罪と罪
藤代カイは、破壊し尽くした大通りの真ん中で、返り血を浴びた自らの拳を見つめていた。周囲には、逃げ遅れた者たちの「無残な作品」が、彼の手によって絶望的な形に並べられている。
「……まだだ。まだ、この街のノイズは消えきっていない。」
その時、重厚な軍靴の音がアスファルトを叩いた。
闇の中から現れたのは、国家が招集した戦闘のスペシャリストたち。全身を最新の防弾装備で固め、特殊な重火器を構えたプロの集団だ。
「目標を確認。これより排除を開始する。」
無感情な号令と共に、一斉射撃が始まった。大口径のライフル弾、徹甲弾、さらには小型のミサイルまでもがカイの肉体に叩き込まれる。凄まじい衝撃波が空気を震わせ、火花が彼の肌の上で踊る。
だが、カイは歩みを止めない。
「……無駄だと言っているだろう。アリが束になっても、俺を傷つけることはできない。」
カイが地を蹴り、一瞬で距離を詰める。鋼鉄の拳が特殊部隊の盾を紙細工のように引き裂き、スペシャリストたちが次々と血飛沫を上げて吹き飛んでいく。最強の戦士たちが、ただの「肉の塊」として処理されていく地獄絵図。
その蹂躙の最中、最後の一人が倒れた背後から、彼女が現れた。天野である。
泥と油に汚れ、その細い腕には、無骨で継ぎ接ぎだらけの試作型ショットガンを抱えている。
「……誰だお前。このアリどもの飼い主か?」
「いいえ。私はただ、自分の犯した間違いを、物理的に修正しに来ただけよ。私は天野。覚えても無駄だけどね。」
天野は迷いなく銃口を向け、引き金を引いた。
AIが算出した、地球上の既存資源による最高硬度の配合。ダイヤモンドをも凌駕する密度の弾丸が、轟音と共に放たれた。
――ドォォォォン!!
至近距離での直撃。凄まじい反動に天野の肩が悲鳴を上げる。
弾丸は正確にカイの胸部に着弾した。
「…………ッ!?」
カイの体が、初めて数歩、後退った。
傷はない。皮膚は依然として未知の硬度を保ち、弾丸はひしゃげて足元に転がっている。
だが、カイは顔をしかめた。
胸の奥、心臓のすぐ近くで、今まで一度も感じたことのない「疼き」が走ったのだ。
「(なんなんだ……これは。不快な感覚だ。なぜ、俺の意識がここに集中してしまうんだ?)」
彼はそれが「痛み」だとは分からなかった。生まれつき知らない感覚だったからだ。だが、内側から神経を逆撫でされるような、底知れぬ不快感に、彼の全能感が初めて揺らぐ。
「……期待外れだな。そんな玩具で、俺が殺せると思ったのか?」
カイは余裕を装い、冷たく言い放つ。だが、その呼吸はわずかに乱れていた。彼はこの「正体不明の違和感」から逃れるように、闇の中へと悠然と、だが足早に消えていった。
後に残された天野は、膝から崩れ落ちた。
「……効かなかった。私の計算は……間違っていたの?」
彼女の目には、無傷で立ち去る怪物の背中しか映っていなかった。
ショットガンの弾丸の材料に、事故現場の廃棄物に含まれていた「彼の血」が、偶然にも、わずかに付着していた。AIが「不純物」として無視したその成分が、彼の神経に初めて触れたことに、彼女はまだ気づいていなかった。




