二十九章 “言霊についての疑問”
なんだかんだで時間もかなり遅くなっていたので、結局あの場は解散となった。
晩餐会でのあの事は、決闘に負けたウェルストンが全て悪いという事になったが、周りから見てももう充分に罰を受けたろうという事でお咎めは無しになった。
まあフィニの言霊をその身に受けて、さらに罰を喰らったんじゃあいくらなんでも可哀想だもんな。
……あれ?なんだか、フィニの言霊を喰らって、さらに騎士昇華訓練なんて罰を喰らった誰かがいたような気がするけど……まあいいか。
とりあえず、俺はこの現状をどう打開するか、それを全力で考えないといけない。
何が起こっているのかと言うと……
「ケント……」
ドキドキが止まらねぇー!!っと、取り乱した……
つまりだ、俺とフィニは皇帝によって王宮にある客人様の部屋を宛がわれ、そこで休むことになったのだが、如何せん俺とフィニが同室だった。
なんで、部屋は有り余っているだろうに、わざわざ人間を二人、それも男女を同じ部屋に押し込めるのだろうか……
これは陰謀の香りがする。それもかなり俺にとって好都合な。
「あの……どうしましょう?」
さらに、部屋の中にある寝具はやや大きいが、しかしシングルの域を出ないベッドが一つあるだけなのだ。
この状況下で余計な事を考えない奴は男じゃない。いや、人間じゃない。
だがしかし、俺は駄目人間ではあるが紳士である。
まさか夜の闇の中で婦女子を襲うなどと、とてもではないが看過出来るものじゃない。
それもフィニのような可愛らしい女の子だなんて、例え明日死ぬとしても俺は傷つけたくない。
それでも『俺の倫理観と理性VS俺の本能とフィニの可愛さ』という構図の中で、前者の勝率がいかほど残っていると言うのか。
それは例えるなら『銃器を持った成人男性(戦闘力5のゴミ)VSとある惑星の某戦闘民族(地球を何度も救った英雄の兄)』くらいの差があると言えよう。
つまり、瞬殺の、それも返り討ちだ。
「だだ、大丈夫。フィニはベッドで寝て良いよ。俺は廊下……いやトイレで寝るから。」
「そこまでしなくても!?」
思わずと言った様子でフィニが驚いた声を出した。
どうやら俺の冗談を真に受けたらしい。
「そ、それならケントこそベッドで寝てください。私がトイレで寝ますから!」
「フィニをそんな所で寝かせられるはずがないじゃないか。トイレは俺にこそ相応しい寝床だ。」
変な奪い合いが始まった。
「いえいえ、私がトイレで寝ます。トイレで寝る女だと元の世界では有名でしたよ。」
それで良いのかフィニフィアン・シュルツ……
「何を?THEトイレで寝る男とは俺の事だとも。」
っていうか、アレだよね。
夜遅くまで起きてると変なテンションになるよね。
今日は実際いろいろあって、疲れ過ぎて寝れないせいか俺もフィニもテンションがおかしなことになっていた。
「プッ、クスクス。」
「ハハ、アハハハハハ。」
暫く俺とフィニは不毛な言い合いを続け、やがてどちらからともなく笑い出した。
「なんだ、フィニってそういう愉快なとこもあったのか。」
「私、こういう冗談の言い合いって本当は好きなんですよ。この世界に来て、いろいろあって緊張してて、そんな余裕もありませんでしたから。」
それは良い。また今度フィニにネタを振ってみるとしよう。
フィニとなら楽しいやり取りが出来る筈だ。
「まあ、真面目な話、ベッドではフィニが寝てくれ。女の子がベッドじゃない場所で寝るなんて、俺の精神衛生上良くない。」
「そうですか……では、お言葉に甘えて。」
そう言うとフィニはベッドに腰掛けた。
「そう言えば格好……」
「そうですね。このままでは寝苦しいですよね。≪清めよ≫」
なんだか暖かい光が俺とフィニの体を包んだ。
その光が収まると、なんだか風呂上がりでも感じないような清潔感が俺を呑みこんでいた。
服もまるで新品の様にピカピカで、ノリが付いてパリッとしていた。
「後は……≪睡眠に相応しい格好に≫」
再び俺とフィニを光が包む。
気付けば俺の格好は上下紺色のスウェット。
フィニは薄手のブラウスらしき服と、それと同じ生地のパンツというラフな格好になっていた。
「へぇ、やっぱり便利だな。荷物いらずだし。」
「ア、アハハ。」
照れくさそうにフィニは髪を掻いた。
「でもさ、ちょっと不思議に思ってたんだけどさ。」
「何ですか?」
折角だから、一つ疑問に思ってた事を聞いてみる。
「俺の服ってさ、やっぱり俺の世界独特の物なわけでさ、フィニも俺の服の事なんてこれっぽっちも知らなかったわけだろ?」
「はい。そうですね。」
「言霊で服を出すって言ってもさ、俺の世界の服がこうして出てくるのはおかしくないか?」
「ああ、その事ですか。簡単な事ですよ。私が言霊で『服』という単語を言った瞬間にケントは元の世界で来ていた服を想像しますよね?」
確かに、俺はあの草原で服を着たいと思った時、真っ先に元の世界で来ていた服をイメージした。
「言霊は、そのケントの想像した服の材質や形状などを、こちらの世界にある物を使って再現したのです。だから、厳密に言えば、その服はケントの世界の物ではなく、あくまで良く似た物ということですね。」
ふーん。何となく分かった。
「じゃあさ、例えば『ダウンジャケット』みたいに情報を付け加えれば、言霊で何でも取り出せるってわけか。」
「ええ。ただ、私が知らない物である場合は、ケントが脳内に正確に思い描ける物に限りますが。」
だから俺が正確にイメージした服は取り出せたってわけだ。
「じゃあ、武器はどうだ?」
ここでもう一つ考えてた事をフィニに訊いてみる。
このまま駄目人間としてフィニに頼りっきりになるのは、いくらなんでも駄目すぎる。
いざという時には俺だって身を守るくらいの手段は欲しい物だ。さらに望むなら、俺がフィニを守りたいしな。
だから、俺の戦う手段として武器が作り出せるのなら、それがそのまま俺の戦う手段になる。
「武器、ですか?」
「そ。武器。」
「どうでしょう?私は武器に触れた事が無いので、刀剣や銃器の類は……ケントには武器についての素養が?」
あるわけがない。
現代日本人である俺に武器の素養があったら大問題だ。
「形だけは作り出せても、その用途を達成できる物は作れないのではないかと。」
じゃあ駄目だな。
「そっか。分かったよ。」
「すいません。言霊は今ここある物をどうにかするには向きますが、新たに何かを作り出すには向かないんです。」
心底申し訳なさそうにフィニは言う。
そんなフィニを見て、俺は心苦しくて……
「なんでフィニが謝るんだよ。フィニは全然悪くないって。」
と、そう慰めた。
「ありがとう、ケント。」
俺の言葉を受けて、フィニはそうニッコリ微笑んだ……まずい、凄く可愛い。
「さ、さあ、寝ようぜ。俺、あっちのソファで寝とくからさ。」
「はい、おやすみなさい。」
思わずフィニの笑顔に見蕩れた俺は、頭をぶんぶんと振ってから、フィニに「おやすみ」を告げてソファの方に横になった。
疲れていたのか、すぐに睡魔は襲ってきて、あっという間に俺は眠りに落ちた。




