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第7話ー6

 穴に飛び込み、落下し続けていると、地下10階と壁に書かれているところで、突然穴が小さくなった。僕は位置を調整して、落下を続ける。すると、巨大な空間が広がっているのが見えてきた。地下11階と表記されているそこには、かつてみた、悪魔の姿がある。


 地面が近づいてきたので、僕はあわてて闇の力による重力軽減を行い、着地した。


「これが、悪魔――か」


 10年前、遠目で見た機体。ケイオスとは違って攻撃的なフォルムをしているけど、やはり人に近づけて造られたのか、どことなく美しさを感じさせられる。




『正確には、カオスだ』




 どこからか、ミナハの声が聞こえてきた。周りを見渡すが、どこにも彼の姿はない。


「守人君。あの人は、そこだよ」


 悪魔――カオスの近くに、涼姫さんが立っていた。彼女は、カオスを指し示している。


「機体の中?」


『ああ、そうだ。ただし、こいつの動力炉だがね』


「動力炉?」


『そう。この機体は、10年前程の能力はない。俺が破壊した時にこいつの生命活動も停止したから、このままでは、ただの機械に過ぎない。そんな機体じゃあ魔力は使えないし、ケイオスは倒せない』


 『このままでは』と言うならば、当然、打開策はあるということだ。僕の考えを把握しているかのように、ミナハは続ける。


「だから、俺がこいつと融合することによって、擬似的に生命活動をする機械にするから、能力面では問題ない。俺が1人でも、()()()()()()()()()()()()と、同じぐらいの魔力の生産・供給はできるからな」


 問題ないなら、どうしてわざわざそんなことを?


『ここからが肝心だ。つまり、俺がカオスの能力向上に力を割くということは、当然、こいつを操縦するのは君たちになる』


「ということは、経験が皆無な私たちだけで、あの巨人を撃墜しろと?」


『そうだ。力の使い方についてはレクチャーしたから、特に問題はないだろう? 機体の取り扱いについても解説するし、できる限りのフォローもする。ある程度の時間が経てば、こいつ単独でも生命活動ができるようになるだろうが、それまでに決着がつかないという保障はない。やはり、君たちがどうにかしなければならない』


「だから、私たちに力を与えて、カオスに乗れ――ということですか?」


『ああ、そうだ。俺自身で片付けろと言うなら、こいつが独立して生命活動をするまで調整をしても良いが、多分、美奈陽が世界を破壊する方が早いだろう。だから、君たちの力を借りたい。そういうことで、さっきの問いに戻るが――守人、君はどうする?』


 答えはもう、決まっている。先刻、リンゴを受け取って、食べた時から。


「その条件で構わない。行こう、涼姫さん」


 涼姫さんの手を取り、僕たちはカオスのコックピットに飛び込んだ。


 中は、非常に簡素な設計になっていた。前後に操縦席があるだけ。操縦席と言っても、操縦桿やパネル、計器のような、機体を動かすのに必要な装置がない。


 涼姫さんが後ろに座り、僕が前の操縦席に座る。すると、突然四肢が鋼鉄の輪により固定され、一瞬チクリと痛みを感じる。しかし次の瞬間、痛みは消え去り、僕は遥か高みから、地面を見下ろしていた。どうやら僕は、カオスの目線で、外を見ているようだ。


『これで、君たちとカオスは完全に接続した。思考するだけで、こいつは動く。だから、操縦桿のような類はいらないのだよ』


 僕の内心の疑問に、やはりミナハは聞かれてもいないのに答えた。


「つまり、殴りたいと思えば、こいつはその通り動くってわけか」


『そうだ。なので、自分の身体の延長だと思って動かすと良い。ただ、痛覚も接続されているので、この機体が傷つけば君らも当然、痛みを覚える。場合によってはそのままフィードバックされて機体と同じ傷を負うから、覚悟したまえ』


「了解」


 軽く、カオスの動作確認をしてみる。突きを出し、蹴りを放ってみる。実際、ただ思っただけで、この機体は動いた。


「さて、行こうか。機体は僕が動かすから、涼姫さんは翼のコントロールと、補助をお願い」


「……」


「涼姫さん?」


「守人君。私、言ったよね。さんはいらないって。同じことを3回も言わせないでくれる?」


 笑顔を向けながら、青筋を立てている涼姫さん。でも、この人の黒い部分を知った今となっては、呼び捨てにするのが怖い。


「もーりーと、くーん?」


 ああ、怖い。でも、ちゃんと言わないと、彼女はきっと承諾してくれないだろう。ここは恐怖を乗り越えて、命令する感じで行こう。


「……涼姫。僕が操縦で、君が翼のコントロールと戦闘補助・支援。これで行くよ!」


「おおー」


 涼姫さんが、カオスを使って惜しみない拍手をくれた。


「それで良いよ、守人君」


「……満足してくれた? なら、行こう。手遅れになる前に!」


 閉じている翼を広げ、そこに設置されたバーニアに火を入れる。同時に天の力による気流操作も行い、準備はできた。


『稼働率百パーセント。突撃媒介翼(アサルト・ウィング)出力良好。いつでも行けるぞ、守人』


「了解。カオス、出撃!」


 僕の叫びと同時に、カオスは飛翔した。研究区を一瞬にして脱出し、すぐに雲を突き抜けた。


「は、早い!」


 すでに音速の域を超え、光速にも迫る勢いだ。通常ではコントロールできない速度に圧倒されながら、ちょうど暴れ馬を乗りこなしているような感覚で飛び続けていると、数分も経たない内に、ケイオスの姿が見えてきた。


「美奈陽ー!」


 僕――カオスが叫ぶ。


 だけど、僕の声は届いていないようだった。ケイオスは両手に剣を装備して、突撃してきた。


『コワシテヤル!』


 以前の彼女からは想像もできない、憎しみに満ちた、呪詛の言葉を吐き出しながら。

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