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四十一章 “容疑”

 依頼は達成された。どうにも納得のいかない結果ではあるが、何にせよエインゲンバーを捕獲し、トールに献上すると言う当初の目的は達せられたわけで、もう俺達はトールに関わる必要は無いわけだ。


 考えてみればこんな汚らしいなりしたオッサンをよくもまあ信用した物である。いや、信用していたと言うほどに積極的にトールに関わったとは思えないけど、しかし助けられたというのも事実なわけで、汚らしいなんて言っちゃあ流石に悪いかなーとか考えたり考えなかったり……


   「じゃあ俺達はとりあえずランクルートに帰ろうぜ。朝の散歩がとんでもないことになっちまった。この調子じゃあ街に帰る頃には日が変わっちゃうよ。」


 空には既に赤みが掛り、夕暮れ時である事をそこはかとなく知らしめている。


 街からこの場所へ来るまでに多分三、四時間歩いたから、帰りもそれだけ掛ると考えて……空の具合的には今五時から六時くらいだと思うから……まあ夕飯時には帰れるかな、なんて夕食の遅い俺駄目人間。


 まあ今現在、腹がはち切れんばかりにたらふく肉を食べてしまったわけだが、三時間も歩けば腹も減るだろうと、ひとまず俺はフィニに帰ろうと言葉を掛けた。


   「そう……ですね。」


 フィニも思案しつつ同意を示してくれた。


   「そうか。お主らランクルートに帰るのか?」


 と、その時、何やら意味深な口調でトールが疑問を発す。


   「いや、のぅ。戻らない方が良い様な気がするのじゃが……」


 え、なぜ?と言葉を発す余裕は無かった。


   「三人とも動くなっ!」


 鋭い声がその場に響き渡った。


 「チッ遅かったか……」と舌打ちと共に発せられたのはトールの呟きだ。


   「え?え?」


 俺は何が何やらわからず意味の無い音を発しながら口をパクパクさせることしか出来なかった。


 右後方には鬱蒼とした森、左手の後方には先のエインゲンバーの巣と思われる岩場から削り取られたかのような洞窟。そして、前方にあるのは先程矢倉を組んで火を起こし、肉を焼いて食べた隠れることなど出来ないだだっ広い草原である。


 そこから、まるで湧き出て来たかのように一人の人間が、次いで沢山の似た甲冑を着込んだ無骨な騎士達が現れて来た。感覚的には地面から生えて来たのかと言った感じである。


 見た感じ50人強の人数で、シュレン隊の三倍以上の人数。


 甲冑には橙色の紋章が刻んであった。

シュレン達の着ていた鎧に刻まれていたこれと同じ模様は、確か青色だっただろうか?


   「我々は帝国騎士団ハイラル隊である!貴殿等を幼生エインゲンバーの狩猟及び捕食の容疑で連行させていただく。」


 その団体の中から一人、薄緑の髪を短めに切り揃えた、一目で歴戦の勇士と分かるほどに精悍な顔つきをした壮年の男性がそう口上を述べながら一歩前へ踏み出してきた。


   「そ、それは……その……」

   「弁明は帝城で聞こう。」


 なんとか釈明を試みるも、有無を言わさぬ調子で封殺された。


 言葉に詰まってトールを見る。トールは険しい表情で口上を述べる男の顔を凝視していた。相当に情けない顔をしているであろう俺に気づかなかったようで何よりだ。


 次いでフィニを見る。フィニは俺と同様に困った表情で俺を見返してきた。自分達がとんでもなく悪い事をしてしまった事に気付いた、と言った風体の表情である。


   「手荒な事はしたくないので、大人しく御同行願いたい。」


 口調こそ丁寧ではあるが、その言葉の節々には「抵抗するなら斬って捨てる」という明確な意志が感じ取れる。ここは逆らわないが吉と言う物だろう。


   「一つだけ、訊かせて貰いたいんじゃが、よろしいかの?」


 そんな中、トールが釈然としない事があるとでも言いたげにおずおずと口を挟んだ。


   「まあ良かろう。」


 男はトールが質問することを許可した。


   「先程『容疑』というたの。と言う事は、ワシらが幼生のエインゲンバーを食うた証拠が無いどころか、その様子を目撃すらしておらん。何故、そうも明確に罪状を言う?」


 んん?ちょっとトールの言ってる言葉の意味が分からないぞ。ちょっと待てよ。


 容疑ってことは、つまり疑いだ。「お前ら子供のエインゲンバー食っただろ」と、今容疑を掛けられているわけだ。


 ……そうか!俺達はさっき食べたばっかりで、その時周りに人はいなかった。こんな大群が隠れていられるスペースもなかった。なのに、なんで俺達に『幼生エインゲンバーの狩猟及び捕食』なんて疑いが掛けられるんだと、そうトールは言ってるのか。


   「そんな事か。何と言う事は無い。丁度任務を終えて街に帰る途中、どこからか幼生エインゲンバーを食うためだとかいう計画が聞こえたのでな。任務の報告のために隊員の殆どは街へ帰らせつつ、こうして部隊の一部を引き連れてやって来たというだけだ。」


 ということは、五十人強はいそうなこの大群は部隊のほんの一部に過ぎないってことか……って、そんな事はどうでもいい。肝心なのは、つまり、肉食ってる最中の俺達の会話を聞かれていたという事だ。


 ……どこで?どうして??どうやって???


   「流石は……音に聞こえた『千里眼』ということかの。」


 千里眼って……


   「『千里眼』などと言う言葉は聞こえが良すぎるな。私は所詮ハイラル=イデ=ケスタリードという名の一個人でしかない。」


 んー?ハイラルってどこかで聞いた事があるような……


   「シュレン達の話にあった、帝国騎士団最強の騎士の名ですよ。」


 戸惑う俺にこっそりとフィニが耳打ちしてくれる。


 あーそっかー。あのねぇ……あの……唯一帝国内でシュレンに勝つことのできる騎士だったっけ!?


   「もしかして俺達って、物凄~~く厄介な人たちに目を付けられた?」

   「かも、知れません。」


 その後、俺とフィニ、そしてトールの両腕には何やらよく分からない模様の施された手錠を掛けられた。話を聞く限り、体内の魔力出力を乱す機能があるらしく、ようは魔術を封じる手錠とのことだ。


 特に逆らう事は無く、俺達はハイラル隊の皆様に連れられてランクルートの街に帰る事になったのだった。

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