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十六章 “ランクルート城”

 皇帝への報告には隊長であるシュレンと副隊長であるウルナのみでいくらしく、他の隊員を乗せた場所は途中でどこかの道に折れたのか、気付いたらいなくなっていた。


「皇帝ってどんな人だろう……なんかちょっとでも口応えしたら、それだけで首が飛ぶような、怖い人じゃないと良いなぁ……」

「心配せずとも、まず国民の平和を第一に考えてくださる立派な方だ。」


 俺の不安にシュレンがフォローするように言葉を返してくる。


 でも“帝国”だぜ?

俺の中で帝国って言ったら、もう侵略戦争の嵐みたいなイメージしかないんだけど。


「私の生まれるよりも前であるが、前皇帝の代は確かに隣国との戦争は絶えなかったと聞く。その時には多くの国民が命を落とした。現皇帝はその先代の失敗を生かし、武力を用いない外交によって国力を維持しているのだ。」


 ふ~ん。

つまり、帝国騎士団とやらは自衛隊みたいなもんだという解釈で良いわけね。


「でも、攻め込まれたりもするでしょう?」


 フィニがどこか不安そうにそう尋ねる。


「勿論。その際に武力の行使はやむを得ない。私も前線で戦った事だって一度や二度ではない。だから、せめて戦争で死ぬのは自らの誇りを胸に戦える者だけにしようと言う皇帝陛下の計らいによって、帝国騎士団は成り立っているんだ。」


 そのシュレンの言葉には、皇帝への敬愛と騎士としての誇りが見て取れた……そんな誇りがあるなら、丸腰の俺相手に剣を抜くのはやめて欲しかった……

基本馬鹿なんだね、悲しい事に。


「さて、ここからは歩く。付いて来てくれ。」


 街の中に聳え立つ城を取り囲むように立派な城壁が敷かれ、そこには象だって余裕で通れるアーチ状の入口がある。

そこを馬車で潜って少し行ったところで、シュレンが馬車から降りるよう促した。


 馬車はウルナが引っ張って隅にある馬車小屋の方へ向かわせた。

そこには筋骨隆々の体躯をした大柄な男が待機していて、男はウルナから馬車を引き継いだ後、小屋の中へ消えた。


 ウルナは何か用事があるのか、こちらを一瞥したが、シュレンは全てを察しているようで軽く手を振ってウルナに合図する。

ウルナは一度だけ頭を下げるとどこかへ去って行った。


 俺とフィニはシュレンについて暫く歩き、やがて立派な門構えの城門に辿り着いた。

大型トラックが突っ込んでもビクともしなさそうなほどに荘厳に構えられた城の入り口としては、まさしく申し分のない拵えだ。


「帝国騎士団シュレン隊隊長のシュレン=クル=ルグタンス。ただ今、カレイプス討伐の任より帰還した。報告のため、皇帝陛下へお目通り願いたい。」

「はい、聞いております。どうぞお入りください。皇帝の間は……」

「真っ直ぐ行った所にある両開きの扉だろう?」

「はい。」


 シュレンが門番とそうやり取りを交わす。


 そのやり取りの後、門番はランクルートの入り口の門と同様とに手に持った槍で地面をカツリと叩いた。

それだけで、重そうな鉄扉の門がガガガガと音を立てて開いて行く。


「では、行こう。」


 シュレンに付いて俺とフィニは城の中へ入った。


 城門は二重構造になっていたようで、一つ目の扉の後、小部屋で区切られた先にもう一つ扉がある。

そこが開いた先にある景色・・はまさしく絶景と表現して差し支えない。


 広大なホールの床は大理石の敷き詰められ、ピカピカに磨かれて顔が映りそうで、人が歩く部分には真紅のカーペットが敷かれ、土足で踏み込むのを躊躇わせるほど。

日本人たる俺なんて思わず靴を脱ごうとしてしまった程だ……

ってか俺が履いてるのって泥とか付きまくってるボロ靴じゃん……申し訳ない。


 天井は高いし、天窓まで付いてるし……『もうここはどこの異世界ですか?……ああ、異世界でしたね』状態である。


「おやぁ?これは不出来な騎士様がいらっしゃる。」


 城の内景に見蕩れていたら、シュレンが横から声を掛けられていた。


「三日ほど前にカレイプスの討伐に出向いたと聞いたのに、こんなにも早く、それも無傷で帰って来ているとは、途中で憶して引き返して来たのではないのかな?そうだろう?シュレン殿。」


 シュレンに声を掛けたのは中年くらいの年であろう男。

丸顔で人の良いにこやかな笑顔を浮かべてはいるが、その実、顔中傷だらけで、歴戦の戦士を思わせる。

シュレンに似た鎧甲冑に身を包んでいるが、シュレンが青系の装飾であるのに対し、男の鎧は赤を基色とした装飾がなされている。


「おお、ナーグ殿ではないですか。お久しぶりです。お変わりないようで。」


 シュレンはその男、ナーグの言葉は無視した。

それに対してナーグが気分を悪くした様子は無いから、これは二人の間の挨拶みたいなもんなんだろうと推測する。


   「カッハッハ!変わるものか!そちらこそ、冴え渡る魔術の腕は幾分もサビ付いておらぬと見える。まさかカレイプスを一日と経たずに倒してしまうとは!」


 ナーグはシュレンの肩をガシガシと叩きながら称賛する。


 なるほど、何となく二人の関係を把握。

恐らく、先輩後輩関係。


「いえ、私が辿り着いた時には、既にカレイプスは倒されておりました。そちらにいるケントの手によって。」


 ナーグの目がこちらを向く。

何となく、俺は姿勢を正した。


 すいません、倒したの俺じゃないっす……フィニです……


「ほう。では、お主、ケント殿が伝令の中にあった勇者というわけか。」


 まじまじと俺の顔を眺める。


「はぁ……勇者とかは良く分かりませんけど、とりあえず俺がカレイプスを倒しました。」


 実際に倒したのはフィニだと言ってしまっても良かったが、彼らが言霊なんて使えるフィニを化物だと罵り、傷付けないとも限らない。

だから、とりあえずは俺の手柄と言う事にしておく。先にこっそり話した際、フィニもその方針に賛成してくれた。


「ふむ。良い顔付をしている。」


 嘘だ。

俺みたいな駄目人間が、こんな百戦錬磨っぽい人から見て凛々しい顔をしている筈が無い。

お世辞なんか言ったって騙されないぜ。


「度胸もありそうだ。」


 むしろ小心者ですよ。


「それに、何と言っても、奥深い澄んだ眼をしている。」


 奥が見えないくらい濁ってると思いますけどね。


 意外と人を見る目が無いナーグさん。


「なるほど、勇者か……私の名はナーグ=レイ=フォトスという。以後よろしく。」


 そう言ってナーグは右手を差し出した。

握手のサインだろう。


「どうも。ケントです。」


 そう言い返しながら、俺はナーグの右手を握り返した。


「ふむ。よろしく。して、そちらのお嬢さんは?」


 手を離した後、ナーグの視線はフィニの方へ向いた。


「フィニと申します。ケントの旅に付き添わさせていただいております。」


 フィニはナーグが何か言う前に自分から澄ました声音で名乗った。


 それにしても、いつからフィニは俺の付き添いになったのだろう……


「なるほど。夫婦で旅路とは、なかなか粋な事をしなさる。」

「ブフッ!?」


 ありえないナーグの一言に思わず俺が噴き出した。笑ったんじゃなくて、驚いて、ね。


「え?え?」


 フィニは一気に顔を赤くして動揺する。

さっきまでの澄ました可憐な女性の態度はどこへ行ったのか……


「何々、照れる事は無い。素敵な事じゃあないか。」


 その後、ナーグはフィニと握手を交わして、「ハッハッハ!」と豪快に笑いながら去って行った。

反論をする間も無く……


「あの……ケント……」


 未だ顔の赤いフィニがぼそぼそと呟くように話しかけてくる。


 分かってるって。俺みたいなのと恋仲どころか夫婦なんて言われたら、俺が勘違いしてしまわないよう釘を刺しておきたくなるというものだろう。

「勘違いしないでよねっ!別にケントの事なんかなんとも思ってないんだから!」って……良いねえフィニのツンデレ化。っていうか、可愛い子はどんなキャラでも可愛いよ。


「ハハ。夫婦だってさ。そんな風に見えるんかな?」

「えっと……どうでしょう?」


 フィニの控えめな返事。


「俺なんかとそんな風に思われるのは心外だろ?以後、ちょっとだけ気をつけるかな。」

「あ、いえ、そんなことは、決して……」


 優しいフィニは俺を傷付けないようにそんな風に言うけれど、でもだからって俺と夫婦なんてあまりにフィニに失礼と言うものだ。


 俺はフィニに軽く手を振って応えると、空気を読まずに「では、皇帝のいる場所へ案内しよう。」なんて言うシュレンに後に着いてすたこらと歩き始めた。


「もう!」


 後ろでいじけた様に憤慨するフィニの可愛らしい声が聞こえた。

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