七、陰陽省の役人
「おう!ちびおはよう」
「おはようございますー」
「ちょいちょい」
寝泊まりしている二階から降りてくると、兄弟子たちに声をかけられる。
「店先に行ったほうがいい」
「ええぇえ」
「陰陽省のえらいさんが来てる、今師匠が対応してるが、ちびの名前が聞こえる」
どきり、と反射的に心臓がはねる。
陰陽省は陰陽師やその周辺を束ねる国の機関。
もちろんこの道具屋もその管轄下にある。
旭に渡していただけの霊符や護符が、ほかの人も使うようになって、不具合がおきたのだろうか。
旭と相性がよかっただけで、ほかの人とは相性が悪かった、とか?
眠気が吹き飛んだ。
「ああ、陽葵。おはよう」
「あの、わたし、何か…」
カウンターに向かうと、焦っている陽葵とは対称的に、ニコニコと笑顔を浮かべる師匠。
カウンターを挟んで立つ、きっちりと袴を着た男性も、柔和な笑みを浮かべていた。
「君が陽葵くんか」
「えっと」
袴を着こなす男が、例の陰陽省の役人だろう。
カウンター越しに手を差し出してくる。
「陰陽省の安倍智宏です」
怒りとか、そういう悪い感情はなさそうだ。
おずおずと陽葵は右手で握手に応じる。
だが、ぎゅっと握られたあと、離してくれない。
「あの……?」
「ふむふむ」
戸惑って智宏を見上げても、先ほどからの笑みは変わらない。
「ああ、失礼」
ひとしきりうなずいたあと、手を解放してくれる。
いやな感じも、変な感じもない。
でも、何かされた。
「確かに、そんなに多くはない…」
「な、何を……」
「だから言ったろ」
師匠ははぁと息を吐く。
まるでわかっていたような口調だ。
陽葵は師匠と智宏を交互に見る。
「安心しろ。こいつはその人と握手して、霊力を量るやつだ」
「はかる……」
「その人の持つ霊力が多いのか、少ないのか。多いと陰陽師向きになるから、引き抜きにね」
智宏はそう言って軽いウインクを飛ばす。
年齢は師匠と同じぐらいだというのに、なんともお茶目なようだ。
「だが、君の師匠の目が正しかったようだ。そんなに霊力としては多くないね」
「そうだろう」
「だとしたら、話が合わない」
智宏は懐から二枚の札を取りだした。




