第7話ー4
その姿を見て、僕はようやく理解できた。神皆破という、哀れな神となってしまった男のことを。
彼は元々、団さんの言うように、美奈陽に似ていたのだろう。真面目で、責任感が強く、でもどこか脆さを感じさせられる、繊細な人物。
ただの人間だった彼が、運命のいたずらによって神になってしまい、そして神という重責を支えてくれた二人の大切な人を失い、ついには壊れてしまった。
そのつらさはきっと、同じことを経験した存在でなければ理解できない。ただの人間である僕にも、涼姫さんにも、理解できないだろう。もちろん、美奈陽にもだ。
だから、僕は彼に言おう。彼の過ちを。
「ミナハ、あなたは間違っている。
あなたが深い悲しみを背負ってきたことは分かった。でも、大切な人を失ってまで護った世界なら、最後まで護り通すことが、2人のためだと思う。どうしても、2人がいなくて寂しいと言うなら、それは、あくまであなた自身の決断によるべきだ。他人に押し付けてはならない。それは、あなたが抱えた問題。他人に相談することは良い。でも答えを求めるなんてことは、しちゃいけない」
ミナハのことは、あまりにスケールが違いすぎることだけど、でも普通の人の場合でも、それは同じだ。誰もが、皆、悩みを抱えている。それを、1人だけで悶々と考えて判断するのは建設的ではないけど、でも他人に結論を委ねてはいけない。他人に話すことで何かが見えてくるとしても、最後に決めるのは、やはり自分なのだから。
「ああああああ……ククク、ハハハハハハハ!」
泣いていたミナハが、今度は突然、笑い出した。
「ハハハハハハハ。まさか、自分でも気づけなかったことを、ただの人間に気づかされるなんて……」
涙混じりに、ミナハは笑っていた。
「ハハハハハハハ……確かに、君たちの言うとおりだ。私――いや、やはりこの一人称は合わないか。慣れないことをするものじゃない」
ミナハは咳払いをして、続ける。
「俺が抱えてきたもの、やはり、他人に押し付けてはダメか。頭のどこかでは分かってたはずだが、どうしても決められなかった。それと、涼姫。君、中々見どころがあるな。頭の切れ具合といい、行動力といい、人間にしておくには惜しい。君、神をやってみないか?」
「お生憎様。私は、あなたや美奈陽と違って、自分の欲望のために動いているだけです。そんな、顔も名前も知らないような大勢のために奉仕するなんて、性に合いません。他をあたってください」
「それは残念。それにしても、実に見事だったよ。まさか、ろくに私のことを知らないのに、そこまで私の内心を突くなんて。ハハハハハハハ!」
楽しそうに笑うミナハ。でも、そこには悲しみも混ざっていて、
「滑稽だよ。こんな、人から見透かされるような私が、神を名乗っていたなんて。やはり私は、人間か。これでも、それらしく頑張ってきたんだけどな……ク、ク、ク……」
泣きながら、自身の矮小さを自虐していた。
「……さて、そろそろ真面目になろうか」
両手で自分の頬を叩いて喝を入れ、真剣な表情を僕たちに向けるミナハ。
「それで、守人に涼姫。君たちは、これからどうしたい? 俺にどうして欲しい?」
「そんなのは決まっています。美奈陽を止めて下さい。自分で蒔いた種なんですから、あなた自身で片付けるのが筋でしょう?」
そうだ。でも、僕たちに尋ねるということは、話はそんな単純な話ではないのだろう。ミナハは言う。
「できればそうしたいところだが、そうもいかないのが現状だ。さすがの俺でも、俺の機体――ケイオスに乗った美奈陽を相手にするのは、相当厳しい」
「じゃあ、どうしろと? あなたにできないのであれば、僕たちならなおさら無理だろう?」
「当然そうだ。でも、君たちにもできることはある。続きは、下で説明しよう」
ミナハは踵を返し、エレベーター跡に歩みを進める。そして、歩きながら何かを2つ、僕たちに投げてきた。
「君にあんなイメージを見せたのは、やはり潜在意識の中で、君たちが言ってたことを想っていたのだろうな……」
そう言って、ミナハは穴に飛び降りた。




