一章 “始まりは現状認識から”
視界が開けた。
朦朧とした俺の脳髄はまだ活動することを拒んでいるが、しかしそんな呑気な事を言っていられる状況ではない事だけは分かった。
何が起こったのか、ちょっと冷静に考えてみようと思う。
まずは現状認識から始めよう。
俺
名前:來生賢人……これは良い、問題ない
年齢:18歳……未成年万歳!イエーイ
体力:15/15……少ない
魔力:0/0……なんじゃそりゃ?
生まれ:一般庶民……父は普通のサラリーマンに母は専業主婦
装備:頭 黒髪ボッサボサ
胴 肌色の防具
腕 肌色のガントレット
足 肌色のレギンス ……つまり全裸。そう今をときめく流行の最先端ZE・N・RA!
良し、自分についての認識完了。
どこへ出しても全く問題のない変態っぷりだ。
さて次。
周りの状況
ステージ:果てしなき草原……ここどこ?
足元:シュゥゥって草が若干燃えてる……火事の後?
周囲:オオカミに似てるけどよく分からない生物が三匹ほど……怖っ!
目の前:女の子(全裸)……めっちゃ可愛い
以上、現状認識終了。
どういうことですかこれは!?
いやいや落ち着け。
とりあえず大切な事から始めよう。
俺の真正面にいる女の子
名前:不明……だって初対面だし、一言もまだ交わしてないし
年齢:同い年くらい?
肌:ガラス細工のようにきめ細かく、透き通るように美しい……触ったらスベスベしそう
容姿:破壊的に可愛い……特記事項無し
髪の毛:紅色でストレートのセミロング……ファンタジック
スタイル:谷間の見える豊満なバストにキュッと締ったウエスト、そして括れを強調するようにお尻のラインは女性らしい丸みを帯びている……素晴らしきボン!・キュッ!・ボン!の体型。参考までに我が母のスリーサイズは上からB100・W100・H100という素晴らしきボン!・ボン!・ボン!である
ヤバい。
俺、この子のためなら死ねる。
「グルル……」
なんか唸ってる!
周りのオオカミみたいなの、めっちゃ唸ってる!?
女の子の事観察してる場合じゃなかった!!
「あの……」
そこで初めて女の子が口を開いた。
ちょっと高めの可愛らしい声だ。
どうしたんだろう?
オオカミみたいなのをどうにかする方法でも教えてくれるんだろうか?
「いくら私でも……その……殿方に素肌をマジマジと見られては……照れます///」
わ~い、周りのオオカミもどき完全無視だー
頬を上気させてるの可愛いけど、それどころじゃない。
今にも襲いかかってきそうなオオカミみたいなのを何とかしないと、俺はこんな意味の分からない状況で最後の時を迎えることになってしまう。
可愛い女の子に看取られて死ぬのなら良いかなーとも思うけど、その可愛い女の子も死んじゃうかも知れないとなれば話は別だ。
まずは生きなければ。
「グルル……ガウッ!」
吠えた!?
オオカミみたいなの吠えた!?
痺れを切らしましたか?腹減りましたか?
俺と女の子はどちらが美味しそうに見えますか?
女の子に決まってるよね?
だって三匹とも女の子の方に襲いかかる気満々っぽいもん!
助かる?俺、助かる!?
「そんなの駄目だ!」
俺、猛る。
俺の人生、俺が死のうが生きようが、俺の目の前で女の子が傷つくことだけは断固として許さない!
「あっ!」
俺は女の子の前に躍り出て、女の子を庇うように両手を広げる。
しかし、勢いを殺せないまま三匹のオオカミみたいなのにタックルを食らい、地面に押し倒されてしまう。
そしてオオカミみたいなのは「まあ男でも良いか」と俺の肉を噛み千切るために口を開けた。
ああ……俺の人生終わっ……て堪るかぁぁあああ!!!!!
「とりゃっ!!」
奇声を上げながら、俺のあんなところに噛みつこうとしていたオオカミみたいなのを膝で蹴り上げ、同時に俺の胴体の上に乗っているオオカミみたいなのを右腕の肘でど突きながら俺は体を起こす。
もう一匹は俺の頭に噛みつこうとしていたので顎に頭突きをくれてやる。
たったそれだけでオオカミみたいなのはキャンキャン言いながら逃げ去って行った。
フン、お前らの動きなんぞ止まって見えるのさ。
「怪我はありませんか?お嬢さん。」
そこでビシッと格好つけるのだけは忘れない俺(全裸)。
「はい、ありがとうございます。」
と、先程までは何も危険を感じていなかった様な口ぶりだったくせに律儀に礼を言ってくれる可愛い女の子(全裸)。
待て待て待てぇ!!
もう一回状況を考えるぞ!?
今の状況
ステージ:果てしない草原……やっぱりここどこよ?
人影:俺達以外には見当たらない……つまり二人っきり
男:全裸……俺
女:全裸……可愛い
どうしてこうなった!?
まずはここに至るまでの経緯から考えよう。
女の子に欲情するのはそれからだ……うん。