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考察 “トールの勘違い”

 地を駆ける。それはまさに風の如し。その速力たるや普通の人間では知覚すらも出来ないだろう。

 そんな凄まじい速度を出して草原を駆けるそれは一組の男女。

 片方は老齢で汚らしい格好をした旅人風の男、名はトール=テン=ハリエニーラ。

 そしてもう一人、痩せぎすで小柄――ケントをして『くノ一』と言わしめる――忍装束の女、名はリーズアレンス=シキ=ルンテイク――名前の『リーズアレンス』の部分を続けて声に出した際に『リーザレンス』と聞こえる事からトールからは『リザ』という愛称で呼ばれている。


   「ふむ……らしからぬ短気さじゃったなリザ。」

   「ハッ、申し訳ありません。何故だかあの男を見ていると無性に腹が立つのです。」

   「別に責めておるわけではないのじゃから、そう落ち込まずとも良い。」

   「いえ!己の感情も制御できない未熟者の証です。精進いたします。」


 凛として真面目な答えを返す部下にトールは苦笑して答える。


 彼らは先程からこのようにして言葉を交わし続けているが、それでも駆ける速さには幾分の衰えも見せない。


   「ケントじゃったか……あの小僧には何か不穏な物を感じるのぉ。」

   「……」


 トールの言葉にリザは無言で肯定の意を示した。


   「うーむ……」

   「どうかされましたか、ハリエニーラ様?」


 足を止めず、しかし考える仕草をすると云う器用な真似をして見せるトールにリザは心配そうな声をかけた。


 実際リザはトールの身を真剣に案じているのであり、カテアテ集合国へ向かっている現在でもリザはトールに負担を掛けたくなく、リザがトールを抱えて疾走したいと思っている程であるのだ。

 それでもそれを実行しないのはトールが「自分で走った方が速い」と言うからであり、より合理的な行動をトールが好んでいる事を知っているからである――トールの力はリザよりも上であり、トールが本気を出せばリザとてトールに付いて行く事は出来ない。


   「いやのぅ……これはカテアテに到着してから話そうと思っていたんじゃが――」


 トールは今回のエインゲンバー討伐からの顛末をリザに語って聞かせた。


   「――というわけでのぅ……」


 ルヴィス帝国皇帝やケントに「まるで未来予知だ」と現在恐れられているトールだが、いくつかはトールにとっても予定外の事はあった。


 そもそもケントとフィニの存在はトールにとって予定外の事であり、その有り様を見極める為に当初の予定を変更してケント達をエインゲンバー討伐に利用した。

 いくらトールに未来予知にも似た先を見通す力があるとはいえ、異世界からやって来て、それもまだ数日しか経過していないケント達の事を知ると言う事からして不可能である。当然、その行動を完璧に読み取ると言う事も限りなく不可能に近い。

 だからこそ、予定外の人間であったケントとフィニに付いて可能な限り情報を集める必要があった。


 そういう事情あってケントとフィニに接近し間近で観察した結果、『ケントとフィニは亜人、もしくは、魔人である』という結論にトールは至った。


 異国の旅人と云うにはどの国にも属さぬ異相の装いであり、常識に疎く、しかし一語法などという人外―と言われている程の―の技術まで扱う。


 人間と見た目は殆ど変わらないが、人間と比べると異様に力の強い亜人と異常に魔力の高い魔人――存在すら疑わしい異人たちのその条件に、ケントとフィニはピタリと条件が当て嵌まっている。


 そもそも出身国不明。

 一応大陸内の国の主要都市は全て回ったトールだが、あのような服装の人間など一度たりとも見た事が無い。


 以上の理由で至った結論である――ケントが聞いたら噴き出してしまうであろう勘違いだが、トールは大真面目である。

 そもそも異人の存在すら怪しい物であるのに、異世界の存在などは流石のトールでも想定の外であり、それに付いて責めるのは酷であると言える。


   「では、後唱法の秘儀が国外へ漏出してしまったのですか!?」

   「そうなってしまうのぅ。」


 そしてもう一つ――後唱法について喋ってしまった事。

 これもトールにとって予定外であった。


 これについてはケントの『逆回転の歯車』としての特性全開での事なので、仕方が無いと言えば仕方が無い事ではあるのだが、トールにとっては重大なミスである。


   「ハリエニーラ様らしく……ありませんね。」

   「これは完全にワシの失策じゃな。今頃は全てルヴィスの皇帝にも知られてしまっておるじゃろうのぅ……折角隠してきたのに勿体無いのぅ……」


 心底悔いる様な声音で話すトール。それを沈痛な面持ちで見守るリザ。


 しかし、言い換えてみれば、それこそ国家を揺るがしかねない革新的な技術であるはずの後唱法が国外に漏出してしまった事でさえ、トールにとっては『勿体無い』で済む程度の事である。

 なぜなら、後唱法そのものの存在は知られても、それを誰かが扱えるようになり、一般の魔術師まで普及するには相当の年月を要する事がトールには分かっているからである。


 よって、後唱法自体が知られるだけならば、実はトールにとってはそれほどの痛手ではないのである――つまりは、後唱法の事を喋ってしまったのはトールのミスだが、あの慌て様などは全て『思考縛りの話術』の一環であると云う事だ。


 尤も、脱獄騒ぎ云々のせいで後唱法の事などケントの御粗末な頭脳からは完全に吹き飛んでしまったため、ケントは皇帝に後唱法の事など一切喋ってはいないのであるが――それもまたトールが知る由も無い事である。


   「まあ良いわ。それよりも、漸く全ての準備が整ったの。」

   「そうですね待ち侘びました。国民達もハリエニーラ様の……いえ、トール=テン=カテアテ様の帰還を心待ちにしている事でしょう。」

   「その呼び名は窮屈過ぎる。これからも公的な場以外ではハリエニーラと呼ぶが良い。その方がワシ的にも聴こえが良いでのぅ。」

   「ハッ。了解いたしました。ハリエニーラ様。」


 愉快そうにトールは笑い、そして一言呟く。


   「さて、開戦の準備じゃの。」


 視線を上げたその先にはルヴィス帝国とカテアテ集合国の国境が既に見えていた。

活動報告にも書きましたが、今回の章の執筆に当たりまして、十二章の“とりあえず必要なのは地理”を改稿いたしました。

やや大きく内容を変更した為、時間があれば読みかえす事をお勧めします。


事前に作った話を作り直すなんて、まだまだ僕が未熟な証です。

今後このような事は無いようよく考えて物語を作って行きますので、これかも見捨てたりしないで温かい目で見守っていてくださると嬉しいです^^



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