第6話ー4
そして、地下5階に着いた。地下5階は、悪魔の技術と既存の技術を融合したものを研究する区域のようだ。
私は、迷うことなく守人のいる部屋に着いた。そこは、牢屋になっていた。
「……おかしい」
牢屋というのは、囚人が監視できるようになっているはずだ。でも、この牢屋には、1室だけ外から中が分からない、個室がある。
「ここにいるはずだから、多分、あの中だと思うけど」
扉に近づきドアノブを回してみる。扉は開かない。
「仕方ない」
扉に生命を与えて、ロックを解除させる。ドアを少し開けて、小声で呼びかけてみた。
「守人……?」
でも、返事はない。危険はあるけど、扉を開いた。
「な……」
ここに入る前、私の囚人のイメージは、みすぼらしい服を着させられ、手錠がかかっているというものだった。
でも、そこには、そんな想像を見事にぶち壊してくれる光景があった。
「な、な、な」
そこには情報通り、守人がいた。とりあえず無事なようで、それはいい。それはいいけど、問題だらけだ。何しろ、裸で手錠を掛けられている守人に、同じく裸で迫っている涼姫がいたのだから。
「あ、あなたたち、な、なな、何をしてるの!?」
せっかく助けに来たというのに、この男は一体、何をしてるの!? それに、涼姫。あなたも、私に嫌がらせをしたいことは理解できるけど、何でそこまでこの男にするの!?
敵地だというのに、私の頭の中はこんがらがって、パニックに陥っていた。
「……」
私の問いかけに、守人は応じない。あまりの衝撃的な展開に、脳が回転を止めているようだ。
一方で、混乱する私をあざ笑うかのように、涼姫は淫靡な笑みを浮かべて言う。これまでとは違って、語尾を伸ばす癇に障るようなしゃべり方ではなく、淡々と丁寧に。
「何って、子供を作ることですよ。この格好から見て、想像できませんか、会長?」
「こ、ここ、子作りって。あなた、私に嫌がらせをしたいだけで、守人が好きなわけじゃないでしょ!? そこまでやる必要があるの!?」
「確かに。あなたの言う通り、嫌がらせをしたいだけなら、今までと同じでいいでしょう。でもね、会長。別に、私が彼を好きなら、こんなことになってもおかしくはないでしょう?」
「あなたが、守人を……好き?」
それが、最も分からない。別段、何か取り柄がある男でもないのに。
「ええ、そうです。あなたが唯一気にかけている守人君に接近して、誑し込めば、きっとあなたは相当のストレスを感じる。だから、彼にいつもくっついていました。
ですが、彼は私が今まで付き合ってきた男と、どこか違いました。毎日誘惑してるのに、絶対に落ちない。他の人ならすぐに落ちたのに。
ちなみに、私は男性と深い中になったことはありませんけどね。その前に振るか、しつこい男でも、人には言えない手で強制的に別れてきましたから」
「い、一体、どこが違うというの?」
涼姫は、哀れな者を見るような眼で私を見つめながら、話す。
「……はあ。あなたも、気づいているでしょう? 優柔不断だけど、優しくて、確固たる自己がある。
あなたにつれない態度を取られても、彼は諦めずに、あなたに話しかけてきたでしょ? そんな彼の良さに、どうしてあなたは気づけないんですか?」
「う……」
この女は、誰だ? おちゃらけた、ただ守人にくっついて私を苛立たせるだけの女だったはずなのに、目の前にいるこの女は、まるで違う。知性あふれる物言いで、私を責めてくる。
戸惑う私に、今度は憎悪を込めて、私を睨めつけながら、涼姫が吼える。
「私は、あなたが嫌いです。あなたが放浪生活をしてきて、施設暮らしだったことは知っています。つらい環境だったでしょう。世界の崩壊日があっても裕福に暮らせてきた私には、想像もつかないつらさです。
でもね、彩美奈陽。あなたは、そんな自分に酔っている。悲劇のヒロインを気取って他者を寄せ付けず、孤独である自分に酔っている。さらに、そんなあなたでも気遣ってくれる守人君を跳ね除けて、今は正義の味方を気取っている。何様のつもりですか?」
「わ、私はただ、神に向き合える人になろうと」
「神? 思い上がりも甚だしいですね! あなたがどう足掻こうと、人には神のことなど理解できない。できるのは、同じ存在である神だけ。
そもそも、他者を跳ね除けて悦に入るあなたに、人を救おうとしてきた神の気持ちが、理解できるはずもない。あなたはただ、神と同じ力を手に入れて、舞い上がっているだけの小娘に過ぎない!」
「あ……あ……」
やめて。もうこれ以上、私を責めないで。
「どうしました? 言い返せないのですか? それが、彩美奈陽なんですか? いつもの偉そうな物言いはどうしました? さあ、さあ、さあ!」
黙れ。私は、私は、私……は……。
「……はあ、興醒めです。もう消えて下さい。私は守人君を餌にしましたが、あくまで私の仕事は、あなたをここまで誘導すること。別に、あなたの捕獲が目的ではないし、これで父も助かるでしょう。守人君を置いて、精々神モドキでも気取って、正義の味方の真似事でもしたらどうですか?」
わたしは、わたしは、わたしは……、
「最後に、これだけは言わせてください。あなたに、守人君は相応しくない。もう、私たちの前に表れないでください!」
…………もう、限界だった。
「わああああああ!」
気が付けば、何の装備もない涼姫のお腹に、強烈な一撃を放っていた。魔力による強化はしてないけど、その衝撃は、涼姫を昏倒させるには十分だった。
「私は、私は、私は……」
正義の味方を気取ってなんか、いない。ただ私は、神の苦悩を晴らそうとしてきただけ。なのに、なのに…………私は、涼姫に対して、何も言い返せなかった。




