三、突風の旭
逢魔が時。
夕方になると、あやかしが動き出す。
道具屋の忙しさはこの時間がピーク。
事前に注文したものを取りに来る人、取り置きのものを回収にくる人、直前で足りないと慌てて買いに来る人。
「つかれたー」
「今日は…すごかったな」
「はい…」
今日は太陽が沈む直前に強いあやかしが現れたらしく、いつもより早めに店をあけて、そこからがピーク。
陽葵と兄弟子一人の合計二人で対応しても追いつかず、師匠が在庫運びをしていた。
他の兄弟子は在庫が底をつかないように裏で必死に補充をしてくれていた。
それでギリギリなんとか乗り越えた。
「ここは私が」
「ありがとなぁ、せっかくのデビューの日なのに」
本当は陽葵も一緒に在庫作りをする日だった。
しかし、明日に備えなければならない。
霊符しか作れない陽葵では戦力にならない。
「ありがとなぁ」
げんなりした兄弟子はよろよろと作業場に戻っていく。
残されたのは散らかったカウンターとその中。
陽葵は手早く片付けをして、外を眺める。
すっかり日は落ちて、暗い。
いつもならこの時間もまだ忙しくしているが、今日はもう客はこなさそうだ。
陽葵はカウンターの下に忍び込ませていた作業道具を取り出した。
許可されたとはいえ、まだまだ練習は必要。
それに、霊符だけでなく護符などの次の練習も必要だ。
陽葵は手本を元に、書き始めた。
「っっすいません‼‼」
ぶわりと風が舞い込む。
陽葵が顔を上げると同時に焦った男の声。
「あ、旭さん⁈」
雲をまとった虎から飛びおりた陰陽師 旭はその勢いのまま店に飛び込みカウンターをつかむ。
「霊符を!あと二、三枚あれば‼」
「れ、霊符ですね!」
陽葵は反射的に背後にある霊符の束を確認した。
しかし、そこにあるはずのものがなく、うろたえる。
そうだ、練習の見本にしていたのだった、と思い出す頃には、「これでいいです!」と声が聞こえた。
「ありがとうございます!お代はおいてますので!では!」
「え、あ、ちょっとっ!」
振り返った先に人の姿はなく虎の尻尾がひらりと視界から消えたところだった。




