三十一章 “デートか!?これはデートなのか!?”
俺とフィニは身支度を整えて、番兵さんに挨拶をしながらランクルート城を出た。
中途ですれ違ったサレファーは俺達に付いて行きたがっていたが、それはネルグラン伯爵に諌められていた。
何やらいきなり口喧嘩が始まったが、そちらは無視する方向で。
「賑やかですね。」
「そうだね。」
フィニと並んでランクルートの街を歩いていた。
周りでは八百屋らしき店の店長さんが威勢の良い声を張り上げて客引きをしていたり、玩具屋らしき店の前で子供たちが集まっていたり、小道の奥にちょっと怪しい感じの大人な夜のお店があったりと活気に満ち溢れている。
「さて、こちらが確か貴族街だそうですね。」
「そんなこと言ってたな。」
ランクルート城から続いていた道の途中の坂道になっているT字路を見上げる。
その先には、ここから見るだけでも分かるくらい華やかに装飾された豪奢な建物の数々が見える。
「どうする?ちょいと探検してみる?」
「え?そうですね……ケントが……その……行きたいのであれば。」
顔を赤らめてもじもじとした仕草でそんな事を言うフィニ。
思わずして俺の心臓は口から飛び出した……様な気がした。
はっ!?
ちょっと待てよ……冷静に考えよう。
得意の状況整理だ。
俺:駄目人間……問題ない
フィニ:可愛い……問題ない
状況:二人っきりで街を歩いている……デート?
これはやばい!
どうやばいのか俺には欠片も分からないけど、なんかやばい!
「それで、あの……どうしますか?」
どうしようね。
正直貴族街なんて見ても良いとこないと思うんだけどね。
でもまあ、中世ヨーロッパ的街並(中世ヨーロッパ的街並を俺は知らないのだが)に見える優雅に立ち並ぶ建物は、確かに平民と貴族とを分ける絶対的境界線にも見えて、一度くらいは見ておきたい衝動にもかられる。
「そんじゃ、一回行ってみよっか?」
「はい。」
フィニはニコッと微笑んで見せた。
グハッ、俺の心臓に45のダメージ。ちなみに最大HPは50……もう死ぬ寸前です。でもたすけなくて良いよ。
そんなわけで、俺とフィニは二人並んで貴族街の方へ足を向けた。
シュレンの話によると、ここランクルートは皇帝が治める街という事で特別貴族が幅を利かせているという事は無い、とのことだった。
そもそも貴族とは、領地を持ち、そこを治める領主の事を言う。単なる金持ちを貴族とは言わないのだ。
無論、現在ランクルートにいる貴族達も自分達の領地を持っている。
それがなぜこのランクルートに集まっているのかと言えば、今回の晩餐会出席の為という納得の答えが返って来た。
兎も角、その領地内でこそ権力を発揮できる貴族だが、皇帝の治める土地の中で自分勝手などいかな貴族といえども出来るわけがない。と、いうのがシュレンの談だった。
「……」
「……」
俺とフィニは無言で立ち尽くすしかない。
なんせ、貴族街に足を踏み入れた途端、鎧甲冑(シュレン達の鎧とは違う)を着込んだ兵士に囲まれて槍を向けられたからだ。
「ここは貴族街である。貴様ら下々の者に足を踏み入れる権利など無い。」
シュレンの嘘つき!
ビックリするくらい貴族と平民の格差あるやん!?
「おい!聞いているのか!?」
いつまでも黙っている俺とフィニを見て、痺れを切らした兵士の一人が槍の先を牽制するように俺に近づけた。
「うわっ!?」
「ケント!?」
兵士の方に攻撃の意思など微塵もなかったであろうが、武術の心得など皆無の俺には近づいてくる槍の先が俺を刺し貫こうとしているようにしか見えなかった。
結果、思わず後ずさりして躓いて、無様にすっ転んで尻餅を突いてしまう。
「何だ貴様、この程度で尻込みか?ハッ、これはとんだ臆病者だ。なぁ?皆?」
一人の兵士がそんな俺を見て小馬鹿にして嘲笑う。
周りの兵士達もつられて哂い出す。
さて、俺はその程度全然構わないが、しかし俺が嘲笑の的にされると怒ってしまう人が俺の隣にる。
そう、フィニだ。
「ケントを馬鹿にしましたね。許しません!」
「な、何だ貴様!」
ドッと怒気を剥き出しにしてフィニは兵士を睨む。
それに気付いた兵士がややたじろぎながらも、こちらも語気を強めてフィニを威圧せんと言葉をぶつける。
「ケントは臆病者なんかじゃないんです!何も知らないのに!ケントに謝ってください!」
あれー……なんだかデジャヴを感じるよ……
「そんな虫けらにも劣るような男を庇うのか?ハッハッハ!こいつぁ傑作だ。虫は虫らしく醜い地の底から光だけ羨ましがっていれば良いんだよ。」
まああんまりな言い方ではあると思うけど、それくらいじゃあ俺の心には響かない。
虫けらなんて言われ慣れてるぜ。
それよりも……
「うぅ……」
今にもブチギレて言霊をぶっ放しそうなフィニにこそ注意しないとな……
「スゥ……」
とか考えていたそばから、フィニは言霊を使うべく息を吸い込み始めた。
兵士たちはそれを怪訝な表情で見守っている。
やばっ……
「≪衝撃を あgムグッ!?」
「はい、すいませんでした!すぐに去ります!!」
咄嗟に俺は左手でフィニの口を塞ぐと、右手でフィニの体を抱きかかえ、兵士たちが何かを言おうとするのも聞かず、回れ右して一目散に駆け出した。
中途、何やら柔らかな感触が俺の掌から伝わって来たけど、必死だった俺にはそれを楽しむ余裕は無かった。
「騒ぎを起こしちゃ駄目ー!!」
冷静沈着で頭脳明晰な俺だけど、この時ばかりは流石にちょっと声を荒げた。
え?冷静沈着で頭脳明晰ってどの口が言うのかって?良いんだよ。日本には発言の自由という物が……とか、考えてるから俺は駄目人間なのかな。
「すいません。つい、頭に血が上ってしまって……」
正直に言えば、ってか正直に言うまでもなく、フィニが俺の為に怒ってくれる事は嬉しい。文句無く嬉しい。嬉しいの最上級。嬉しぇすと。
でも、あそこで貴族街の入り口守ってる番兵さんをぶちのめしちゃったら、流石にこのランクルートにはいられなくなるだろう。
まあ、既に一人貴族をぶちのめしてるわけだけど、まああれは合意の上での決闘だしノーカンね。
「分かってくれたらいいんだ。それにさ、俺は罵倒される事なんて慣れてるしさ、いちいち俺の為に怒ってくれなくても良いんだぜ?そんなことしてたらフィニ、疲れちゃうだろ?」
俺が罵倒されてフィニが傷付くなんて、そんなことあっちゃいけない。
「そんなことありません!」
しかしフィニは、きっぱりと俺の言葉を否定した。
「そっか。優しいなフィニは。」
「そんな……私なんて全然……ケントの方が……凄く優しいじゃないですか……」
最後の方はボソボソとした小声だったので聞き取れなかった。
「ん?なんて言った?」
「な、なんでもありません!」
と、そう言ってフィニはそっぽを向いてしまう。
心なしか頬が赤い。
あー分かった。
分かる分かる。
人に聞かれると恥ずかしい独り言を言っちゃう事ってあるよねー
特に、愛と勇気すら友達になってくれない俺にとっては話相手が空気ってこともままあったし、そういう時って人に聞かれたくないよね。
ってことはだ、これ以上の詮索はすべきじゃないってことだな。
「ま、良いや。貴族街は駄目っぽいけどさ。もう少しランクルート見学しようぜ。」
そう軽くフィニに話しかける。
「はい。」
フィニは笑顔で頷いた。
すいません更新が滞っております^^;
大学の春休みは無駄に長いのに、なぜこうも忙しいのか……
補講補講補講……いずれ歩行も入る勢いです(ぇ
でも頑張ります!
こんな作者ですが、皆さん応援よろしくお願いします。
応援のメッセージなど送っていただけると、なんと更新のペースが三倍になる!……と良いなと思います。