第3話ー5
朝のミーティングが終わり、授業が始まった。
転校生の不知火は、勉強は非常にできる子だった。ただ、運動オンチだった。だが、そのギャップがさらに男たちを引き付けてやまなかった。
そして、昼休み。私は屋上に行く。一人で昼食をとるために。
「さて、どこで食べようかしら?」
屋上といっても、何もないわけではない。食べ物と飲み物の自販機があり、放課後にくつろげるようにベンチが置かれている。
ただ、昼休みは皆、食堂や教室で昼食をとるので、今の時間帯には基本的に人が来ない。その静寂でゆったりとできると思っていたのだが、先客がベンチに掛けていた。
「彩ちゃん。こんにちは」
不知火は立ち上がり、お辞儀をする。
「彩ちゃん……? 不知火さん、どうしてここに?」
「あ、ごめんなさい。彩さんが良い人そうだったから、少し素が出ちゃって……。それで、私がここにいるのは、ちょっと、一人になりたかったからです。クラスの皆さんが親切にしてくださるのは嬉しいのですが、私を快く思わない人からの視線が少しつらいので」
素というのが気になったが、納得できる理由だった。ただのお嬢様ではなく、空気を読めるようだ。
「なるほどね。そういえば、転校生のあなたが、何で屋上に人がいないって知ってるの?」
「たまたま親切な方に出会いまして、ここが空いていると教えてくださいました」
「親切な方?」
誰だろうか。男だったら、不知火を捕まえて根掘り葉掘り詮索するだろうし、女だったら逆に不親切にしそうな気がするが。
そんなことを考えていると、不知火が口を開いた。
「ああ、あの方ですよ」
不知火は、屋上の出入り口を示す。そこには、
「やあ、おねえちゃん」
ミナハがいた。どこから調達したか知らないが、体格に合ったTシャツと半ズボンを着用し、ダウンを羽織っている。上はともかく、下は寒くないのか?
彼は、例の微笑を浮かべている。今回は、突然の登場で驚かせて、面白がっていることを表しているようだ。
「……な、何でここに?」
その格好で寒くないのか、ということも突っ込みたかったが、それよりも、彼がここにいる理由の方が気になった。ここの学生でもないし、そもそも外見年齢は子供なのに。
「おねえちゃんがお弁当を忘れて行ったからだよ。ほら」
そう言って、ミナハは風呂敷に包まれた弁当箱を差し出してきた。ただ、私は弁当を作らないし、彼に頼んだ覚えもない。
「忘れて行った?」
「うん、忘れて行った。ボクがせっかく作ってあげたのに、忘れた。テーブルに置いてあったのに、堂々とスルーして忘れた」
ご丁寧に、3回も言ってくれる。そういえば、テーブルに弁当箱があったような…………いや、ない。彼が朝食を作ったところを見ていないから確証はないが、私が朝食を食べた時点では、間違いなくテーブルに弁当箱はなかった。
「本当に、忘れた?」
「うん、忘れた」
あっけらかんと、忘れたと言う。そうだ、彼は私を送り出す直前、微笑を浮かべていた。
つまり……そういうことか。
「……分かりました。私が忘れたということでいいです。それで、わざわざここまで届けに?」
「ううん。一緒に食べようと思って」
彼の手には、私に差し出したのとは別に、もう一つ風呂敷包みがあった。
「……分かったわ。食べようか。不知火さんはどうする? 一人になりたいなら、私たちはここから離れようか?」
「それだと、その方が困るのではありませんか? 見たところ、まだ10歳前後の方のようですから、部外者ですよね?」
「うん、その通りだよ。美奈陽おねえちゃんより大きい、90のおねえちゃん」
「君はどうして、そうセクハラしたがるの!?」
彼が言い終った瞬間に、脳天にチョップをかましてあげた。
「痛い! 痛いよ、おねえちゃん! だんだんと、ボクを殴るのに躊躇なくなってきてない!?」
「うるさい! そんなハレンチなことをする、君が悪いんでしょ!?」
確かに、躊躇はなくなってきている。でも、彼が本気を出したら、多分、私の拳は一発も当たらない。ワザと私にちょっかいを出して、構ってもらいたがってるような感じがする。




