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第7話ー3

「……なん、だって?」


 この男は、何を言っている?


「聞こえなかったか? 世界を破壊する。そのために、美奈陽をそう仕向けた」


「……」


「何をしたか、聞きたそうだな。答えよう。

 まあ、私がやったこと――いや、やらなかったことは、美奈陽が暴漢に襲われた時に助けず、先刻も美奈陽を助けず、君を死なせた。後は、美奈陽に世界の運命を決める力を託した。ただ、それだけさ」


「……どう、して」


「どうして、世界を破壊したいかって? 君も知っているだろ? 私は、この世界に絶望した。今まで神としてすべてを護ってきたのに、私の大事なモノはなくなってしまった。だから、いっそすべてを壊したい。でも、私にはできないから、他人にやってもらうことにしたのさ。

 それと言い忘れたが、君が知ってるメイとアンは、私の大事なモノだけど、でもそうじゃない。あの二人は、新緑高校に宿っていた残留思念が、美奈陽に託したペンダントの魔力によって実体化した存在に過ぎないからさ。いずれ消えゆく、儚い存在だ」


「……じゃない」


 そんなことは、前も聞いた。この男が、身勝手な願いを抱いていることは、もう分かっている。水無月さんと不知火さんが、過去の思念が形を持ったものに過ぎないというのは初耳だけど、でも僕が聞きたいのは、違うことだ。


 僕は、ミナハに掴みかかり、怒った。




「……そうじゃない! どうして、どうして美奈陽を選んだ!?」




「……どうしてだと思う?」


「はぐらかすな!」


 ミナハは、何とも言えない表情を浮かべている。微笑でも、悲しみでも、あえて言うなら、何の感情もない表情だ。


「どうして、どうして……!?」


 あんな純粋な子に、どうして、世界を破壊させるなんてことをやらせる!? 彼女はただ、あんたに憧れていただけ。憧れの人を助けてあげたい、ただそれだけで、今まで生きてきたのに。


 切実なる問いに、答えが返ってくる。でも、答えたのはミナハではなく、




「……それは、あの女が、その人に似ているから……でしょう?」




 お腹を押さえながら、こちらに向かってきている、団さんだった。今度はちゃんと、制服を着ている。


「団さん?」


「大丈夫ですか、守人君? ああ、ボロボロじゃないですか。着てください」


 差し出されたのは、拉致される前に僕が着ていた制服。


「でも……」


「今更、恥ずかしがることもないでしょう? あなたを拉致してからあの個室に押し込んで、服を脱がせたのは私なんですから」


「な、な、な」


「まあ、ボチボチでしたよ。気にしてないで、早く着替えてください。話が進みません」


 この人は、なんと押しが強いのだろう。とんでもないことをされたのだから、怒っていいはずなのに、どうしても押し切られてしまう。


 早々に僕は着替えて、再びミナハと対峙する。


「それで、団さん。ミナハが美奈陽と似てるっていうのは?」


「簡単な話です。私も皇さんから聞いたぐらいでしかそこのカミサマを知りませんが、あなたとの会話を通じてはっきりしました。ずばり、この人はあの女と同じで、素直じゃない。自分の本心を他人に言えない、臆病者です!」


「……ほう?」


 団さんの指摘に、今まで無表情だったミナハが、興味深そうに彼女を見ている。


「団涼姫。私が、臆病者だと?」


「ええ、そうですよ、神皆破。あなたの行動は、一見筋が通っているように見えて、矛盾している」


「どこが矛盾していると?」


 ミナハの問いに、団さんは淡々と、しかし内に秘めた自信があふれ出るような勢いで、僕を指した。


「彼が蘇ったことです。それも、あなたの手によって」


 団さんは、僕の頭に手を伸ばして、何かを取り出す。


「あなたと守人君との会話は、これを通して聞いていました」


 彼女が取り出したのは、ヘアピン。多分、僕が拉致された時にでもつけられたのだろう。


「残念ながら、私が目覚めたのは、ちょうど守人君が殺されたあたりだったので、彩美奈陽の言葉は聞けていません。ですが、あなたが彩美奈陽に託した願いについては、ばっちり聞けました」


 ヘアピンをスカートのポケットにしまい、団さんは続ける。


「あなたは、私の画策をすべて知っていた。でなければ、私が拉致をした当日に彼女がここに来ることは、不可能。多分、暴漢に彼女を襲わせたことも知っているのでしょう」


「……それで?」


 無言で肯定し、ミナハは先を促す。


「それで、あなたはそれを知っていて、放置した。確かに、私の策略やNINJAの活動は、美奈陽を絶望させる方向に働いたでしょう。でも、それも美奈陽の行動によって、変わっていた可能性がある。

 EMCによって魔術を無力化されても、守人君が死んだ後にはそれを打ち破れたのですから、結果が変わっていたかもしれない。つまり、あなたは本気で彼女に破壊をさせようとしていたわけではない。もしその気なら、あなた自身がもっと積極的に動いて、彼女に決断させれたでしょう。まがりなりにも、神なのですから」


「……中々興味深い説明だが、それで、どうして破壊が私の本心ではないと?」


「話は最後まで聞いてください。今まで言ったことは、あなたがどちらでも良いと思った論拠に過ぎない」


 一呼吸置き、やはり彼女は自信をみなぎらせながら、その先の言葉を紡いでいく。


「あなたが破壊を望んでない理由、それは守人君。わざわざ蘇生させたということは、彼に結果を変えてほしいから」


「僕?」


 僕に、何ができると?


「あなたは、美奈陽が一番想っている人。あなたの言葉なら、破壊を決断した美奈陽を止められるかもしれない。そんな淡い期待を込めて、彼を蘇らせた。そもそもあなたは、絶望するかもしれない状況でも、それでも世界は価値あるものだと美奈陽に肯定してもらいたかった。違いますか、神皆破?」


「…………」


 彼女の凛とした言葉は、ミナハの心をしっかりと貫いていた。神らしく、しっかりと立っていた彼が、彼女の指摘によって膝をついて、泣き崩れているのだから。


「……私は、私は……あああああああああああああああ!」

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