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二十四章 “意地とプライド”

 ルヴィス帝国において爵位を得る、すなわち貴族になるにはいくつかの方法がある。


 一つは単純。

災害などが起こった際に人道支援に尽力することで爵位を得る事が出来る。

国家功労者に与えられるというわけだ。

最も単純であるが、これによって爵位を得ることは簡単ではない。

それこそカレイプス級以上の国家を揺るがすレベルの災害を個人の実力において防ぐ事が出来なければならないのだ。

国を救い、大衆に英雄として祭り上げられでもしない限りはこの方法で爵位を得る事は無い。引いては貴族となりえない。


 二つ目は大きな意味では一つ目と大差はない。

戦争などで武勲を上げる事。それによって貴族へ迎え入れられることもある。

これも大きな意味では国家功労者に与えられる地位となる。

最もリスクが高いが、ある意味最も容易く爵位を得る事の出来る方法である。


 そして三つめ。

現在の貴族のほとんどはこれによるものであるが、つまり親が高位の貴族であり、親が亡くなる時、またはその以前に家名を受け継ぐ事。つまりは世襲である。


 ウェルストン━ウェルストン=バダ=ユカール伯爵はその軽薄な性格からは想像もつかないが、二つ目の方法において伯爵の地位を勝ち取った人物である。


 そもそもユカール家は古来よりルヴィス皇室に仕える武家である。

その現当主であるユカール大公は過去の大戦において並ぶ者が無いとされるほどの数々の武勲を上げた人物であり、その息子である所のウェルストンにもその才能は惜しみなく受け継がれているとのことだ。


 つまりウェルストンは親の七光りではなく、自らの力によって自らを伯爵まで押し上げた類稀なる努力家でもあるのである……ただ、無類の女好きであり、また短気である、という性格に難有りというだけの話なのだ。


   「ウェルストンについて話を聞いた事を纏めるとこんな感じかな。」


 他国の民ということで事情には疎いであろう、という温情なのか、わざわざサレファーが説明してくれた。


 なんかやけに馴れ馴れしい。懐かれた?


   「そうなんですか?」


 フィニは心底意外といった表情で俺の顔を見る。


 武術とは心身ともに鍛えるもので、武芸に秀でる者は人格にも秀でている傾向にある。

それだけにウェルストンのあの軟派な性格は腑に落ちないのであろう。


   「それでも私はケントを馬鹿にしたあの男を許しません。」


 現在、俺達は広いアリーナに立っていた。

あれだ。騎士昇華訓練が行われていた場所である。


 現在、騎士昇華訓練は終了し、ベンチに座って休憩していたシュレンやらが「何事?」といった表情でこちらを見ているのが何だか可笑しい。

さらに続けて入って来た皇帝に労いの言葉を掛けられて恐縮していたのも笑える。


   「でもさ、俺はフィニが戦うなんてなぁ……」


 フィニがウェルストンに対して怒っていて、ウェルストンも頬を引っ叩かれた恨みをフィニに持っているのだから、そりゃ二人が戦えば決着も着くだろうさ。


 でも、女の子が、それもフィニみたいな可愛い子が男と戦うなんて、やっぱり日本男児としては捨て置けないよなぁ……


 的な事を皇帝に話したら、「ケント殿は女性は弱い者、男性は強い者と決めつけておるのか?か弱き女性には男性と戦う権利すら無いとでも?」とか言われちゃあ黙るしかない。

男女平等だ……悪い意味で、と呟いたら皇帝は「男女平等とは面白い言葉だな。」なんて言い返してきた。


   「ケントは……その……私の事を心配してくれているんですか?」


 フィニが何やら頬をほんのり染めながらそう俺に問うてきた。


 まあ、フィニに怪我して欲しくないという意味では確かにフィニの心配もしているけど、どちらかというとフィニと戦うウェルストンの方を心配している。

本気になったフィニに敵うはずがないのだ……ウェルストンがフィニの言霊以上に速く動けるならば別なのだが。


   「ああ。そうだな。怪我だけはしないでくれよ。」

   「はい。」


 フィニは良い笑顔で俺に頷くと、再度表情を真剣な物に変えてウェルストンへ向き直った。


   「ケントを馬鹿にした事、ケントに謝ってください!」

   「そのようなみすぼらしい男を庇うなんて、全く理解に苦しむよ。君こそ、私の高貴なる顔に傷を付けた事、地に額を付けて謝るのならば、特別に私の愛人として迎え入れても言い。九番目のね。」


 フィニとしてはそれは真摯な願いだったのだろうが、ウェルストンはそれを一蹴してしまう。

ウェルストンも冷静なように見えて、フィニに平手を喰らった事を根に持っているのだろう。頑として譲らない態度である。


   「ケント……」


 フィニが一度だけ悔しそうな表情でこちらを見る。


 しかし、もう俺もブチギレている……そう、ウェルストンはフィニを傷付けた。

フィニの手前、一応堪えてはいるが、俺も今にも飛び出してウェルストンに殴り掛りたい気分である。


 だから、俺はフィニに一度だけ軽く頷いて見せた。「ちょっと痛めつけてやれ」みたいな意思を込めて。

正しくその意思が伝わったかは分からないが、フィニの表情はどこか安心したようなものに代わる。


 フィニが再びウェルストンの方へ向き直った。


   「私が勝ったら、ケントに謝ってください。」

   「良いとも。私が勝った暁には、そうだな……私の膝元に傅いてもらおうかな。」


 その言葉を最後に両者の間で空気が変わる。

両者同時に口を開いた。

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