五、陽葵のファン
「寝れなかった……」
昨夜、旭の後に客はこなかった。
返品や苦情がなかったということは自分の札は効果があったのだ、と言い聞かせるも、不安は残っていた。
「おはようございますー」
作業場におりると、兄弟子たちが準備を始めていた。
その中に師匠の姿は見当たらない。
「あれ、師匠は…?」
「師匠なら店先だよ、旭が来てる」
「旭さん⁈」
旭というと、昨日の人。
一気に目が覚めて、陽葵は店先のカウンターに飛び込んだ。
「師匠!」
「おう、陽葵いいところに」
カウンターの向こうには旭。
仕事明けの朝なのに、ニコニコと笑顔だ。
「あ、旭さん……」
「おはようございます、陽葵さん!いや、陽葵様というところかな!」
「さ、ま?いや、あの…その…私の札は大丈夫だったということでしょうか…」
「大丈夫どころか!」
旭はずいっと陽葵に近づいた。
「最高でしたよ!あんな札は使ったことがない!私はあなたのファンになりました!」
「ふぁ、ファンだなんて…」
「昨日お渡ししたお代が足りなかったと、追加料金を払いにきたんです!」
「落ち着けぇ、旭」
師匠が間にはいって、カウンターを飛び越えようとする旭を押さえる。
そして、陽葵に笑顔を向けてきた。
「昨日、夕方にでたあやかし退治で、ずいぶんと役にたったみたいだ。よかったな、陽葵」
「よ、よかったですぅ…」
救われた、またがんばれる。
思わずカウンターに伏せこむ陽葵に、旭が「でですね!」とたたみかける。
「陽葵様の霊符と護符をください!」
「おいおい。まだ護符は練習中だ。オレの許可は出してない」
「であれば練習品でいいので!」
「それは俺が責任とれん」
「大丈夫です!責任は自分がとるんで!」
「あのなぁ」
「破棄になるなんてもったいない!自分が少しでも有効活用しますから!」
旭の顔はキラキラと輝いている。
無垢なその笑顔は陽葵と師匠をひるませた。
最終的に、無償、という条件付きで――旭は高額を積もうとした――陽葵の練習した護符を引き取っていただくことになった。
それでは道具屋の顔がたたないので、同枚数の護符を旭が半額で購入するということで手を打った。
霊力の量と質が担保できない分としてだ。
「まったく……」
早速、昨日練習した護符と陽葵の霊符を買い取った旭は、上機嫌で明るい中を帰って行った。
それを見送った師匠はため息をつく。
「大変なやつに気に入られたなぁ」
「そうなんですか?」
旭とこれまで特に付き合いはなかった陽葵は首をかしげた。
確かに人との距離は近いし、普通じゃないのかもしれない。
「あいつは陰陽省の中でもエリートだよ」
「エリート?」
「あやかし退治の要とも言われてる。なにせ、ほかの人たちよりも退治した数が多いんだと。だから、道具もどんどん買いに来る」
ぽん、と陽葵の方に師匠の手がのった。
「頑張れぇ。こっちの在庫なんて手伝う暇もないぐらい忙しくなる。早く護符も売れるようにしたほうが良さそうだな」




