一、式具屋の下っ端
現代の日本人は忙しい。
仕事は多くなる一方だし、給料は上がらないから働くしかない。
それは『陰陽師』も同様。
かつては朝廷のお膝元にあり、平民から華族問わず民衆から重宝されていた地位も今はなくなった。
しかし、あやかし怪異はなくならない。
そんな彼らを縁の下から支える存在が、あった――。
* * *
「ちび!これ持ってけ!」
「はいぃい!」
「落とすなよ!ちび!」
「わかってます!」
お客さんのほとんどが夕方からやってくるため、ここは夕方から大忙しだ。
ここで一番の下っ端陽葵は店先のカウンターと作業場を行き来していた。
ここは『式具屋 たちばな』。
日本に三店舗しかない、国に認められた陰陽師御用達の道具屋だ。
「すいませーん‼」
「はいい!」
作業所で在庫を準備していれば、受付から声をかけられた。
小走りでカウンターに飛び込む。
そこには血相を変えた、軽装を身に纏った陰陽師。
「取り置きをお願いしていた旭ですが!」
「ああ!はい‼」
カウンターの裏に『旭』と書かれた巾着がありそれを手渡す。
「お代これで!」
「はい確かに」
「助かりました〜!」
そう言って店を飛び出していく。
外は夕暮れ時。
あやかしが増え始めている。
「すいません!あの、お札の、補充を!」
その後もひっきりなしに寝起きの陰陽師が出入りして、すべての対応を終えたのは、夜も更けた頃だった。
「ふぅ」
「お疲れ」
「師匠」
カウンターに倒れこんだ陽葵に声をかけた師匠も、疲れ切った顔をしていた。
「今日は、ひどい日でしたね」
「全くだ」
どかっ、とカウンターの中に置いた椅子に座り込む師匠の目の下にはくま。
「なぁにが『式神が届いてませんか?』だよ!てめぇの不始末だろうが!」
注文は事前に手紙か、急ぎのときは式神が注文書を持ってくることがある。
しかし、最近多いのは式神の怠慢。
式神曰く、彼らも連日の仕事で疲れているが、頑張ってしまう式神ほど、途中で霊力がなくなり、その場で消えてしまうこともあるらしい。注文書と共に。
しかし陰陽師は商品ができあがっていると思ってやってくるから、なんとも始末が悪い。
「まぁ本当に悪いのはあいつらじゃないんだけどなぁ」
「そうですねぇ」
この国は特殊だ。
八百万という言葉があるように、あやかしや怪異の発生は多様にわたり、人が多くなることでそれはさらに増えた。
かといって、彼らの仕事は日の光を浴びることはなく、その社会的地位も保証されていない。
現実は厳しい。
「オレ達は明日の準備をする。ちびも、片付けたら休めよ」
「はい」
師匠が猫背を強めて作業場に帰っていった。
それを見送ってから、陽葵はカウンターを片付けて、自室へと戻った。




