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第5話ー9

 こんなやりとりが、多分10分ぐらいだろうか、続いた。僕をおちょくることに飽きた団さんは、ようやく制服に着替えて、テーブルに掛けている。


「さ、あなた。愛妻料理よ。召し上がれ」


 言葉通り、テーブルには晩御飯が並んでいた。野菜炒めに漬物、ご飯、味噌汁。簡素だけど、栄養バランスは良さそうだ。


「だからー! 僕と君は付き合ってないでしょ!? そもそも君はともかく、僕は結婚できる年齢じゃないんだから」


「そんなの、愛さえあれば関係ないわ!」


「ああ……もう。それはいいから、とりあえず言わせて」


「うん?」


「何で、君が僕の部屋にいるの!? しかも、あ、あんな格好で!」


「だってー、守人君に会いたいと思ったら、守人君の部屋で待ってるのが一番でしょ? それと、裸エプロンは男のロマンって言うじゃない? 気に入らなかった?」


「いや、何でここに入れたのかを聞きたいんだけど」


「管理人さんに言ったら、通してくれたわよ? 私とあなたとの関係は、周知の事実だし。で、どう? 興奮した?」


「あ……う……」


 どう答えろというのだろう。


「ふーん。その狼狽えぶりからして、結構気に入ったでしょ。いいわよ、またそのうちしてあげるから。でも、どこか物足りなさそうにも見えるわね。……なるほど、かいちょーよりもサイズが小さいから、あまり嬉しくないんだ?」


「う……」


 何で、ここまで的確に僕の心が読めるのだろうか。確かに、団さんは美奈陽と比べて、やや小さい。それはそれで魅力的だけど……。


 ……いや、何でこんなにも脱線するのだろう。とりあえず、場の空気を換えよう。


 何度か料理を口に運んでから、僕は、テレビを点けた。ちょうどニュースがやっていて、今日の出来事が報じられている。


『本日、午後4時頃。新緑町内で連続窃盗・強盗事件を行っていたと思われる不良グループが逮捕されました。リーダー格の少年は、女性に対して重度の恐怖を覚えているそうです』


 あの男は、先日美奈陽からペンダントを奪った男だ。4日前に美奈陽が叩きのめした連中以外、逮捕されたという話はなかったけど、まさか残り全部が一気に捕まるなんて。


 これだけでも驚きだけど、さらなるサプライズをアナウンサーの口から聞かされる。


『特報! 特報です。広域指定暴力団の酒眠組が壊滅しました』


 中継で、酒眠組の事務所らしきところが映し出されているが、そこは文字通り壊滅していた。建物が徹底的に破壊されていて、怪しい物――大量の武器や薬物が散乱している。おまけに与党――好自党との黒い関係を示す証拠が出てきたらしい。


 酒眠組というのは、好自党の資金源である暴力団だ。この関係はマスコミでは報じていないけど、ネットではかなり噂になっていた。それが、今回明らかになった。何しろ、好自党議員の大半も、酒眠組の関係者と共に逮捕されているのだから。衆議院解散も時間の問題らしい。


「すごいよねー。ここまで社会を一変させるなんて」


 テレビを見ながら、団さんが口を開いた。真面目なニュースが流れているせいか、僕をおちょくるつもりはないらしい。これなら、本題に入れそうだ。


「団さんは、どうして学校を休んだの?」


「え?」


「君は、美奈陽が退院したのと同時に、学校に来なくなった。見たところ病気があるわけじゃないし、どうして学校を休んだの? 僕に会いたければ、学校に来ればいいのに」


「……」


 珍しい。僕のように考え込む人じゃないのに、この人が沈黙するなんて。


「団さん?」


 団さんは、時計に目を移す。すると、決心がついたのか、話し始めた。


「うーんとね、家庭の事情なの。さっきのニュースで、好自党議員が結構逮捕されてたでしょ? 私のところも、同じように捕まっちゃったの。おかげで家の中がめちゃくちゃになって、どうしても学校に行くどころじゃなかったの。それから色々あって、夜になったらようやく時間ができたの。まったく、かいちょーも余計なことをしてくれるわ」


「え?」


 最後、彼女は何て言った?


「どうしたの、守人君?」


「団さん。君、最後に何て言った? 美奈陽がなんだって?」


「かいちょーが、悪い噂の証拠をぶちまけてくれたから、いい迷惑だって話よ」


「君、なんで美奈陽が原因だって?」


「だって、監視カメラに映ってたから。他の人には分からないと思うけど、微妙にかいちょーに姿が似てたのよ。それで、政府機関の人にそのことを言ったら、どうにかパパだけは助かるみたいで、ホッとしたのよ」


「美奈陽が?」


 ミナハが言ってた世直しというのは、こういうことか。何も、暴力を振るう人だけが悪い人ではない。甘い汁を啜って肥えているだけの政治家たちも、悪人と美奈陽は判断したのだろう。


「それで、どうし、……あ……れ?」


 なぜか、身体が重くなってきた。やけに、眠気を感じる。


「その質問は、多分『どうして君のお父さんだけが助かるのか』てことを聞きたいんだよね。それなら、答えは今のあなた。かいちょーをおびき寄せる餌を提供すれば、便宜を図ってくれるって言うから、ちょっと細工をね」


 ウインクをして、いたずらをした子供のような笑みを浮かべる団さん。可愛げがある気もするけど、いたずらで済む話じゃない。


「き……み、食事……に……」


「ええ、入れたわよ、睡眠薬。あなたと話したかったから遅行性にしたけど。でも、あなたが怪しむと思ったから、食事だけでなく、ちゃんと二段構えにしておいたのよ。覚えてる?」


 そう言って、彼女は舌を出して僕に見せてくる。


「ま……さか、帰った……時に……」


「そういうこと。結構可愛かったよね、守人君。あんなに悶えて。私もつい興奮しちゃったわ」


 口の中に何かが入って来たとは思ったけど、まさか睡眠薬だなんて。


「ど……僕……?」


「だって、かいちょーが釣れる餌なんて、あなたしかいないじゃない。あんな、悲劇なヒロインぶって善人面した女でも、あなたにだけは、感情を表に出してた。まあ、だからこそ私も、あなたに纏わりついていたんだけどね」


「な……んで?」


 だったら、どうして僕に構う?


「答えは簡単よ」


 団さんは、今までの笑みを崩して、言う。




「あの女が、嫌いだから」




 その表情は、今までの演技のような笑顔ではなかった。同じような笑顔だけども、ドス黒い邪悪さが、嫌でもと言うほど感じさせられた。


「だ……ん、さ……」


 まだ、聞きたいことはあるけど、もう、僕の意識は限界だった。

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