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回想 “願いを叶える力”

 私は一人、商店の連なる通りを歩いていた。

単に夕食のための食材を買うためだ。


「あの……すいません。」


 いくつかの店を見て周り、やがて目当ての魚屋に辿り着いた私は控え目な小声で奥にいる店主に話しかける。


「はい!なんでしょ……おっと、これはこれはフィニフィアン様、今日はいかがいたしました?」


 私の顔を見て、今まで威勢の良い大声で客に対応していた店主の声が一転して慇懃な物に代わる。


「はい、この魚とこの魚を……ください。」

「ありがとうございます。」


 他の客が相手であれば「へい、まいど!」と声を張り上げる店主が、まるで気味の悪い人形の様に丁寧に腰を折って挨拶をしてくれる。


「お値段は?」

「いえいえ、フィニフィアン様から金など取れませんよ。無料で結構です。」


 そう言って頑なに私が財布を取り出そうとするのを防ごうとする店主に私は折れて、一度だけ礼を言うと、私は魚を受け取って店主に背を向けた。


 背後で「チッ」と舌打ちをするような短い音が聞こえた。


「おい見ろよ。シュルツのお嬢様・・・だ。」

「馬鹿。指を差すな。それで機嫌でも損ねられたらどうする気だ?」


 そんなやり取りが聞こえた。


 私は溜息を吐きたいのをグッと我慢し、気付かぬふりして通り過ぎる。


「ああ悪い。でもさ美人だよな。お近づきになりたいぜ。」

「救国の英雄だぜ?死ぬ覚悟があるなら、俺は止めないけどよ。」

「ああ、御免だね。女に命を賭けるにしたって、あんな化物はな。」

「同感だ。」


 背後からそんなやり取りが風に乗って私まで届いた。


「……フゥ」


 今度こそ私は小さく溜息を吐いたのだった。




 私には物心付いた頃から不思議な力があった。

ものを願い、そしてそれを口にする事で、どんなものでも叶うという力だ。


 言葉にすればどんな願いだって叶う……それは言葉には言い表せない喜びだった。

一言でどんな人だって助けてあげられる。一言でどんな難問だって解決する。一言で国を襲う驚異すら退けられる。


 やがて人は私を恐れた。その恐れが初めて形になって私に向いたのは、私が国を滅ぼすほどの強大な嵐を一言で鎮めた時だった……


 二度とその力を使わないで欲しいと母に言われた。

「なぜ?」と訊き返しても母は首を振るばかりで何も答えてはくれなかった。


 「なんで使っちゃ駄目なの?私、人を助けたよ?国を救ったよ?それって悪い事なの?」と……私はあまりに幼い……あまりに幼い衝動的な感情で母に詰め寄った。


 母の怯えた顔がやけに癇に障り、気付けば私は一言呟いていた……「≪教えてよ≫」と……

結果、母の口から告げられた、私に対する恐怖と戦慄は、幼い私の心を砕くには十分だった。


 言霊は失われたはずの伝説の魔法である。もはや、風化が激しくて何が書いてあるのかさえ分からない様な歴史書に薄らと書かれているという程度にしか現代には残っていない。

故に、もはや言霊がどんな物であったかすら、現代では分からないとされている。


 古代蔵書図書館の禁書庫の奥の奥。

一国の王ですら閲覧することを許されぬ領域に、私は願って・・・・侵入した。


 母の言葉に受けたショックで茫然自失状態だった私はこの時の事を良く覚えていない……ただ、ここなら過ぎた力が人に受け入れられる方法だって見つけられるかも知れないと、そう思っただけだった。


 時に置き去りにされたかの様な空気の流れる禁書庫のさらに奥、封印指定とされた数々の古書の中に『言霊』とだけ題された簡素な拵えの本が一冊あった。


 私は惹かれるようにその本を手に取り、震える手で一頁ずつ捲っていった。


 書かれていた内容は、私の持つ『願った言葉を現実にする力』について。

そう、私の持つ力は古代に失われたとされた伝説の魔法『言霊』だった。


 涙が出てくる思いとはこの事だろう。


 本の中には言霊術師の宿命まで書いてある。

『ただ一言で世界を救い、ただ一言のために嫌われよ』……と。


 思えば私は人のため以外には言霊を使った事が無い。

今回、ここへ侵入するためだったのが最初と言えば最初だ。


 私はいつだって言霊術師の役目を果たしていた。私はそのために生まれた存在だった。

それが何とも誇らしくて、それで私は涙を流したのだ。


 だったら、私は嫌われたって良い。どれだけ傷付いたって良い。

人を助け、国を救って、そして世界を守る。それが言霊術師として生まれた私の宿命だと感じたから。


 でも、数年の時が経ち、私の決心は鈍っていた。


 人を助けても感謝されない、国を救っても恐れられるだけ。

見返りを求めたわけではないけれど、言霊を使うたびに私に向けられる忌諱の視線が強くなって行く事に、私は段々と辟易していった……それでも私は言霊を人のために使う事を辞めなかった。


 やがて両親は死に、私一人が残された。

その頃には私は『救国の英雄』なんて呼ばれていた……人に忌み嫌われる救世主なんて笑ってしまう。


 そう、いつだったかも忘れてけれど、私は急に気付いたのだ。

言霊が……いや、私がこの世界で誰からも必要とされていない……されていなかったことに。


   -別の世界で人生をやり直さないか?-


 だからだろうか……私はどこからともなく聞こえて来たそんな言葉に、自然と頷いていた。


 私と言霊が必要とされる、そんな世界を夢見て。

地の文ばかりで読み辛かったですかね(汗

すいません^^;

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