第5話ー3
結局、放課後になるまで考え続けたが、答えは見つからなかった。
僕はいつものように生徒会室に向かうと、そこに美奈陽はいなかった。いたのは、水無月さんと不知火さんだ。大量の書類と格闘している。
「あれ、水無月さん。会長は? それに、どうして不知火さんがここに?」
「会長については、休むとの連絡を受けています。年度内の行事は終わりましたから、別に問題はないでしょう。それと、アンがここにいるのは、私が手伝いをお願いしたからです」
「あ、そうなんですか」
書類に目を通しながら、彼女は淡々と答えた。僕は、そんな彼女が、どうにも苦手だ。
水無月メイ。生徒会副会長。
必要なことしかしゃべらず、表情の変化があまりない人だから、どう対応して良いか分からない。しかも、時折僕のことを物凄く怖い目で睨んでくることもあるから、彼女と仲の良い美奈陽がいないこの状況は、本当に不安だ。
「……ところで、2人は会長と書記が、何で休んでいるか知らない?」
僕の問いかけに、今度は僕の方を向いて、水無月さんは微妙に笑って答えた。
「会長は、別の用事があるからだそうです。朝礼前に早退しましたしね。まあ、あなたには教えません。書記については――あなたの方が良く知っているでしょう? 彼氏なんですから」
その笑顔は、多分苦笑だったと思う。前半については笑う要素がなかったけど、後半の答えには、僕の行いを批難する意図があった気がする。
「ぼ、僕は……別に、団さんと付き合っているわけじゃ……」
「付き合っているようには、周りからは見えますよ?」
水無月さんの言葉を否定すると、今度は不知火さんが攻撃してきた。
「あなたとしては、一方的に絡まれているだけだから、付き合っているわけではない。そう言いたいのでしょう? でも、他の人にはバカップルにしか見えませんよ?」
「う……た、確かに……」
言われてみれば、そう見えるかもしれない。ベタベタくっついている団さんと、僕の消極的な態度を客観的に見れば、バカップルにしか見えない。
「でしょう? だったら、あなたの方が良く知っているんじゃありません?」
視覚化できるのだったら、彼女の言葉にはトゲがたくさん見えそうだ。二人とも、僕を批難している。間違いなく。でも、どうして?
「1つ聞きたいけど、どうして2人は、僕を批難するの?」
僕の問いかけに、水無月さんは少し間を置いて、
「……決まっているでしょう。あなたが美奈陽を傷つけたからですよ」
今までにないくらい、鋭い視線を僕にぶつけてきた。視線に力があったら、僕は瞬時に死亡するぐらいに、彼女の眼は怖かった。
「あなたが病院で彼女に何を言ったか、考えてみたらどうです?」
「びょ、病院で?」
病院に見舞いに行った時、彼女は怒った。朝に考えたけど、答えは見つからなかった。
「僕が、病院で何を言ったか……2人は、それを知っているの?」
愚問だった。知っていなければ、彼女たちが僕を批難する理由はない。2人は冷めた視線を向けて言う。
「でなければ、あなたに言えないでしょう? それとも、何で知っているか、と言いたかったのですか? なら答えましょう。聞いたからです」
「……誰に?」
「それは教えません。強いて言えば、彼女が憧れている人――といったところですか」
「憧れている人?」
誰だろう? どちらかと言えば、彼女は憧れられる人。そんな話はこれまでに聞いたことはないが……。
「あなたの知らない人です。まあ、その人のことは気にしないでください。それで、彼女が怒った理由を言うなら、彼女が大事にしている物を奪われたのに、あなたは軽率な発言をした。だからですよ」
「…………」
ああ、納得した。
そんな時に不用意な発言をされれば、腹も立つだろう。何を奪われたかは知らないけど、きっと大切な物なんだ。
「さて、会計――いえ、陣守人。あなたはこれからどうしますか?」
「……何かヒントは?」
「ヒント?」
「その口振りからして、知っているんでしょ? その大事な物がどこにあるか。でも、君たちは自分で取りに行くつもりもなければ、僕に在処を教えるつもりもないはず。だから、せめてヒントぐらい教えてもらえないだろうか?」
「……」
沈黙する水無月さん。でも、不知火さんが答えてくれた。
「ヒントなら、教えてあげる。あの性悪女が知っているよ」
「アン!」
「別に良いでしょ、メイちゃん。ボクたちが教えちゃダメとは言われてないし」
「でも……」
「それに、教えたって何も変わらないよ。この人は、ヘタレなんだから」
いつの間にか、不知火さんの口調が変わっていた。お嬢様風の丁寧なしゃべり方から、くだけたしゃべり方に。しかも、一人称が『ボク』になってる。最後のヘタレというのは気にはなるけど、追及しないでおこう。
「性悪女というのは……団さん?」
「そうだよ。いつも君に絡んでくるあの女が突然休むなんて、変だと思わない?」
言われてみれば、確かにそうだ。病気とは縁遠そうな彼女が突然休むなんて、想像できない。
「団さんが、この件に関わっていると?」
「ええ、そうです。証拠は表に出ていないから警察は使えませんけど、間違いありません。まあ、私たちも居場所は知りませんから、それ以上は答えられませんが」
「……分かった」
聞けることは、これで全部だろう。
僕は、決めた。
「悪いけど、仕事頼めるかな?」
「ええ」「行ってらっしゃい」
二人は机に向き直って、再び貯まっている書類と格闘を始める。
「ありがとう」
二人は後ろを向いたまま手を振り、僕を送り出した。




