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孤高の怪物  作者:
8/12

敗北と再起


 地下に設営された急造の研究室。天野は、熱を持った試作型ショットガンの銃身を、指でなぞっていた。

 モニターに表示されているのは、先ほどの戦闘データだ。AIは依然として無機質なログを吐き出し続けている。

『シミュレーション結果:命中。貫通率:0.00%。硬度不足。再計算を行います。』

「……嘘よ。計算上は、あいつの皮膚と同等の硬度を叩き出したはずなのに」

 天野は、血走った目でキーボードを叩いた。だが、自身で何度計算しても答えは変わらない。既存の資源、理論上の最高硬度。それらを組み合わせても、藤代カイという「物理現象」には届かない。

「私の知能が足りないの? それとも、AIが何かを隠しているの……?」

 彼女はモニターを叩き割りたい衝動を抑え、ふと作業台の隅に目をやった。そこには、事故現場の廃棄物から採取し、AIが「不純物」として除外したサンプルが、雑然と置かれたままになっていた。

 彼女はふと思い立ち、そのサンプル――土砂と混ざり、黒ずんだ血がこびりついた破片を、手動でスキャナーに放り込んだ。

「……AIの精度が足りないなら、私の手で覚えさせるしかない。情報のインプットが不十分なら、私がこの世界のすべてを、あいつの欠片ピースを、一から解析してやるわ」

 彼女はAIの「自動配合計算モード」を切り、完全な手動配合計算へと切り替えた。天野は、まるで執念深い錬金術師のように、一滴の薬品、一握の土を、自らの感覚を頼りに組み合わせていく。

 

「逃げない、藤代。あなたが人間を踏み潰されるだけの脆いアリだと呼ぶなら、私はそのアリの執念で、あなたの神話を終わらせてあげる」



 一方、月明かりがさすアトリエ。

藤代カイは、闇の中で自らの胸を強く押さえていた。

 傷一つない。出血もない。だが、天野に撃たれたあの場所から、正体不明の「熱」が、波紋のように全身へ広がっていく。

「……なんなんだ、これは。不快だ。狂いそうだ」

 彼は荒い息をつきながら、手当たり次第に周囲の瓦礫を殴りつけた。厚いコンクリートが粉々に砕ける。だが、その衝撃が伝わるたびに、胸の「疼き」は激しさを増した。

 

 彼は生まれて初めて、自らの肉体に「恐怖」を感じていた。

「俺の胸の中に、何かを置いていったのか……あの女は」

 彼は闇の中で、かつて自分が描いたスケッチを手に取った。自分が自分の腕を切り刻んでいた頃の、無痛ゆえに描けた、空虚な痛みの絵。

 今、その絵に描かれた「情景と人々が感じる痛みと思われる何か」が、皮肉にも自分の内側から、形を持って迫り上がってくるのを感じる。

「認めない……。俺は無敵だ。俺は、痛みなんて知らない。」

 カイは、自らの神経を逆撫でする「疼き」をかき消すように、夜の街へと咆哮を上げた。

 だがその叫びは、以前のような王者の威厳を失い、どこか何かに怯える「子供」のような響きを帯び始めていた。

 

 女はAIを超えようとし、男は初めて「人間」の感覚に侵食され始める。

 二人の運命の歯車が、いよいよ噛み合い始めた。

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