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二章 “とりあえず服を着たい”

 どうしようわけが分からない……

冷静に自分の行動を振り返ってみたけど、あの意味不明な声に「人生をやり直したい」って答えたらこんな状況だった、っていうことにしかならないよなぁ……


「どうしたら良いんだろう?」


 独り言は癖だ。

友達がいない(ついさっき自覚)俺には、俺自身が数少ない話相手である。

だから、独り言に心の中で答えるというのは一つの俺のコミュニケーション手段なのだ。

ただし、自分一人に限る。


「あの……」


 その時、女の子から声をかけられた。

破壊的に可愛い、紅い髪の女の子だ。

ただし全裸……当然、俺には直視できず。


「お名前を、教えていただけませんか?」


 そう恐縮気味に俺に問うてくる。

確かに、お互いこんな意味不明な場所で全裸で出会った人間同士だ。

コミュニケーションを取るためにも名前は必需品だよな。


「あ!私、フィニフィアンって言います。フィニフィアン・シュルツです。長いのでフィニって呼んでください。」


 人に名を尋ねる時は先に名乗る礼儀だと思い出したのか、女の子は丁寧な口調で自身の名を告げる。


「分かったよフィニ。俺、來生賢人。後に来るのが名前で、前のはファミリーネームね。」

「ケントさんですね……わぁ、変わったお名前なんですね。」


 日本ではまったく珍しくないんだけどね、そう言おうとしてやめた。

その代わり「俺は『フィニ』って呼び捨てにさせて貰うし、フィニも俺の事は『ケント』って呼び捨てで良いよ」と言っておく。

フィニは「じゃあそうさせて貰いますね、ケント。」なんて良い笑顔で言ってくれた……めっちゃ可愛い。


「ところで、フィニってどういう状況でここにいるの?」


 そこで俺は一番気になっている事を聞く。

なぜならフィニは俺と同様にこの場所で全裸でいるのだ。

俺がここへ来る際に巻き込まれたこの世界の人か、もしくは別の世界からこの世界へ来た俺と同じ境遇の人か、という二つの可能性があるからだ。


 結果として、予想通りフィニは後者だった。


「私は……その……」


 そこでフィニは口ごもる。


「ああ、いや、言いにくい事は言わなくて良いんだけど……」

「いえ、信じていただけるか不安で……」


 その時のフィニは随分と弱々しく見えた。


「心配しなくても、大概の事は受け入れる器をもってると思うぜ、俺は。なんせ俺自身も、ついさっき信じられない体験をしたとこだしね。」


 だから俺はそう極めて明るく言ってやる。

俺の予想が正しければ、フィニはほぼ俺と同じ境遇なのだから。


「ありがとう、ケント。私、実は自分の周りの世界に嫌気が差してて……そんな時に不思議な声を聞いたんです。『別の世界で人生をやり直してみないか?』って……気付いたらこんな場所に……」


 やはりそうか。


「でも、信じられませんよね。別の世界なんて……」

「いや、信じるよ。実は俺もなんだ。」

「え?」


 驚いた様な声は出したが、表情はそれほど驚いているようには見えない。

恐らくフィニも俺の質問や言葉から、俺の大凡の境遇は当りをつけていたのだろう。


「俺も自分の世界が嫌でさ。俺って駄目人間じゃないのかな?なんて悩んでたんだよ。そしたら『別の世界でやり直さないか?』なんて変な声が聞こえて、気付いたらここにいたってわけ。」

「そうなんですか?じゃあケントは、また私とは違う世界からここに来たんですね。」


 俺にとってもフィニにとっても、もうこの場所が自分たちの住んでいた世界ではない事は疑いようが無い。

謎の声は『別の世界』と言っているし、口振りからして世界は沢山あるようだから、俺とフィニのいた世界もまた違うのだろう。


「う~ん、あの声は自分の事を『ある世界を支配する神だ』なんて言ってたから、今いるこの世界が多分その世界なんだと思うけど……」

「私も聞きました。でも、その神様は何がしたいんでしょう?」


 困った。

何に困ったかというと、手を顎に当てて顔を傾げるフィニが可愛過ぎることに。

しかも全裸。


 そうだ、いつまでも全裸でいるのは良くない。

特に女性の裸なんて直視できない初心な俺の精神衛生上良くない。


 だけどここは草原のど真ん中。

大事な所だけでも隠そうにも、ここには細長くて丈の低い雑草しか生えてないっぽいから、それすらできない。


「こういう時はアレだ!」

「何ですか?アレって……」


 俺はそこでとある妙案を思い付いたが、どうやらフィニには分からなかったらしい。


「簡単だよ。責任者出てこい!」


 そう例の“声”を呼び出したらいい。

神様なんだし、人生をやり直すにしても、今どうなっているかの説明くらいはさせるべきだろう。

後、服も用意させよう……これ重要。


「……………」

「あの……何も起きませんね。」


 静かだった。


-なんだ?-

「うわっ!ビックリしたぁ……」


 まさかの時間差攻撃だ。

きっとこの神様は性格が悪いに違いない。


「あの、ケント?どうしました?」


 すると、そこにフィニが心底不思議な物を見る表情で声を掛けてくる。


 あれ?この自称『神』の声聞こえてない?


-自称ではない。我は本当に神だ……まあ良い。今は貴様だけに声を掛けておる-


 ふぅん。

で?


-我を呼んだのは貴様であろう?-


 そうだよ。

だから納得のいく説明を要求する。


-どうもこうもあるまい。我は貴様の様な駄目人間に人生をやり直す機会を与えてやったのだ。感謝しろ-


 分かった!

お前馬鹿なんだ!

や~い、バァカバァカ!


「あの……ケント?」


 そこでフィニが怪訝な表情で再度俺に声を掛けてくる。


「ああ、なんか例の“バカ”が俺だけに話しかけてるみたい。」

「え……と……アハハ。」


 だから俺は包み隠すことなく真実を答える。

俺のあまりにもの言い方に流石にフィニも苦笑いをするばかりだ。


-歯に衣着せぬ小僧だな、まったく……だが、そこまで真実を求めるならば仕方あるまい。教えてやろう。貴様ら二人は元の世界の神に嫌われた存在なのだ。嫌われた経緯は違うがな-


 え!?

俺って神様に嫌われたの!?


-うむ。生まれてくる前から嫌いだったそうだ。だからそんなにも駄目人間なのだな。ちなみに我も貴様の事は嫌いだぞ-


 うっさい……泣くぞ。


-貴様らの世界の神は貴様らを世界から手放したかったのだ。物の都合、我も自分の世界の事で悩みがあったのでな、解決のためにも貴様ら二人を引き受けることにした-


 悩みって?


-今は知らなくて良い-


 そうかい。

まあ何だかんだで俺がこの世界に来る破目になった経緯は分かった。

で、俺達はどうしたらいいんだよ?


-やれやれ……その場所から西に10キリほど進んだ場所に小さな村がある。そこで勝手に情報収集しろ-


 なんてぞんざいな神なんだ……

ところで、キリってどういう単位?


-1キリは貴様の世界で言う1、467キロメートルに相当するこの世界の距離の単位だ。分かったな?では我は行く。我も忙しいのでな。さらばだ-


 あ!消えやがった……


「待ちやがれ!」


 そう叫ぶが、“声”が応える事は無かった。


「ケント?」


 突然叫んだ俺にフィニがやや不安げに声を掛けてくる。


「ああ、何でも無いよ。それよりここから西に行ったところに村があるらしい。目的も分からないし、とりあえずそっちに行ってみようか?」


 『元の世界の神に嫌われた』というフレーズが嫌に引っかかったが、しかし俺はそれをフィニに告げることはせず、“声”が教えてくれた方向を指差しながらフィニにそう提案する。


「そうですね。そうしましょう。」


 フィニは何を疑問に思う事もせず、俺の言葉に柔らかく微笑んで同調してくれた。


「あ!服どうしよう!?」


 なんかだんだん自然になってきて忘れていたが、俺もフィニもまだ全裸なんだった……

なんで全裸なんだよぅ……肉体しか世界を転送できなかったってどうせ言うんだろ?神のくせに……

こんな可愛い子に全裸を見られるなんてトラウマだよ?よく考えたら自殺もんだよ……

まあ、代わりに可愛い女の子の裸が見れたから、それで帳消しだけどさ。


「あ、それなら大丈夫です。」

「大丈夫って?」

「≪私とケントに服を≫」

「へ?」


 瞬間、温かな光に包まれたと思ったら、気付けば俺の体は確かな布の感触に包まれていた。


 簡単なイラストの入った白地のTシャツに前を止めずにジャケットを羽織り、下はデニム生地のパンツという俺の私服だ。


「わぁ、それがケントの世界の服なんですね。」


 そう感心したような声を出すフィニも衣服に包まれていた。

なんだか服を着ちゃって残念な気もするけど、そこは考えない。


 フィニの格好は日本人の俺からすれば一風変わった格好に見えた。

黒っぽい色をした簡単なブラウスの様なものに袈裟掛けのスカーフをつけ、何かの獣の毛で編み込まれたであろうシンプルな柄のマントの様な外套を羽織り、セミタイトスカートを思わせる赤っぽいが落ち着いた色合いの下衣であった。


 よくフィニに似合っていて可愛らしかったが、今はそれどころじゃない。


「え?フィニ今……何した?」

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