八、役人と師匠
智宏が取り出した札は見覚えがあった。
「これは、うちの旭から拝借した霊符と護符です」
「ということは……」
「旭からはすべて陽葵さんがお作りになった札と聞いてます」
終わった。
また、ニコニコと浮かべている笑みがわざとらしくて、陽葵をどん底に落とした。
「そして、旭以外にもあなたの書いた札が回り始めているが、どうも様子がおかしいので、ここに来たわけですね」
「様子が、おかしいのですか…霊力の相性とか…」
「そういう問題ではなさそうなので」
お茶目が爆発してる。
このにこにこを素直に受け取れない。
「あなたの霊符・護符に含まれる霊力は多くはないです。ただ、一つ決定的に異なる事象が我々陰陽師におきている」
「…と言いますと?」
「霊力の回復。これを使ったあとの陰陽師たちは、霊力の回復速度が速いようです。旭については、霊力の相性もあり、霊力の節約も二重にかかってましたね」
「なぁとも。これは陽葵の能力なんだろうか?」
師匠がカウンターに肘をつきながら、単純な疑問を智宏になげる。
「とも」はこの役人を示すのだと、数秒遅れて気付いた。
ただの役人と道具屋ではない間柄なのだろう、智宏はわざとらしく大きく息を吐いた。
「それを判断するのが道具屋でしょうが。ほかの人にもこの能力は使えるのかどうか。こちらとしてはその判断がつくまでは旭以外に陽葵さんの札を使わせるわけにはいかないですね」
「おいおい旭はいいのかよ」
「相性のよい霊力を見付けてしまっては、彼はほかの札を使えないでしょう?それはあなたがたの方がよく知っているはずです」
「はぁ、わかった」
「では陽葵くん、また」
持っていた札を師匠に渡すと、からになった手をひらひらと振って智宏は店を後にする。
店先で何か印を結んですぐに姿を消した。
「全く、お役人がよぉ」
といいつつ、師匠の口角はあがっている。
手には智宏から渡された札。
「陽葵。これまで通りの仕事でいい。わかっているだろうが、あれを知られたなら、旭に今以上の仕事を依頼するだろうから」
「わかりました、でも…」
「?」
陽葵は喉の奥からぶわぁと血が戻ってくるのを感じた。
目の奥が熱くなる。
「私の札が迷惑じゃなくてよかったですぅうう」
第一線で命をかけて戦う陰陽師の邪魔をしていたらどうしようと怖かった。
どれだけ心を込めても、霊力を込めても、実際はどうなっているかわからないからだ。
自分の知らないところで足を引っ張っていたら、もうここを出ていく覚悟だった。
「オレは信じてたぞ、ちび」
ばん、と背中を暖かな手がたたく。
「オレがついてる」
「はい、師匠!」
こぼれそうな涙を拭って、作業場に入る。
霊符や護符以外にも必要な道具はある。
ほかにもできることがある。
そんな道具屋が、陽葵は好きだ。




