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四十章 “トールの行動理由”

 矢倉状に組まれた薪を囲む。っていうか、トール気合入り過ぎ。どんだけ楽しみにしてんねんっ!と、ついうっかり関西弁でツッコミを入れそうになったのは秘密だ。


   「さて、火じゃの。ワシは正直『精霊術』は得意ではないんじゃがのぅ。」


 と、ここまできてトールは残念そうな声を洩らした。


   「そうなんですか?」

   「そうなんじゃよ。いや、できないわけではないんじゃが、微調整がのぅ……消し炭にしてしまうかも知れん。」


 凶悪過ぎる。


   「あれ?でも、ランクルートの街の中じゃあ普通に火を起こしてなかったっけ?」

   「たまたま上手く行ったんじゃ。下手したら、あの辺り一帯吹き飛んでいたかもな。」


 そんな危ない事を街中でやらかしたのか……


   「うーむ……全ては幼生のエインゲンバーをこの口で食すためよ。」


 なんだか苦労話みたいな語り口調だが、言ってみれば俺とフィニが扱き使われた話である。してやられたとはこの事なのだろう。


 考えてみれば変な話だ。街中で、それも通行の止まる迷惑になる位置で肉を焼く。苦情が出る。苦情処理に騎士団が出張る。


 つまり騎士団は軍隊的な立ち位置とは別に警察的な側面も持っているということだろう。お役所仕事御苦労さん。


 それは兎も角、騎士団が出張ってくる。本来はその中の誰かにでも押しつけようとしたのだろうけれど、偶然にも国家の客人だとか言う異国の二人がそこにいた。しめたとばかりに俺達に押し付けたというわけだ。


 でも変じゃないか?この状況を作るには、成獣のエインゲンバーに勝てる実力が必要な上に、幼生のエインゲンバーに関する知識の欠如が不可欠だ。でなきゃ、幼生エインゲンバーを殺さざるを得ない状況が完成しない。


 どうして、俺達には実力があり、かつ知識が無いと判断した?俺には実力もないし知識もないぞ。


   「不思議そうな顔をしとるの。そんなにワシの行動が不可解か?」


 そんなに不思議に思っているつもりは無いんだけどな……俺って顔に出やすいのかな?


   「ワシには貴様が、」

   「あ、俺の名前ケント。いい加減さ、小僧とか貴様とかそんな呼び方やめろよな。ちなみにこっちの可愛いのがフィニ。」


 空気を読まないのも駄目人間クオリティー。


 不意に紹介されたフィニは咄嗟の事に驚いたのかやや頬を赤らめて俯いた。可愛い。


   「ふん。ワシには貴様が不思議に思っている事など手に取るように分かるわい。」


 あ、無視された。


 よほどセリフを遮られたのが不愉快だったのだろう。明らかに不機嫌な表情になりつつも、トールは何事もなかったかのように同じ言葉を口にした。


   「ま、貴様のアホ面が気に入ったんじゃよ。」


 サラッと酷い事を言われた。


   「何だとっ!こんなイケメンを捕まえて何を言う!!」


 軽くナルシスト入りなのは勿論駄目人間クオリティー。


   「そう我鳴るな小僧、底が知れるぞ。」


 なのに、特にツッコむでも無く、トールは軽く受け流した。


   「国家の客人、異国の旅人となれば、ルヴィスの、それもランクルート付近にしか生息していないエインゲンバーに付いての知識など無いと踏んだだけじゃ。それに、風の噂では南の村でカレイプスを討伐したと聞くではないか。これ以上に適した人材などおらんよ。」


 ま、カレイプスは言い過ぎじゃろうがな。なんてクックと含んで笑いながらトールは言った。全然言い過ぎじゃないですけどねー、と口から出かかったが、一応堪えておいた。


   「でも、もともとはこの国の騎士団に依頼するつもりであったと言いましたよね?」


 フィニがおずおずとそう切り出した。


 確かにそうだ。ランクルート付近にのみ生息するエインゲンバーとなれば、異国の旅人となっている俺達が知らぬのは無理のない事。

だが、最初は騎士団に依頼するつもりであったとトールは語っている。まさか騎士団が幼生エインゲンバーに付いて詳しい知識が無いとは思えないし……


   「あんなもん、口から出任せじゃ。」


 さらっと言った!?


   「ワシは始めから貴様ら二人を利用するつもりでいたし、その為に行動していたつもりじゃ。概ね、ワシの予想通りに事は進んだしの。愉快じゃ愉快。」


 そんな風に嘯きながら軽快に笑う様子は、子供が自分の悪戯を自慢するかのように誇らしげだった。つまり、苛立たしかった。


   「さて、肉じゃ肉。食うぞ。」


 と、そう言ってまだ火も付いていなかった事に気付く。


   「あ……」


 なんか世界の終わりを見たかの様な絶望の表情だった。どれだけ楽しみにしていたんだろう。


   「フィニ。良い具合に火、付けてあげてくれ。」


 なんだか無性に哀れに思えて、俺はフィニに火を付けるよう頼んでいた。俺が食べたいわけじゃないんだからなっ!勘違いするなよな!とかツンデレを気取ってみたり……絶対この世界じゃ通じないよな。


   「あ、はい。」


 フィニも似たような事を感じていたのか、特に躊躇いもせずに頷く。


   「≪燃えよ≫」


 燃え盛る薪。轟々と炎を上げ、矢倉は一瞬で崩された。


   「あの、フィニ?」

   「すいません。私も力加減、苦手で……」


 うぉい!?マジで!?またフィニの可愛らし一面発見しちゃったぜ!じゃなくて!!


   「ま、まあ火は燃えてるし、これで肉も焼けるっしょ。ほら、トールのオッサン。肉焼くぜ。」


 予め皮を剥ぎ、食べやすい大きさに切り刻まれている肉を指差す。ちなみに、切り刻んだのは俺。


 バーチャル世代な俺は調理もゲーム感覚なので、実はそう言うのは得意だったりする。生きているのを殺すのは、正直ゴキブリが限界だけど、死んでいればそれはもう食糧なので平気なのだ。


   「ぉお!」


 トールも火が燃え上がっている事に今更ながら気付き、パァッと表情を綻ばせた。だから、どんだけ楽しみやねん。まあ俺も楽しみだけどさ。


   「では、命に感謝していただきましょう。」


 そんな風にフィニが祈りの言葉を捧げ、適当に木の棒に突刺された肉を火に翳して焼いた。


 成獣の肉の方は筋張っていてあまり美味しいとは言えなかったが、しかし幼生の肉の柔らかさと甘さたるや、その美味しさは尋常ではなかった。

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