~真夏のマッチョ怪談~
24時間営業のプラチナジムでトレーナーをしている主人公、今日も筋トレに汗を流していると、不穏な幻が現れる・・・・
俺の名前は背筋 猛。
24時間営業のプラチナジムでトレーナーをしている。
ジムにはトレーナー以外にも、受付、事務、ダンスやフィットネス教室の機材準備など色々な仕事があり、みんなでローテーションを組んで回している。
この日は昼から小学生の水泳教室があったので、夕方まで子どもたちがひっきりなしに来て目が離せない、安全第一だ。
そのあと夜の会員向けトレーニングにも参加し、一通り仕事を終えた頃には、すでに「深夜1時」をまわっていた、だがまだ一日は終わらない「さて……っと」、ストレッチで体をほぐし日課のトレーニングを始める。
マシンを使ったメニューを済ませ、壁一面の鏡の前でスクワットに取りかかった。汗を流しながら何度も立ち上がりしゃがみこむ、誰もないジム内に妙な「静寂」と自分の呼吸音だけが辺りに響いていた。
しばらく続けていると、ふと鏡の中の自分が、自分じゃなくなった..........いや?体の動きは同じだ、なのに顔がこちらをじっと見ながら、薄気味の悪い笑みを浮かべている。
たける:何だコイツはっ?!
それだけではない、「筋肉の量が明らかに違う」のだ、向こうの方が、圧倒的にデカいっっ!
「……っ!!!!!」
恐怖と肉圧におどろき、俺は思わず後ろに倒れこんだ。
慌てて鏡を見ると、そこには冷や汗をかいて倒れ込む自分の姿が映っているだけだった................
家に帰ってから、トレーニングメニュー、食事、睡眠、サプリ、健康管理……すべてを徹底的に見直した。
鏡に映っていたあいつは、確かに笑っていた、俺の筋肉を見て笑っていたのだ。
「 何だその貧弱な一般ジム筋肉は.....俺のゴリマッチョな肉体を見ろっ!!! 」目でそう訴えていた気がする............
仕事場で筋肉マッチョな怪異に脅かされている場合じゃない。
ジムのトレーナーとして、筋肉の借りは筋肉で返すしかないのだ。
闘志を新たに、激しい筋トレが始まった、一日13時間のハードトレーニング、もちろん仕事は続けながらだ、密度を上げて時間を短縮するしかない――
4か月後。仕事がまた深夜まで及んだ。
一通り片付けてから、いつものようにトレーニングに入る。
一人だけのジム、静寂と不穏な空気、そして、ヤツが現れた..........鏡に映った自分の顔が、ニヤついた表情でこちらを見ている。
だが今度は驚かなかった、そのままトレーニングを続ける。
フォームをチェックしながら激しいスクワットで、足の筋肉を容赦なく攻め上げる。
いつの間にかトレーニングに没頭し、鏡の中の怪異のことなど頭から消えていた。
今はただ、「大腿四頭筋」の声に耳を傾ける至高の時間なのだ。
濃密でハードなトレーニングを続けるうちに、鏡の中の俺の顔が「苦痛に歪み始め」だんだんと青ざめていく、俺は息を整えながら、鏡に向かって言った。
「オーバートレーニングは危険なだけです、今日はここまでにしましょうっ!」
そう言って鏡に向かって「サイドチェスト」をキメた瞬間――――――
「バリンッ!」
と鏡が砕け散り、怪異は幻のように跡形もなく消えていった。
「やはり筋肉……筋肉はすべてを解決するっ!!!」のだ
ダメ押しに「フロントダブルバイセップス」を全方位に見せつけておいた。
これで当分、マッチョな怪異は現れないだろう。
――
後になって思うと、あれは自分の筋肉に対する「驕り」や「うぬぼれ」みたいな物だったのかもしれない。
日々の仕事に追われ....鍛えるべき筋肉たちを十分に鍛えられていなかった自分への、戒めだったのだろう。
みなさんも気を付けて下さい....ヤツが.....次に現れるのは、あなたの通うプラチナジムかもしれない..........。
終わり。




