第6話ー10
地下10階までの道には、邪魔があった。
今度は、姿を隠すなんて真似はしない。すべて、破壊した。怒りで魔力が次々と生産されるので、魔力切れの心配はなかったからだ。
数多の兵士、セキュリティを壊し、地下10階にたどり着く。
「ようやく、見つけた」
地下10階は、部屋が一つあるだけだった。重要な機密を保護するための部屋のようで、様々な代物が置かれている。
ミナハから託されたペンダントは、部屋の中央にあるガラスケースの中で鎮座していた。近づくと、虹色の輝きは、より鮮明になった。まるで、私を待っていたかのようだ。
ケースを壊し、ペンダントを取る。
「待っていましたよ、美奈陽」
後ろから、声が聞こえてきた。少し低めの、懐かしい声だ。
「……メイ」
いつも通りの、制服姿の水無月命がいた。
「さあ、答えを聞かせて。美奈陽ちゃん」
もう1人。今度は、幼い甲高い声。
「……アン」
同じく、制服姿の不知火闇が来た。
「二人とも、どうしてここに?」
「あなたの手伝いを頼まれたから」
「皆破お兄ちゃんに」
「……そう。ここまでの展開は、すべてミナハの筋書き通りというわけ……ね」
4日前――ミナハ、メイ、アンの3人は、何かを話していた。
彼女たちがここにいるというのは、その時に打ち合わせていたからだろう。守人が涼姫に拉致されたことから、それは確かだ。
守人が自室で拉致されたことを知っていたのは、3人の内の誰かが見張っていたか、何らかの手段で監視していたから。だとすれば、おそらくすぐに拉致にも気づけて、救出もできたはず。なのに、あえてそれをしなかった。
そして、今の情況もそうだ。多分、ミナハならば、EMCやナノマシンがあっても、簡単にNINJAを撃退できる。守人も死なずに済んだ。なのに、今もなお放置し続けている。
そこから導き出される答えは――1つだ。
「……ミナハは、私に世界を滅ぼさせたい……というわけね」
ここまでの流れからして、それしか答えはない。世界の醜悪さを私に見せつけ、そして私が特別な感情を抱いている守人を死なせて、私を追い詰める。私にとっての世界の存在価値を否定させることによって、破壊させる方向へ導く。
そうして、私は彼の望む方向の決断をした。何もかも、彼の盤面上の出来事だった。
「……いいよ。お望み通り、破壊してやるわよ」
仕組まれたこととはいえ、この決断は、私の意思で下したものだ。だから、変えるつもりはない。でも、
「ねえ、2人とも。察しているとは思うけど、一応確認させてもらうわね。私がミナハを壊しても――良いんだよね?」
私の怒りは、彼に対しても牙を向けたがっている。それを承知の上でこんな策を練ったのだろうけど、一応、聞きたかった。
「ええ、構いません」
メイは、私の質問を予想していたのか、即答した。
「……そう。なら、遠慮なく、やらせてもらうわよ」
私はペンダントを天に掲げる。そして、呼ぶ。
「来い――」
ペンダントは、かつてミナハが使っていた、神と呼ばれた機体の認証キーであり、それを呼び出す端末。
召喚するのは、最強の力の結晶。ミナハが創り出した、彼の力の本質を表した機体。その名は、
「――ケイオス!」
ケイオス――神と呼ばれた緑の巨人。
それは、空から降ってきた。地上10階から地下9階までのすべてを壊して、私の前に現れた。
以前見た姿と、変わりはなかった。緑を基調とした機体で、機械にはまるで見えない。
背には8枚の大きな翼があり、翼に隠れてバーニアがいくつも設置されているが、それがあることで、この機体が機械であるということがようやく認識できる。そのぐらいに、ケイオスは人に近く、美しかった。
呼び出されたケイオスは、私を招いているのか、胴体にあるコックピットを開き、腕を差し出してきた。私は腕に乗り、ケイオスは私をコックピットへと導いた。
「何も……ない」
コックピットに入ると、中には操縦桿もモニターも、何もない。席があり、少し広めの空間があるだけだ。一般的なイメージのロボットとは、趣向がまったく違うようだ。
「どうやって動かせば……」
席に着いて、適当に触れてみても、特に反応はない。動かし方に悩み始める私に、どこからか声がしてきた。
『四肢を壁に打ち込んでください』
「メイ?」
メイの声だ。だが、彼女はこの機体には乗っていないはず。一体どこから?
『機体の中だよ、美奈陽ちゃん』
同じように、アンの声が聞こえてきた。もう一度声を聴いてはっきりしたが、どうやら彼女の言うように、機体から直接語りかけてきているようだ。
「機体の中? コックピットはここだけじゃないの?」
『ええ、そこだけです。私たちは、この機体と融合しているんです』
「融合?」
『言い忘れてましたが、この機体を動かすプログラムが亡くなっているので、あなただけでは動かすことができないんです』
『だから、お兄ちゃんが私たちに手伝えって言ったの』
「プログラム……?」
『細かいことは気にしなくて良いよ。とにかく美奈陽ちゃんは、メイちゃんが言ったように、腕と脚を打ち込んでみて』
「え、ええ」
彼女の言うように、疑問は置いておこう。機体を内部から壊して良いのか、という疑問も浮かんだけど、指示に従って、右手を壁に打ち込んだ。
「え?」
壁の表面が壊れるが、すぐに拳は停まった。壁の裏側には緩衝剤でも仕込んであるのだろうか、柔らかい感触がある。
同じ要領で、左手、両足を打ち込む。
「それで、どうやって動かすの?」
『生命の力を使って、アクセスしてみて』
「アクセス?」
『アン、それだけじゃ説明不足。美奈陽。自分の手足とするようなイメージで、生命の力を流し込んでください』
「自分の手足とするイメージ……」
先ほどまでは死のイメージしかできなかったのに、彼女たちと話して落ち着いたのか、今では問題なくできそうだ。指示通り、生命の力を流し込む。すると、
「ああ……」
高い場所に立っていた。私は、普段の目線よりも圧倒的に高い場所から、地面を見下ろしている。私は今、巨人となっている。
『あなたは今、ケイオスとなっています。試しに腕を動かしてみてください』
右腕を動かしてみた。本来ならば、右腕は壁に打ち込んであるので、動くはずはない。だが、動いた。
ケイオスが、右腕を上げ、前方に拳を放った。
「なるほど……そういうこと……ね」
ケイオスと接続されたことで、ケイオスに関する情報が私の中に流れてくる。
ケイオス――それは、ただの機械ではない。生きた機械。魔力を拡散させるEMCに対抗するために創られた、搭乗者と一体となって駆動する機体。
生命活動をしているので、機体自身が魔力を生産してくれる。加えて、機体も力を発動させることができるので、搭乗者の力の増幅器としても、使い魔のように自律稼働する兵器にもなる。
また、背中にある8枚の翼は単なる飛翔用のものではなく、分離して稼働させることができる。それぞれを銃や剣等の武器に変化させたり、翼から魔術を発動させたり等、応用の効くツールを備えていることも、特徴的だ。
ただ、ミナハが設定したプログラムが先の戦いで消滅しているので、普通の人間である私には処理する情報量が多すぎて、動かせない。人間で言うなら、脳死状態。今はメイとアンが脳になっているので、そのサポートを受けて、動かすことができる。
そして、通常の機械と違い、生命体を治療する要領で修理が可能。治療ができる者が搭乗者ならば、戦闘を継続しながら機体の修理ができる。
『力も、生身の時と同じように使えます。ようは、自分が巨大化したようなものだと思ってください。実際、ケイオスが傷つけば、あなた自身も傷つきます』
「了解。それじゃあ、行くよ。メイ! アン!」
ケイオスの両翼が展開される。翼のバーニアに火が灯る。
「世界を破壊しに!」
ケイオス――私は、飛んだ。




