第4話ー3
守人が出てってから、私はしばらく泣いていた。解放された怒りと悲しみは、しばらく抑えられなかった。
私が落ち着いたのは、守人が去ってから1時間後ぐらいだった。
そして、私が収まったころを見計らったかのように、扉が開かれた。入って来たのは小さい子供――ミナハだった。
「ずいぶんと、無様な姿だね、おねえちゃん」
「……ミナハ?」
ミナハは、つまらない物を見るかのような視線を私に向けてくる。
「おねえちゃん。おねえちゃんの今の情況は、おねえちゃんが自分を過大評価していたからだよ。今回のようなことが起こるのは、想定してたでしょ? それを避けたいなら、守人君の意見に従ってれば良かったんだ。でも、君はそうしなかった。君は慢心してたから」
私は身を挺して守人を護ったというのに、散々に言ってくれる。私は反論した。
「私は、守人を護った! そんなことを言われる筋合いはない!」
「なら、それは結果として受け止めなきゃいけないんじゃない?
そもそも何か問題が起きた場合は、自己責任ということで片付けるつもりだったんでしょ?
そして君は、君自身を護ろうと思えば、転んだ彼を見捨てて逃げることもできた。だけど、彼を護るために戦った。戦って身体は傷つき、ペンダントを奪われた。たったそれだけで済んだんだから、儲けものでしょ?
逆に、君を襲った男の内、9人はボコボコにしたんだから、成果としては上々だと思うよ?」
「あのペンダントは、大事な物なの! それを失った辛さが、あんたに分かるって言うの!?」
成果としては上々? そんなことはない。あれは、たった9人をボコボコにした程度の価値と同じなんかじゃない。金額に換算できない代物だけど、断じてそんな物じゃない。
大切な物を侮辱され、私は怒った。でも、彼は私が怒ることが筋違いであるかのように諭してくる。
「……あんな物、大した物じゃないよ。君の幼馴染を犠牲にしてまで護る価値なんてない。あれは、ただの物に過ぎないんだから」
「分かったような――」
その先を言おうとしたところで、私はふと気づいた。どこかで聞いたような言葉を、彼が口にしたことを。
「どうしたの? おねえちゃん。言わないの? 『分かったような口をきくな』って」
「……ミナハ。……君は、まさか……」
目の前にいる子供は、前にも思ったけど、あの人と似た顔立ちをしている。髪の色は銀だけど、それ以外は、あの人を幼くすれば、こういう風になるかもしれない。
私が目の前にいる人物と記憶の中にある人物とを照合していると、彼は私の疑惑を核心に変えることを言った。
「言ったよね? あれは、ただの物に過ぎないって。他の大切なモノを犠牲にしてまで固執するなって」
「あ……、あ……」
再び、感情が抑えられなくなった。涙が溢れ出てくる。
「大きくなったね、美奈陽」
そう言った彼の姿は、もう子供ではなかった。かつて会った時と同じ、緑色の髪を腰まで伸ばした青年。
ようやく…………ようやく、会えた。
* *
彼との対話は、しばらくの間続いた。私がどれだけ彼に会いたかったか、どんな人生を歩んできたか、色々と話した。彼はそれを聞き、時には涙し、時には笑顔を見せてくれた。
それは、長かったようで短い時間だった。陽が落ちた頃に、ミナハは彼の持つ8つの力を私に託し、ある依頼をしてきた。
彼は、私と同じような境遇にあって、私がその依頼について判断できるほど成長したから、託してくれたようだ。
率直に言って、私はその申し出が嬉しかった。彼の役に立てるから。彼に認めて貰えたから。
だから、私はその依頼を――引き受けた。




