第8話ー2
ケイオスは、その場から動かなかった。でも、両手に2丁のライフルを構えている。それをカオスに向け、何かを発射した。
「あれは……氷!?」
放たれたのは、巨大な氷。直径1キロメートルほどの氷塊が、こちらに向かって飛んで来る。
「はああああ!」
瞬時に炎を双剣に付与。氷塊を砕きにかかる。だが、
「あれ?」
氷塊は、思いのほか、簡単に砕け散った。大きな破片が周囲に散らばっていく。
あまりの呆気なさに拍子抜けしそうだが、このメンバーの中で唯一、その攻撃の意図を理解していたミナハが叫んだ。
『光が来るぞ!』
「光?」
言葉の意味を理解しようと頭を巡らせようとしたところで、その真意が現実化した。向かい合っていたケイオスからではなく、まるで方向違いのところから、閃光がカオスを貫いていた。
「ぐあ! ……ミナハ、これは!? ……あああああ!」
続けて、数十発の閃光が襲ってくる。ミナハも翼で防御してくれているが、回避しきれずに何発か被弾しながら、尋ねる。
『これは、壊させた氷を利用した、光による攻撃。周りを良く見ろ』
言われて周囲を見渡すと、先刻砕いた氷が、チカチカと光っているのが見えた。何度も反射を繰り返しながら、的確にカオスに襲いかかって来る閃光。それはもちろん、ケイオスが放ってきたものだ。
『これは、メイが得意していた戦法だ。ワザと氷を破壊させて、その破片を利用して、ありえない角度から光による狙撃を行う』
「対処法は!?」
『反射をさせないことと、閃光を防ぐことの、両方だ』
「分かった!」
反射を防いでも、閃光による攻撃は続く。閃光を防いでも、今度は氷の破片による攻撃が行われる。両方に対処する必要があった。
僕は、カオスの表面に闇の力による霧を纏わせる。ケイオスの閃光は、数こそ多いけど、破壊力は微々たるもの。この程度の力で防ぐことができる。続けて、周囲に炎をまき散らすことで、氷の破片を溶かした。
「これで――い!?」
これで、完全に防げたはず、僕はそう思った。でも、ケイオスの攻撃は、本命に繋げるための布石に過ぎなかった。
「な、な、なんじゃありゃ!?」
ケイオスの周囲に散開していた翼は、いつの間にかケイオスの下に集結していた。6つの翼は魔法陣を描き、そこでは火、水、天、地、光、闇の六属性の力が淀みなく混ざり合っている。
『すまん、忘れてた。この集束砲に繋げるための、さっきの攻撃だということを、言い忘れた』
「おいいいい!?」
こちらが揉めていても、ケイオスは変わらず作業をこなす。2丁のライフルをこちらに向け、そこに合成した力を流し込んでいく。
『ともかく、相殺しろ!』
「相殺って言っても……」
あちらの様に、準備をしていた上でならば、的確に集束砲撃ができるだろう。でも、今にも撃ち出そうとしている敵を前にして、そんな隙はない。
「守人君、回避したら?」
『ダメだ。もう、それは読まれている』
ミナハの指摘通り、ケイオスはこちらに避けさせないための行動をとっていた。こちらが下になるように位置を変え、狙いを定めている。
『いいから、早く合成に入れ! でないと、お前たちも、地上もすべて消えるぞ!』
「ああ、もう……了解! 涼姫、水、地、闇!」
「はい!」
涼姫の3属性の発動を命じる。僕は逆に、相反する火天光を発動させる。
「く……あああ!」
今までのように1属性だけならば、簡単に発動ができた。でも、それが3つとなると、脳の負荷が段違いに増える。しかも、反発する属性と同じレベルの出力で発動させなければ、合成はできない。
「こ……んのおおお!」
双剣を2つの篭手に変え、そこに各々の力を集める。僕のイメージをカオスの右手に発動させる。涼姫も頑張ってくれたようで、彼女のイメージが左手に具現化している。
「はああああああ!」
続けて、混ぜる作業。6個の属性を準備なしで混ぜるという荒業に、両手が近づくにつれて激しいスパークが起き、それが痛みとなって僕たちにフィードバックされる。
「きゃああああ!」
涼姫が悲鳴を上げる。でも、彼女はまだ仕事をこなし続けてくれている。
「頑張れ、涼姫。もう、ちょっとだから。ぐあああ!」
あと数センチ……3、2、1……
『来るぞ!』
そして、集束砲が放たれた。6色に輝く、色鮮やかな極大の一撃が、カオスを討たんと襲いかかって来る。
「うおおおおおお!」
集束砲が迫り来る刹那、どうにか両手が組み合わさった。同じく両手から集束砲撃を放って、相殺を図る
「うおおおおおお!」
激突する2つの極大砲撃。もしこの一撃が地表に落ちれば、世界の3分の1は一瞬で消える。
立ち位置の関係上、僕たちは、絶対に負けられない。負ければ、その時点で終わりだ。
「相殺……仕切れるか?」
僕の脳裏に嫌な予感が走る。
2つの砲撃は相殺されている。でも、放出し続けているエネルギーは、次々と生産しているもの。途中で供給が途切れたら、瞬く間に均衡が崩れ、飲み込まれてしまう。
この点で問題なのが、おそらく向こうは、手慣れた2人を使って全属性をイメージし放出しているのに対し、こちらは不慣れな2人でそれを行っている。僕か涼姫の集中力が途切れ、6つの属性の内1つでも消えてしまえば、その時点で均衡は崩れる。
――その予感は、的中した。
「はあ、はあ、はあ……」
突然、涼姫の息が上がってきた。顔色を見ると、青ざめていて疲労の限界のようだった。
「涼姫! しっかりしろ! 後、少しだから!」
僕の言葉通り、ケイオスの方も限界が近づきつつあった。あれだけの攻撃なのだから、魔力の消耗も激しい。砲撃の勢いが、徐々にではあるが、弱くなってきている。
「う……ん」
リンクしているカオスを通じて、涼姫の異変が伝わってくる。彼女の瞳が虚ろになっている。
どうする、どうする!? このままだと、涼姫のイメージが消えて均衡が崩れてしまう。ならば、僕一人で全属性のイメージをするしかない。
でも……。
「僕一人で……できるか?」
一度に3つの属性をイメージするだけでも、かなり頭が痛い。なのに、その倍を行えるのか?
『それは無理だ。3つでもギリギリなのに、その倍はお前の脳がショートして、廃人になる。後、10秒だけ持たせろ。そうすれば、この場は何とかする』
「ミナハ?」
その言葉を聞いた直後、僕はカオスの外にいるミナハの姿を見た。ミナハは警戒に使っていた4つの翼を手にしている。2つは、カオスの大きさほどもある篭手になり、ミナハはそれを両腕に装着している――ちょうど、着ぐるみを纏っているかのように。残る2つは8つの小型の翼になり、ミナハの背面に設置された。
「しっかりと見て置け。これが、俺からの、最後のレクチャーだ」
ミナハは巨大な篭手を着けた両手を広げ、それぞれに異なる力を発現させる。右手には死、左手には生命。青緑色と暗緑色、二つの緑色の輝きが現れる。
「プラスとマイナスの命を合わせることで、それは無のエネルギーになる。無は、すべてを飲み込むエネルギーの塊。どんなエネルギーもゼロにされる。
これは、最後の切り札。魔術戦においては最強の力だが、扱いが非常に難しい。僅かでも狂えば、忽ち相殺されてしまう。完璧に同じにしてこそ扱える力」
ミナハは、先刻僕がやったのと同じ要領で、両手を強引に組み合わせようとしている。しかし、集束砲撃とは比べ物にならないスパークが起こり、その反発する力はミナハの身を傷つけている。
「デスアンドバース。これが、発動する術名。使うのに名前を言う必要はないが、イメージするには役立つ」
全身の痛みに耐えつつ、ミナハはついに、両手を合わせた。二つの命のエネルギーが、灰色の無のエネルギーへと変わった。
「それじゃあ、後はよろしく」
ミナハの翼が展開し、翼に備え付けられたバーニアがうねりを上げる。
「ちょっと待って! あなたがいなくなって、カオスはいいのか!?」
「大丈夫だ。そいつの調整は、最終段階に入った。今から約1分間、満足に動けなくなるが、その後は君たちだけで動かせる。その1分間は、必ず俺が護り抜いて見せる」
ちょうど、10秒が経った。涼姫の集中が途切れてこちらの砲撃が消えるのと同時に、ミナハは敵の砲撃に向けて、両手を前に突き出して飛んで行った。




