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第1話ー4

 神様――か。


 帰り道。私は歩きながら、思い返す。あの神に乗っていた青年を。


 腰まで伸びた緑色の髪をしていて、長身。知性と品格を漂わせた風体。何よりも印象的なのが、大切な人を失ったことによる、寂しくて、悲しそうな表情。自分も悲しんでいるはずなのに、彼は別れ際に、優しさが溢れる笑顔を、最後に見せてくれた。


 私はその在り方に――憧れている。幼い頃の記憶だから理由は分からないけど、憧れている。


 だから、私は彼に再びあうために生きてきた。今度は、私が彼の悩みを聞いて、助けになってあげたいと思うから。


 でも、ただ生きているだけじゃ、彼の話を聞いても助けてあげられない。理解ができない。だから、私は自分のことだけでなく、人のためにも働き、何かを成し遂げようと思う。それでこそ、彼に近づけると思う。彼のことが理解できるのだと思う。




 そんなことを思うようになったのは、私が放浪生活を終えてからだった。


 日本復興の目途が立ったのは、世界の崩壊日から1年後。それまではリバイブ等の導入はできず、食料の配給もままならなかった。必然として食料の奪い合いが起きた。


 私は生き残るため、知力、体力を鍛えてきた。いや、鍛えなければ、生き残れなかった。


 ランダムに回ってくるわずかな配給にありつくため、配給の傾向から時間帯を推理し、先に取られないために走り、奪われそうになったら返り討ちにする。特定の場所に定住していたら、飢えた人に襲われかねないので、各地を転々としてきた。たった一人で。


 努力の甲斐あって、ひどい暴力を受けることもなければ、食いっぱぐれることもなかった。


 1年後。リバイブ等が導入され、復興が進展していった。施設も充実していき、各地を転々としてきた私は、ようやくA県の新緑町で落ち着くことができた。

 そして、私はようやく、他人のために働くということを考えられるようになった。




「あ、あのー!」


「はい?」


 回想が一段落ついた頃だろうか。学校を出て途中にある商店街を過ぎ、寮の近くの公園に差し掛かったところで、突然背後から声がかけられた。私は振り返る。


「……陣君。どうしたの?」


 そこにいたのは、守人だった。肩を上下させていて、疲れているようだ。おそらく、あわてて走ってここまで来たのだろう。


「その……会長。ちょっと、話せますか?」


 疲労からか、緊張からか――彼は、ゆっくりと、途切れ途切れに話す。


「構わないけど?」




 守人の打診に応じて、公園のベンチに掛ける。その時、彼はハンカチでベンチを払ってから、座るように促した。それに、暖かい缶コーヒーをくれた。こういう、細かい気配りができるのは、彼の良いところで、普通の女性なら好感を持てると思う。昨今の女性は、真面目で気配りができる男を好むらしいし。ただ、残念な所がある。


「あの……ですね、会長。最近……調子は、どうですか?」


「別に? 私は普段通り、変わらないけど? そういう君はどうしたの? いつも彼女と一緒に帰っていると思うけど、珍しいわね」


「いや、団さんは僕の彼女というわけではなくて……」


 一体、彼は何を言いたいのだろうか。どうにも要領を得ない。こういう、言いたいことをはっきり言えない優柔不断さというものが、癇に障る。


「ねえ、陣君。あなた、私に何か用があるの? 用があるなら、はっきり言ったら?」


「そ、それは……」


「それは?」


 何だと言うのだろう。


「それは……み、みな……」


「みな?」


「み、みな……ひ、さん」


「……何? 守人君」


 しどろもどろしながら私の名前を呼ぶ男に、私は同じく名前で呼んで返す。


「最近、美奈陽さんは……」


「美奈陽さんは?」


 何だろうか。学校でのやり取りにもイライラさせられたが、こうやってグズグズされるのにもイラっとしてくる。


 私の苛つきを察したのだろうか。守人は覚悟を決めたように、しっかりと私の眼を見つめる。


「美奈陽さんは……」




「あー! ようやく見つけたー!」




 守人が何かを口にしたようだが、それは甲高い声にかき消された。


「もうー、守人君! 先に帰っちゃうなんて、ひどくない? あたし、守人君をずーっと探してたのに、こんなところで会長と油を売ってるなんてぇー」


「あ……団さん」


 守人は何かを諦めたのか、肩を落とした。


「……それじゃあ、会長。お疲れ様でした」


 守人は、私に一礼して、この場から立ち去り、


「……」


 涼姫は私の顔を少し見てから、公園を出て行った。


「……はあ」


 結局、守人は何を言いたかったのだろうか。




 守人から解放され、私はようやく、寮にある自分の部屋に戻ってきた。栄養補助食品を頬張ってからお風呂に入り、メイの質問について考えていた。


「どうして、イライラさせられるのに守人と涼姫を使うのか……か」


 確かに、役に立ってはいる。そう思ってはいるけど、苛立つことに違いはない。目の前でイチャイチャされて、正直ウザったいと思う。でも、何でこんなに苛立つのだろう?


 さっきも、守人が言いたいことをはっきりと言わず、涼姫に妨害されて聞けず仕舞いだった。彼が言わなかったことにもイライラさせられたけど、涼姫がそれを妨害したことにも苛立った。


 考えても、考えても結論は出ない。他のことならすぐに答えが出せるのに。


 ……新緑高校は、国立ということからかなりレベルの高い学校。生徒会に入るには人望も必要だけど、それに見合う成績――生徒会長の場合には全教科のテストが毎回八割以上――を出していなければならない。一度でも、一教科でも八割を下回ると、直ちに解職に追い込まれる。1年生の2学期から会長を務めてきた私は、少なくとも無能ではないと思う。


 数学にしても英語にしても――勉学にとどまらず、他のことについてもすぐに考え、答えを出している。でも、彼ら2人に苛立つ理由だけは、どうしても出せなそうにない。




 お風呂から上がり、私は寝る準備を整えている間にも考えていた。


 だけど、結局答えが見つからないまま、私はいつのまにか眠っていた。

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