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十七章 “ルヴィス帝国第92代皇帝”

 『皇帝』……その言葉を聞いて何をイメージするだろうか。

王、貴族、支配者、etc……まあ、なんにせよ絶対的な権力を持つ、決して逆らってはいけない相手。

概ね、そのような意味の言葉として『皇帝』と言う言葉を捉えているのではないだろうか?

少なくとも、机にぐったりと突っ伏しているゲル状の何かではあるまい。


 通された場所はまさに執務室といった風体だった。書斎と言っても良い。

シュレンに着いて歩き、両開きの扉を超えた先は、隅々まで背の高い本棚に囲まれて中央には大きな木製の机置かれ、そして大量の書類に潰されそうになりながら机に突っ伏しているゲル状の何かだった。


   「陛下!?」


 扉をシュレンが軽くコンコンと叩き、それに対して「入れ」という返事が聞こえたので入った。その瞬間に目に飛び込んできた光景に、シュレンが慌てたような声を出す。


   「おー……?」


 そのドロドロした何かは間延びした間抜けな声を出した。

どうやら、人らしい。スライムみたいだけど。


   「また液化したんですか!?」

   「うーむ……こうしておると、気持良い……」


 良く分からないが、皇帝とやらは『液化』とやらをして体をゲル状にしている……のだろうか?


   「陛下!」

   「あー分かった分かった……」


 そのスライムは気だるそうにシュレンに一度答えた。


   「仕方ない。」


 そう一度呟くと、そのスライムは急にうねうねと動き出して人を象り始め、やがて一個の人体を作り上げた……裸の。


 若々しく、どことなく幼さは残るが精悍な顔立ちに、ビシッと引き締まった体躯をしている。

シルバーブロンドの髪はオールバックに後ろへ流され、前髪が何本かずつの束になって上方へ跳ねている。


   「……」

   「……」


 無言の俺とフィニ。

個人的に言えばフィニには「キャー!」とか、少しは乙女っぽい反応をして欲しかった所だが、思えば真っ先に俺とフィニって全裸で向き合ってるんだよね……その時もフィニって……


   「ふむ。反応が芳しくないようだが?」


 元スライム男が声を発す。低くて渋いダンディーな声だ。


   「えーと?もしかして……」


 流石に戸惑ったが、このまま声を発さないと失礼になるかと思い、ゆっくりと言葉を絞り出した。


   「察しの通り、我がルヴィス帝国第92代皇帝ウルティール=ダガ=ルヴィス様です。」


 全裸で胸を張り、シュレンに紹介を受ける皇帝……とりあえず、シュレンの話を聞いて俺の中に出来上がりかけていた『立派な皇帝』像は木っ端微塵に砕け散った。


   「ふむ。つまらんな。仕方ない。」


 そう言うと皇帝は掌をパンパンと二度鳴らした。

すると、どこからともなくメイドさんらしき女性が現れ、一瞬でカーテンの様な物で皇帝の体を覆い隠す。

すぐにその幕は取り払われ、そこには豪奢な格好をした、まさに若い皇帝然とした人物が立っていた。

メイドさんは即座にどこかへ消えた。


   「おや?誰かと思えばわざわざ無償でカレイプスの討伐に出向いたシュレン君ではないか。」


 無償ね。

そういえば、もともとあの村は見捨てられる予定だったのをシュレンが無理強いしてカレイプス討伐に乗り出したって言ってたな。

ってことは、あの村を見捨てた諸悪の根源はこの皇帝……


 まずいな……どれだけ考えても、シュレンの言う『国民の平和を第一に考えてくださる立派な方』をイメージできないんだが……


   「はい。シュレン=クル=ルグタンス、ただいま帰還いたしました。」


 シュレンは敬礼して皇帝に応えた。


   「あーそうか……では、そちらの二人が報告にあった勇者とその恋人か?」


 サラッと恋人とか言うんじゃねー!

こちとら華も恥じらう健全な男子生徒じゃ!って、あれ?なんか違う?

まあそれは良い。

ほら!またフィニが顔を真っ赤にしちゃったじゃないか!


   「はい。」


 シュレン、テメーコラ!肯定してんじゃねーよ!!

肯定されて俺は内心超嬉しいけど、それは別の話……

フィニを傷付けたりしたら、いくら皇帝でも殴り飛ばすからな!


   「そうか。じゃあ仕方ない。とりあえず、そちらへ掛けたまえ。」


 またも皇帝は掌を鳴らす。

すると、先程のメイドがチンツ張りの豪奢な椅子を三脚アッと言う間に並べてくれた。そして、またしてもあっと言う間に消えてしまう。


 俺の動体視力でも捉えられないなんて……あのメイド……何者!?

と、凄腕ぶってみる俺……無様。


   「では、まずは細かい報告から訊こうかなシュレン君。」


 椅子に座った俺達を見て一度頷いた皇帝は、まずシュレンに気だるそうにそう声を掛けた。


   「はい。我々帝国騎士団シュレン隊は三日前、ランクルート草原を南に280キリ先にある村を襲うカレイプスを討伐するため、帝都を出発しました。到着した時には、既にカレイプスはこちらのケント、フィニの両名により討伐された後でした。我々帝国騎士団の到着は間に合わず、彼らがいなければ村への被害は甚大であったと思われます。その功績を讃え、また異国の旅人である彼らを歓迎すべく、こうしてお連れしました次第です。」


 異国の旅人ねぇ……一応シュレンは信用できると思って俺達が世界から来たという事を話したけれど、だからって皇帝が信用できるとは思わない。


 だから俺はシュレンに頼んで、俺達の事情は出来るだけ伏せて貰うよう頼んでおいた。


   「ふむ。先の伝令の内要とほぼ同一だな。それで?報告はそれで全てか?」

   「はい。」

   「そうか。仕方ないな。」


 どうやらこの皇帝は『仕方ない』が口癖らしい。どうにも皇帝として信用できないなぁ……


   「とりあえず、勇者君との決闘騒ぎは不問にしてやろう。」

   「……」


 あ、シュレン固まった。ピキッて感じで固まった。

良い気味だって思ってしまうのは俺の性格が悪いからではないと信じたい。


   「いえ!」


 あ、シュレン復活した。


   「その騒ぎは自分の未熟さが生んだ物!喜んで罰を受ける所存です!!」


 いや、確かにシュレンが短気だったせいもあると思うけど、挑発したのは俺だし、全然シュレンは悪くないよね……

と、そうシュレンをフォローしようとしたが、それはシュレンのこちらに向けられた視線によって遮られた。


   「分かった。だが、それは後回しにしよう。こちらの案件の方が重要そうだ。」


 そうして、皇帝が今度は俺とフィニの方を向く。

その眼光は予想外に鋭く、気だるそうにゲル状化していた人物と同一だとは思えなかった。


   「私の方からも言いたい事はあるが、その前に君達の方が私に言いたい事がありそうだ。まずはそれを聞こう。」


 そして、そんな事を宣た。


   「では、一つだけ教えていただきたいことがあります。」


 俺の隣でフィニが明らかに怒りを孕んだ声音で皇帝に言葉をぶつける。


   「あの村はなぜ見捨てられたんですか?」


 フィニのその声音は怒りどころか、その勢いは敵意と言っても過言ではない。

村を助ける事の出来る力を持ちながら、なぜ村を見捨てなければいけなかったのか……どうしても問いただしたかったのだろう。

だからその怒りは、そのままフィニの優しさなんだ……


 どうでも良いけど(良くもないけど)さ、この後で断頭台行きとかになりませんよね?

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