第3話ー10
各役員とアンの紹介を済ませて、本日の議題の検討に入った。
「それでは、副会長。今日のお題は?」
「はい。こちらをご覧ください」
役員全員とアンに、本日の議題がまとめられたプリントが配られる。プリントには、1ページ目に、去年の復興の手伝いと、最近多発している事件の概略について書かれている。
「まず、昨年の復興支援についての事後報告です。我々の活動は円滑に完了したので、各地域と企業から、お礼のメールと贈呈品が届いています。贈呈品は、参加したメンバー全員で分けられる菓子類でしたので、後日配布ということにしようと考えていますが、それでよろしいでしょうか?」
「ええ、それで結構よ。2人は何か意見は?」
「特には」
「べつにありませーん」
異論はないようだった。別段、お礼の品をどう分けるかぐらいしかないので、特に言うこともないだろう。
「全員一致ということで、その通りに進めましょう。日程については、明日からで良いかしら?」
「問題ありません。ですが、学校に提出するレポートも回収しなければなりませんので、レポートと交換ということにしてはいかがでしょうか? 贈呈品については、ここか空き教室にでも置き、放課後に回収するということで」
「良いわね、そうしましょう。明日から、私、副会長、書記、会計のローテーションで、贈呈品の交換に当たろうかと思うけど、何か意見は?」
「それで結構です」
即答で、メイは了承する。
「良いです」
守人も特に異論はない。だが、涼姫は文句を言う。
「えー、嫌ですー。2人にしませんかー? 1人では捌き切れないと思うんですけどー」
いつもは私を苛立たせる存在だが、たまには良いことを言う。確かに、参加した300人ぐらいのメンバーが一同に提出しに来るとは思えないけど、それでも相当な数であることは違いない。守人とベタベタしたいための言い分だと思うけど、真っ当なものだ。
「それじゃあ、明日から私と副会長、書記と会計のローテーションで良いかしら?」
「それなら良いですよー。さすが会長、話が分かりますね」
守人と一緒にした途端、納得する涼姫。やはり、守人とくっつくための口実か。――まあいい、次の話をしなくては。
「復興支援についてはこれまでとします。副会長、次のお題をお願い」
「はい」
メイはプリントをめくり、プリントの大半を占めている議題について話し始めた。
「昨年の冬休みに入ったころから終わるまでに、夜に窃盗・強盗事件が多発していたようです。詳しくは、プリントの3ページ以降に書いておきましたので、そちらを参照してください」
プリントをめくると、私たちが復興支援に出かけてから、実家なり寮なりでのんびりしている期間にかけて、多くの事件が発生していたことが分かる。
「この件については、多発していることもあって警察も動いているようですが、人員不足で新緑町の半分程度しかカバーできていません。
リバイブの導入も考えられたそうですが、あれには防犯能力はないので、活用は無理とのことだそうです。
パワードスーツも、防犯レベルでは力が強すぎるから許可できないそうです。
そこで、各学校の保護者たちから、学生のできる範囲で防犯に取り組んで欲しいとの要望がありますが、どうしますか?」
珍しく、メイが自分から提案をしてこない。
基本的に生徒会の会議は、メイが出した案を他の3人で検討・修正して実行するけど、骨子である案自体がないのは今までになかった。
「副会長はどう考えるのかしら?」
珍しいことだからこそ、私はメイの意見を聞きたくなった。メイは、少し考えてから、やはり、私たちに問いを投げ返してきた。
「……率直に言って、よく分かりません。確かに、犯罪が多発しているのは見過ごせない事態ではあります。
ですが、防犯の取り組みは、どちらかというと我々学生ではなく、その保護者が率先して取り組むべきことだと思います。しかし、我々生徒会の働きが評価されているからと言われてしまえば、無下に断ることもできません。
ですので、私にはこの要望を受けて取り組むべきか、取り組むとしてどんな活動をするか、それを具体的に提示できないのです」
その言葉は、彼女の本心だと私は思った。
いつもなら、彼女はプリントに取り組むべきことやその方針を示しているが、今回はどんな事件があったかを詳細に示すだけで、どうしたら良いかを書いていない。私たちに判断を委ねているのだ。
「2人は、どう思う?」
「僕は、やるとしても、犯罪が身近に起きている現状を生徒に伝えて、危機意識を高める程度にしておくべきだと思います」
消極的な守人らしい意見だ。対照的に、涼姫は積極的なことを言う。
「あたしはー、有志を募ってー、見回りぐらいしても良いと思いまーす」
「それだと、見回りをしている生徒に何かあった場合、生徒会だけでなく、学校全体の問題になるから止めた方が良いと思うけど」
「でもー、プリントを見ると、被害に遭っているのは、全員が1人でいた場合だけでしょー? しかも、犯人は1人っぽいし。だったら2人1組で見回れば、リスクはないんじゃないかなー?」
「だけど、2人でいた場合に起こらないとは、いえないわけだし……」
こっちもまた珍しく、まともな議論をしている。というか、涼姫がまともにプリントを見ているのを初めて知った。
双方の言い分は、もっともだ。だからこそ、私も甲乙つけがたい。議論が硬直しかかっているところで、部外者であるアンが口を開いた。
「それでは、まずは生徒会のメンバーだけで見回りをしてみて、徐々に人を募って規模を大きくする、というのはいかがでしょうか?」
2人の折衷案のような意見だ。私としてはそこらへんが落としどころだと思ったので、少し突っ込んでまとめようと思う。
「徐々に大きくしていくというのは、なぜ?」
「陣さんがおっしゃった、責任問題からです」
アンは立ち上がり、悠々と演説を始める。
「理想としては、大所帯で見回るのが犯罪抑制の効果が期待できます。ですが、それほど大人数が集まるとは考えにくいですし、そもそも長続きしません。
ですので、まずは生徒会メンバーだけで見回りをしてみて、それで問題がなければ、人を募って規模を大きくする。これでしたら、万が一生徒会メンバーに被害が発生しても、自己責任ということで片付けられます」
「それじゃあ、結局襲われる危険性は避けられないんじゃないですか?」
アンの意見に、守人が食いつく。
「ですから、これはあくまでも、見回りをする場合の案です。襲われても対処できる能力と自信があれば実行すれば良いですし、なければ陣さんのおっしゃったとおり、危機意識を高める呼びかけをするだけでも十分だと思いますよ」




