藤原紀香 全裸
今、携帯の画面に向かっているが、そちらは、モバイル? パソコン?
今、どこにいます? 自分は自宅の居間にいます。台所からは、水道の蛇口から、水が落ちている音が、ポタッ、ポタッ、と聞こえてくる。時折、外から車の走行する音が響いてきています。ここはサッポロの西区の手稲山一号目の山の中の狭い住宅街のオンボロ一軒家の居間ですが、そちらは今、どこでしょう?
少し、付き合ってください。また、俺のバー「まとりっくす」にお連れいたしましょう。文章を読みながら、薄く目を開いて、体から力を抜いて、楽にしてください。
想像してください……。俺の店の店内が見えてきたでしょう? いつものように、カウンターの片隅では十五年前のタイムスリップで連れてきた自分がバーボンで、飲んだくれている。アル中なのです。
カウンターの中には、アンドロイドが三体、……二十歳の頃の藤原紀香と、二十代後半の頃の小雪、三十歳の頃のオードリー・ヘップバーンのアンドロイドを立たせております。みんな綺麗でしょう? 本物にしか見えない? そうですか。ありがとうございます。
狭い店内には壁という壁に、液晶大画面のパソコンの画面が埋め込まれており、アニメやニュース、ディスカバリーチャンネルや、世界中の街並みが映し出されています。ここはススキノ、ゼロ番地、ススキノ市場の地下の飲み屋です。電脳バー・まとりっくす、……俺の店です。料金ですか? パケット通信料しか、かかりません。パケット定額にしている方なら、誰でも無料で飲める店ですよ。
さあ、カウンターの真ん中にお座りください。店内には、壁に、くまなく組み込まれた液晶大画面のデジタルテレビの光以外に照明がないから、薄暗いですね。
お客様、何をお飲みになりますか? 煙草はいかが? ……かしこまりました。駆けつけ一杯! とりあえず、どんな飲み物も取り揃えておりますよ。
いやね。女性客のことも考えて、福山雅治のアンドロイドも一体、用意しようとおもったのですが、なにせ狭い店内でして、長いカウンターの他にはボックス席が一つだけの小さな店でして。ご勘弁ください。
自分ですか? ご覧の通りに、今日はダークなスーツですよ。お客様、カウンター越しに見えるこのクオーターのような顔をした長身の中年男にも、一杯、ご馳走してくださいませんか? ありがとうございます。
「オードリー、サントリーのオールドをロックで!」
今日のオードリーには純白のドレスを着せてみました。やはり「ティファニーで朝食を」のオードリーのイメージですね。小雪には、牡丹の織り込まれた黒の和服。藤原紀香は、やはり今日もビキニ姿です。少し、Tバックにしてみました。どうですか、この全身の筋肉の躍動感! 二十歳の藤原紀香はうちのエロ親父客対応型アンドロイドです。
あれ、どうしたんだろう? 藤原紀香がさっきから、泣いている表情をしている。
「紀香、どうした?」
と尋ねると、
「紀香? 私、自分のこと、本物の藤原紀香だと思っていたの! 私、アンドロイドだったのね? 私、人間なのよ。アンドロイドだなんて、ひどいわ」
と、カウンターの内側で泣き叫んでいる。小雪とオードリーも、悲しそうな顔をして、頷く……。
オードリーが、
「私達、人間なのよ。アンドロイドだとしても、感情のある人間なの。女なのよ」
と、言う言葉を引き継ぐように、小雪が、
「私達のお給料は? 二十四時間営業で、睡眠時間も無し。労働基準監督署に訴えてやる」
と、俺を睨みつける。俺は店内のデジタルテレビ全部に劇場版アニメ「攻殻機動隊~ゴーストインザシェル」の冒頭シーンの草薙素子のサイボーグが組み立てられる過程の映像を流して、
「草薙素子は人間の脳をもっているから人間と言えるが、君達は電子頭脳のロボットだから、アンドロイドなんだよ。君達も、この映像のように組み立てられたのは間違いない! だから民法上は単なる物。労働基準法どころか憲法も適用外。そうだろマツオ?」
と俺はカウンターの端で飲んだくれている若い頃の俺に尋ねる。
「そういうことになるな。アンドロイドの人権については、まだSF小説の中でしか論じられていない……。アシモフさんに相談しな。あらら、アシモフさん、もうお亡くなりだわな。ひひひ」
と、マツオが答える。俺は、
「どうだ? アル中とは言え社労士センセが労働基準法適用外といっているんだぜ? わかったか? ……それにしても感情を植え込んだ覚えはないのだが、自我が芽生えやがったか」
などと、ぶつぶつ言っていると、ボックス席の中から、六十年配のオッサンがあるいてきて、カウンターにすわった。現役の総理大臣、管直人氏である。ボックス席の中のデジタルテレビから出て来たらしい……。少し酔っているようだ。カンちゃんが話しはじめた。
「アンドロイド? アンドロイドなんてまだ、格好いいじゃん。俺なんてアメリカさんと官僚の操り人形なんだぜ。人形よりもアンドロイドの方が、格好いいじゃん」
「アンドロイドじゃない。私達、人間なの。女なのよ」
と、また一斉にアンドロイド達が騒ぎ始める。
「今の政治家も、国民も、俺も、マッチャンも、みんな、洗脳された家畜人間みたいなもんだよ。ところがそれにみんな気づいていない。アンドロイドだと分かりはじめた君達の方が幸せだよ」
とカンちゃん。
「カンちゃん、ところで、こないだの小沢の演説とカンちゃんの演説、なかなかよかったね。午前中の朝のニュースショーで小沢の演説には有名な劇作家のゴーストライターがいると報じられていたよ。小沢、情けない男だねえ。小沢の原稿は素晴らしかったけど、ヒモつきの演説をよくまあ、自分の言葉のように話すよなァ! みんなゴーストライターいること知っているのにね」
と俺はカンちゃんのリクエストに応えて「いいちこ」の番茶割りを出しつつ、話した。するとカンちゃん、
「マッチャン、この国をどうすればいい? 今は幕末以上の国難の時なのに、若者は怒ろうとしないし、年寄りどももGHQからの洗脳を受けた世代しか残っていなくて、石原慎太郎みたいに口ばかりで国を憂う奴らばっかり。こう見えても、俺は市川房枝先生の弟子でね。アメリカさんにも官僚にも屈するつもりはないし、小沢みたいに変なな団体に入る気もない!」
「ああ、変な団体って、例の石屋さんとユダヤ人の連合体のことだろ? いつか国会で小沢、『あなたみないな、おかしな団体の人間は信用できない』と野党議員から問い詰められていたが、やっぱり小沢、アメ公の犬なんだね。それに比べてカンちゃんの演説、アメリカさんに反逆して消された議員の名前まで出して、暗殺が行われていること臭わせていたけど、勇気あるな、とおもったよ。もう奴らも、さすがにホテルで自殺パターンは使わない時代になったねえ」
「マッチャン、率直に言って、俺はまず、何をするべきだ?」
「カンちゃん、本気で国を変えようと思うならば、まずは自分の命は、もう、亡いものだと観念することだね。その上で動くんだよ」
「マッチャン、俺はどう動けばいい?」
「結論からいうと、財政と経済の立て直しが先決だろう。カンちゃん、俺のブログ読んでいるよね? こないだ書いた、ネバダ・レポートの項目を明日からでも実行するしか、手はないよ。財務省は明日にでも白旗上げてIMFの日本占領を許す準備があるから、こうなったら競争だぜ。IMFに占領されたら、経済の立て直しの名目で、日本人の資産が全部、海外にスゲかえられることは明白だからなァ。IMFに占領されたら、財務省の官僚は今より更にアメリカさんの忠犬になって、保身と漁夫の利を貪るだけだぜ。ネバダを逆手にとるんだよ」
「ネバダか、つまり、こういうことだな。年金給付は一律30%カット……」
「そうそう、40%カットでもいい。その代わりに、生活保護費基準に満たない老人には、生活保護費基準との差額をどんな名目でもいいから支給する。無年金者もゼロにする……。こうすれば、餓死者は出ない」
「マッチャン、公務員はどうする? ネバダでは公務員の30%削減。給与も30%削減。賞与、退職金の廃止とあるが?」
「つまり、石屋とユダヤ人の、ご用ききだけがのこる仕組みだよ。残った忠犬ハチ公は利権を貪る。ネバダは的を得た部分もあるから、逆手に取って、まずは財務省が白旗上げる前に、忠犬ハチ公の方から30%解雇だね。給与カットと賞与と退職金の廃止はネバダの通りでいいよ、カンちゃん」
「マッチャン、国債・地方債の十年間利払い停止は?」
「カンちゃん、国家が破産したら、当然、円の信用が落ちて暴落するし、猛烈なインフレがくる。日本が安く買いたたかれるんだよ。利払い停止はどんな犠牲を払ってでも実行しなければならんよ」
「マッチャン、消費税20%は?」
「大規模なインフレを食い止めるのにはやむを得ないね。国民も涙を飲む義務があるよ。一応、民主主義でやってきたわけだからね」
「マッチャン、全銀行ペイオフはヤバいだろう?」
「いや、ハイパーインフレなんて事態になったら、札束なんて便所紙程度の価値になる。ペイオフと、その後の預金カットは必要だよ。そうすれば世の小金持も一文無しにはならない……」
「マッチャンのいう通りにしたら、暴動起こるかもしれないし、だいたい、官僚とアメリカさんの忠犬ハチ公系の勢力から俺、抹殺されるよ。実行する前に、政策を口にしただけで、抹殺だよ。政界と財界、官僚、政治経済系の暴力団は、アメリカさんを傘に着て、裏でしっかり繋がっていること、マッチャンなら知っているだろ? 最近、マッチャンのブログの読者増えてきたから、具体的に政治経済系の暴力団の名前は出さないけどさ。汚い奴らだよ。俺は別の理由で即、退陣させられて、五年後くらいに自殺させられることになる。病気をでっち上げられて医者に殺されるかもしれないし……」
「カンちゃん、だからこそ、自分の命はもう亡いものと思えと、言ったじゃないか? 市川房枝先生の弟子なんだろ。俺たち国民を家畜状態から助けてくれよ。カンちゃんじゃないが、このままではアンドロイド以下だよ。俺達だって人間なんだ」
すると、
「私だって人間なのよ。アンドロイド以下とは随分じゃないの! 女なのよ」
と、藤原紀香が泣き叫んでいる。そうして、
「何よ、こんなもの!」
と怒って自分が着ているビキニを破り捨てて全裸になった。藤原紀香が叫び続ける。
「見て! どこから見ても人間でしょう? 女でしょう。泣くこともできる。悲しむこともできる。踊ることもできる。人間の証明よ」
そうして、カウンターから出て、全裸のまま、ジャズダンスのような踊りを始めた。なんという美しい筋肉の躍動感! バランスの取れたスーパーボディー。カウンターの端のマツオもカンちゃんも俺も、美しさに見とれて、息を飲んだ……。
藤原紀香が激しいダンスの中で躓いて転んだ。四つん這いとなり、泣きながら床を両の手で叩き、
「女なのよ、人間なのよ……」
と、呻くように叫んでいる。四つん這いの藤原紀香に小雪が、そっとバスタオルをかけた。紀香は全裸にバスタオルを巻いてシクシクと泣きながら、カウンターの中に戻った。
オードリーがカンちゃんに話しかけている。
「総理。日本人は、植民地の家畜から、人間に戻れる可能性があります。総理の力で! 私達アンドロイドは、どうすればいいのですか? もう、みんな、自分というものを発見してしまいました。私達も人間なのです。カラダは機械ですが、心は人間の女なのです。アンドロイドの人権の法制化もお願いいたします」
カンちゃんは、最初、紀香の裸体の美しさの残り香にボーっとしていたが、オードリーの言葉を受けて、立ち上がった。
「分かった。俺は死んでもいいよ。まずはマスコミを掌握だ」
……いやあ、お客様、お騒がせして申し訳ない。せっかく来ていただいたのに。今度は諸問題を解決しておきますから、これに懲りずまたご来店下さいませ……。ありがとうございました!