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第3話ー13

「さて、どうしようかしら?」


 足手まといはいなくなったので、自分の心配だけすれば良い。だが、今は1対10。当初よりもなお悪い状況。相手には5本の金属バットがあり、残りは何も持ってなさそうだけど、ひょっとしたらナイフを持っているかもしれない。最悪といってもいい場面。


 今からでも全力で逃げ出せば、おそらく逃げ切れるだろう。だがその場合、守人をも抜いて逃げることになる。守人は彼らに追いつかれ、リンチに遭う。


 無謀な戦いに臨まざるを得なくなった。




 数秒間、後退しながら考えていると、敵はついに追い付いてきた。重たい凶器を持っているせいか、多少の疲労感が見えるが、そこまでのアドバンテージにはならないだろう。


「ようやく、追いついたぜ、姉ちゃん。俺たちと遊ぼうぜ?」


 リーダーらしき男が、話しかけてきた。


「……遊びたいなら、商業区にでも行ったら?」


 走った疲労を回復させるため、相手を刺激しないように応じ、時間を稼ぐ。


「商業区も悪くないんだが、別にここでも遊べるぜ? なあ、お前ら」


 リーダーが手下たちに同意を求めると、皆は呼応して、雄叫びを上げる。


「そうっすねー! こんな姉ちゃんだったら、相当楽しめるっすよー!」


 私の身体をジロジロ見ながら、手下の1人が調子の良いことを言ってくれる。


「というわけで、姉ちゃん。俺たちゃ、そこらへんで仲良く遊びたいんだ。大人しくしてくれれば、痛くはしないからよー。まあ、抵抗しなくても痛いかもしれないけどなー」


「ちげーねーっすねー、ギャハハハハ!」


 下卑た笑い声を上げる男たち。皆、じわりじわりと近づいてきている。距離も三メートルしかない。私は、覚悟を決めた。


「……そうね。それじゃあ、ホテルにでも行きましょうか? 外だと寒いしね」


「話が分かるね、姉ちゃん。向こうにバイクがあるから、極楽まで連れてってやるよ」


 男たちは、私が素直に応じたことに気を良くしたのか、後ろを向いた。


 しばらくの間、私は彼らと共に歩いていたが、金属バットを持っている者とそうでない者とで移動速度に差ができ、距離が開いた。




 ――その瞬間、私は動いた。


 まず、一番後ろにいる金属バットを持った男の首を、背後から一気に絞めた。もちろん、これだけだと抵抗されて、すぐに他の男たちに気づかれてしまうので、同時に男の眼球を軽く指で弾いた。男は激痛のあまり叫ぼうとするが、首が絞められているので声が出せない。眼球の痛みに苦しんでいる隙に、彼を絞め落とした。私は音を立てないようにして金属バットを奪い、彼を地面に置いた。


 続けて、残りの敵はまだ私の抵抗に気づいていないので、その隙に近くにいる2人の男の後頭部を、渾身の力を込めて殴った。鈍い音が周囲に響いた。


 この音で、さすがに残った敵は気づき、私の方を振り向いた。だが、金属バットを持った残り2人の距離は近い。振り返ると同時に、私は彼らの頭部目掛けて金属バットを振り回した。幸いにも、彼らが金属バットで防御する前に行動に移れたので、10人の内5人が地面とキスをする羽目になった。


「……やるじゃないか、姉ちゃん。まさか、俺たちが油断していたとはいえ、5人ものしちまうとは思いもしなかったぜ」


 リーダーは、軽口を叩きながらも、緊張感を漂わせている。これから先は、奇襲は望めない。ガチンコでやり合うしかない。


「でもよー、ちょっとおいたが、過ぎるんじゃねえか!?」


 リーダーは懐に手を伸ばし、そこから獲物を抜いた。予想していた通り、ナイフだ。残り四人の手下たちも、同様にナイフを抜いた。


 予想通りとはいえ、私は恐怖を覚えた。だが、ここで殺されるわけにはいかないし、犯されるのも御免だ。首からぶら下げているペンダントも、値がつけられないものとはいえ、奪われるのは耐えられない。彼らをぶちのめすしかない。


 私は、男たちの配置を再確認し、彼らの行動を読んだ。情報があまりにも少ないため、確実とはいえないが、おおよその行動を考えた。呼吸を落ち着け、彼らが動くのを待った。


「どうした? もう抵抗しないのか? まさか、許してくださいと言うつもりはないよなー? もっとも、それは今更か。どうしようが、姉ちゃんが酷い目に遭うことは、カ・ク・ジ・ツ、なんだからな!」


 リーダーが動いた。ナイフを掲げ、振り下ろしに来る。他の手下も、リーダーに続いて動いていた。配置は、だいたい理想通り。まだ勝ち目はある。私は、彼らの意表を突いた。


「な!?」


 宙を舞うバットに、リーダーは驚いたが寸前で避けた。しかし、その後ろにいた手下の1人は回避が間に合わず、バットが脳天に直撃してノックダウン。


 続けて、近くにある、先に倒した手下の金属バットを拾い、再び投げた。もう1人の手下に命中し、彼も倒れた。


「この!」


 意表を突かれて驚いていたリーダーが、下からナイフで突いてきた。私は、前回り受け身で刺突を避け、同時に金属バットを回収する。その流れで、近くにいた手下の片足を金属バットで粉砕し、続けてもう1本の足を金属バットで打った。男は苦痛のあまり、叫び声を上げることすらできずに地面に伏した。


「こんな、女1人にやられるなんて……ありえない、ありえない……うわあああああ!」


 最後の手下は錯乱し、突進してきた。考えのない突進故に、動きを見切るのは容易だった。


 私は、男が攻撃してくる直前に、ナイフを持つ手を金属バットで殴打した。男はナイフを手から放し、悶え苦しむ。戦闘能力をかなり奪った。


 しかし、放置しておけば私が追い詰められるかもしれない。躊躇することなく、私は立ちすくむ男の足を金属バットで打った。手下は、すぐに動かなくなった。私は忘れることなく、ナイフを拾う。


「はあ、はあ、はあ……」


 体力には自信があったが、さすがに重い金属バットを何度も振り回したせいか、息切れが始まってしまった。それに殴った衝撃のせいか、腕がかなり重く、痛い。でも、残るは1人だ。


「……ククク。ハハハハハハハ! 大したもんだよ、姉ちゃん! 俺以外全滅とは、恐れ入った! まったくもって、大した女だよ」


 リーダーは、私を称賛するような言葉を口にしているが、内心は当然違うはず。仲間がやられたことに怒り狂っているはずだが、怒りをそのまま表すような気配は見えない。


「よーく分かったよ……姉ちゃんが、かなり強い女だってことが。俺も覚悟を決めないと……ダメだな。ククククククククククククククク!」


 明らかに、理性が飛んでそうな言動。だが、そうではなかった。男は、冷静だった。


「な!?」


 今度は、私が驚かされた。リーダーは、ナイフを投げてきた。私と同じ手だ。私はそれを避けるが、男は同時に突進してきた。


「これで!」


 突進してくる男目掛けて金属バットを振るうが、男はスライディングの要領で避けた。それと同時に、私の足が払われた。


「しまッ!?」


 私は、前のめりに倒れた。すぐに立ち上がろうとするが、それはできなかった。男は、私の髪の毛を掴んでいた。


「そろそろ、お楽しみと行こうか!?」


 男は私の髪の毛を引っ張り、仰向けにさせた。


「いや!」


 私は拾ったナイフで髪の毛を持つ手を刺そうとするが、男は察知していたのか、それを避け、私の手からナイフを奪った。


「おいたをする手は、お仕置きだ!」


 男は、奪ったナイフで、私の右腕を刺した。


「あああああああ!」


「良い声で鳴くじゃないか。ただ、痛いだけっていうのは面白くないよな。気持ち良い声を出させてやるよ」


 男は、私の制服を切り裂いた。下着が露わになり、隠していたペンダントも目の当たりになる。男は目ざとく、私のペンダントに手を伸ばした。


「へー、高そうなペンダントを持ってるじゃねえか。こいつは、仲間たちの治療費ということで貰っておくぜ」


 ペンダントの鎖が引きちぎられ、奪われた。


「返せ!」


 私は左手でペンダントを取り返そうとするが、男は左腕を抑え付けた。


「さて、お楽しみの時間だ。たっぷり良い声を聴かせてくれよ」


 男は下卑た笑い声を上げながら、凌辱を始める。私の首や耳を舐め、胸に手を伸ばした。


「く……や、やめてー!」


 男の手は止まらない。嫌悪感しか湧かない行為。諦めるつもりはなかったが、状況は絶望的。どうしても、打破する手が見つからない。ところが、



「何をしている!」



 20メートルほど離れたところだろうか。そこには男が2人と、女が1人立っていた。逃げた守人と涼姫に、警察官だった。


「クソ、サツか!?」


 男は、私から離れて、仲間を置いて逃亡した。


「待って、それを……返して!」


 私は立ち上がり、追いかけようとするが、足に痛みが走って満足に歩けそうにない。私はそのまま、膝を地面につけてしまった。男の姿は、瞬く間に小さくなっていき、やがて消えた。


「大丈夫ですか、会長!?」


 守人が、あわてて駆け寄ってきた。


「…………無事だったんだね、守人」


「会長?」


 ペンダントを奪われたことで、心は憤怒に満ちていたが、身体はもう限界だった。男10人を相手に乱闘し、おまけに怪我までしていれば、身体も悲鳴を上げたくなるだろう。


 守人に抱きかかえられてから意識が遠くなり、やがて瞼が落ちた。


「美奈陽? しっかりして、お願いだから……。美奈陽! 美奈陽! 美奈……」


 彼は、この前とは違って、はっきりと名前を呼んでくれている。だが、徐々にその声は聞こえなくなっていった。

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