えんまだいおうのにちじょう
「閻魔大王、閻魔、バカ閻魔ー!!」
どこかで今日も、働かない上司を持った不幸な部下の叫び声が響いている。
「閻魔大王! 見つけましたよ。なんでこんなところにいるんですか!?」
「いやだって、ここのテレビが一番大きいし、画面綺麗だし」
「どこに仕事をおおっぴらにサボってゲームをしてるヤツがいるんですか!?」
「ここにいるじゃない」
「あんたアホですか!? いやアホですよね。アホじゃなきゃそんな返答しないよな」
「青雷、そんなガミガミしてるとハゲるぞ」
「ハゲるとしたらそれはアンタのせいです。
じゃなくて! 仕事があるんです。たまってるんです。積んであるんです! さっさと席に戻ってちゃっちゃか片付けちゃってください!」
「もちょっと待って…。あと少しでセーブポイントだから……」
「いけません。前もそう言って結局一時間近くやってたでしょ。二度目は許しません」
「……青雷、なんかお母さんみたいだね」
「アンタみたいな子どももってたら泣いてるわっ! 何真昼間からジャージ着てるんですか! しかもそれ、どっかの学校指定のジャージでしょ!?」
「ジャージをバカにしたな!? ジャージは風通しがよく、動きやすく、かつオシャレなアイテムなんだぞ!?」
「どっからどうみても芋ジャーにしか見えませんけどね」
「くっ…! なんで青雷が芋ジャーという専門用語を知っているんだ!?」
「前アンタが自慢げにそう言ってたの、忘れたんですか?」
すると閻魔は雷を全身に受けたときのような表情を浮かべた。
「ヤバイ…。私、物忘れがひどくなってきたのかな…。まだまだうら若き乙女だっていうのに……」
「普段脳を使ってないからですよ。ほら、さっさとリハビリを兼ねて仕事に戻ってください」
「リハビリが仕事って……。もっとこう心和む何かあるでしょ」
「まずは仕事。普段やっていることをすることによって脳の活性化を図りましょう」
「いやだから……」
「いい加減にしないと、おやつ抜きますよ」
「それはイヤ!」
「なら仕事しましょう」
にっこりと青雷は微笑んで、閻魔の腕をがしっとつかむ。表情とは裏腹に、もう絶対に放さないぞという気迫が溢れているつかみ方である。
「あれが終わるまで帰しませんからね」
「……ちなみに、どれくらいで終わる量かな?」
「……さあ、私も手伝いますから」
明言を避ける青雷。その返答を聞いて閻魔は再び脱走を図ろうとするも、がっしりとつかまれている腕をほどくことはできず、そのまま仕事場へと引きずられていった。そして結局、おやつどころか夕飯をとる時間もなく、ただ黙々と書類整理に追われていた。
今日も地獄は平和なようだ。
(20110912)