めを作り、身勝手な理由を、凛とした口調で叫んだ。




「美奈陽。あなたを、殺すことです。あなたがいては、私と守人君のためになりません。お願いですから、死んでください」



「な、な、な……」


 彼女を諭して、自滅に持ち込むはずだったのに……これじゃあ、火に油を注ぐようなものじゃないか。


『あ、あ、あんた……』


 予想通り、美奈陽の怒りは頂点に達した。


『どこまで、身勝手なわけ!?』


「さ、今ですよ、守人君」


 ここで、バトンタッチ。まさか、こんな揺さぶりをかけるとは思わなかったけど、結果として予想以上の成果。彼女の心は、涼姫への死に傾いている。これなら、上手くいく。


 僕は、仕上げに取り掛かる。


「でもね、美奈陽。僕は、そんな真っ直ぐな君が好きだよ」


『え……?』


「いつも前だけを向いて、走り続けてきた。僕は、そんな君に憧れていた」


『守人……』


「涼姫は君を悪く言うけど、僕はそれも、君の魅力だと思う。自分の信じることを貫く。それは、決して悪いことじゃない。確固たる信念を貫くことが、どれだけ難しいか。僕には良く理解できる」


『……』


 ケイオスから溢れ出ていた殺気が、薄れつつある。あと、もう少し。


「だから、僕は君を否定しない。そして、もう一度言わせてもらう」


 照れ臭くて、言葉が詰まりそうだ。でも、はっきり言おう。無粋な戦いの場に似合わない、純粋な思いを告げよう。僕はイメージを維持しながら、一呼吸した。そして、




「――僕は、君が好きだ」




 本心を吐露した。


『あ、あ、あ……』


 美奈陽が、言葉を失くしている。次の瞬間、異変が起きた。


『あ!?』


 ケイオスの両腕から、無の力が消えた。それが、戦の終焉の合図だった。


『きゃああああああああああああああ!』


 無の力が消失したケイオスは、脆かった。一瞬で両腕が粉々になり、そのままコックピットにカオスの拳が届いた。


「うおりゃああああ!」


 コックピットをこじ開け、美奈陽を抉り出す。抵抗もなく、美奈陽はカオスの腕に抱えられ、その姿を見せた。


「美奈陽……」


 美奈陽は意識を失っていた。両腕はケイオスと同様に粉々になっていて、腕としての機能を果たしそうにない。それに出血も酷く、瀕死の重体だった。


「さて、後片付けをしようか」


 突如、カオスの中から声が聞こえた。


「ミナハ!?」


「おめでとう、二人とも。よくもまあ、技術で勝る美奈陽を倒せたものだよ。しかも、力押しで勝つんじゃなくて、心を揺さぶって、デスアンドバースを解除させるなんてね」


「彼女のおかげだよ」


 僕は涼姫を見つめる。彼女の巧みな言葉――ミナハを論破する姿を見て、思いついた。




 そもそもデスアンドバースという術は、正反対の力のイメージ――生命と死という矛盾したイメージを鮮明にしなければならない。さらに、これを同時に浮かべ、合わせなければならない。


 つまり、バランスを崩して不安定にすれば、より強いイメージに流され、無の力が維持できなくなる。

そこで僕が考え付いたのは、生命と死の強弱を揺さぶり、バランスを崩すこと。嫌っている涼姫が煽れば、彼女を殺したいという欲望を抱くだろうし、僕から告白すれば、多少なりとも生命の方向に揺さぶれるだろう。結果としてこれは成功し、彼女に打ち勝った。




「さすがの俺でも、そこまでは思い付かなかったよ。さすが、性悪女とその彼氏」


「お褒めに預かり光栄ですね。ですが、あなたは瀕死の重傷だったはず。どうして、そんなにピンピンしてらっしゃるので?」


「そのことか。簡単な話さ。君らが勝ってから、カオスの生命維持に必要な機能を残して、残りの機能を魔力に変えて、俺の治療と魔力補給に使った。後は帰還するだけだから、問題ないだろう?」


 それは、良い。で、後片付けというのは?


「彼女の治療と、この戦いによる損害の回復さ」


 ミナハはコックピットを開け、外に出た。その足で美奈陽の所へと趣いた。


「すまなかったね、美奈陽。また後で話せると思うから、今はお休み」


 ミナハは優しく美奈陽に触れる。その手から青緑色の光を放ち、一瞬で癒した。失われた腕が元通りになっている。


「俺は、彼女が破壊してきたものを戻してくる。自分のケツは、自分で拭くものだ」


 ミナハは、カオスの掌からケイオスのコックピットに飛び移った。


『それじゃあ、後はよろしく』


 ケイオスが青緑色の光に包まれていき、美奈陽と同様に、一瞬にして戦いで負った損傷が直った。粉々になった腕だけでなく、失われた翼までもが元通りになった。


 そして、美奈陽を僕に託し、何処かへと飛び立っていった。




「……」


 僕は、ケイオスの軌跡をしばらく見ていた。


 色々思うところはあるけど、まずは、カオスを下ろさなくては。工業区の、人があまりいないところが良いだろう。


 美奈陽をコックピットの中に入れ、降下を開始した。


「ああ……疲れたな」


 いつの間にか、日が昇りつつある。陽光のまぶしさを感じながら、僕は長い一日が終わったのを実感した。

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